第28話 公爵邸占拠される

 ひそかにルーナ国に潜んでいたものが、まず王宮を襲いエレンを連れ出した。

 そして、辺境でとめきれなかった兵がどんどん王都に向かって進攻してくる。

 この一年間の災害への対応から魔術師達への審議会まで一連の騒ぎがやっと落ち着き、ほっとしたところでの予期せぬ攻撃に対応が遅れた。

 国王は急ぎ兵に指示を出し、魔術宮にも防御及び攻撃を命じた。


「へ、陛下!シルヴェストル公爵!」

 伝令が転がるように執務室に入ってきた。

「公爵邸が占拠されました!!ご家族、使用人すべて囚われてる模様!!」

「なんだと?!どういうことだ?!」

「使者が手紙を持ってまいりました!」

 一通の封書を手渡した。

 手紙には女神を公爵邸に連れてくるように書かれてあった。

「くそっ、女神が狙いでうちに目を付けたというのか!」

 イリークは隣国の兵を退けるべくすでに王宮を出ており、相談することができなかった。


「エルネスト、女神をまずここに連れてくることはできんのか?」

「・・・・。できません。」

 二度と彼女を苦しめたくはない。家族のためにまたその身を差し出せなどと言えるはずがない。

「お主の家族がかかっておるのだぞ!」

「わかっております!」

 エルネストは捕らえられている家族を思うと体中の血が沸騰するほどの怒りと不安にさいなまれた。何か打つ手はないのか。


 考えに考え、一つの結論を出した。

 そして国王のそばの魔術師を見た。

 力のある魔術師はおおむね戦火に身を投じているが、王族を守るために一人は護衛として控えている。

「イリーク殿に知らせてくれ!」

 伝書鳩のような光がスイっと空を飛んで行った。


 そしてエルネストは公爵邸へむかった。公爵邸の門は固く締められ、広大な庭を囲む柵の間からは敵兵がずらっと並んでいるのが見えた。

 ルーナ国騎士団は距離を取り見守ることしかできなかった。

 エルネストが歯を食いしばってにらみつけていると、そっと袖を引かれた。

「アリス!」

「師匠から聞きました。」

「何をしている!私はお前を逃がすようイリーク殿に頼んだのだ!!」

「・・・お父様・・・」

 アリスはエルネストの体を抱きしめた。

「ア、 アリス?」

 初めてのことにエルネストは動揺した。

「うれしかった・・・ありがとうございます。」

 そういってアリスは身を離した。


「今からお母さまたちを助けにいきます。」

「何を言う、どれだけの兵が中にいるのかわからないんだぞ!」

「お父様には魔法が使えるということはお話しましたが、どれほど使えるかは言ってませんでしたよね。」

「いや、女神と言われるだけの力があることは知ってるよ。しかし聖なる治癒魔法は争いには適していない。」

 アリスはエルネストの手を取ると

「私は今日のために魔法・魔術を鍛えに鍛えてきたのです。引けを取ることはありません。それに私にはルイスを気に入ってる聖なる獣の守護があるのです。合図をしたら突入してください」

「アリス?!」


 アリスはその場から姿を消した。アリスが転移できるほどの魔法師だったとは知らなかった。一緒に各地をまわりアリスの起こす奇跡を目の当たりにしながら、アリスの真の姿がわかっていなかった。いや、隠されていた。

 ようやく心を開いてくれたのかとこんな時なのに胸が熱くなった。


 しばらくして、天を突くように屋敷から光の柱が上がった。

 合図があれば突入するよう騎士団長に頼んであった。これを合図ととらえ、騎士たちは屋敷に突入していった。


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