第25話 恋敵エンカウント 2

「ちかくんが誰のことなのかは知りません。けど、あたしの隣にいる彼は幼馴染です。そういうあなたはどこの誰ですか?」


 この口調は本気だな。カナがここまで怒りを露わにするなんて……。


 そんなカナに対し、


「……あぁ、あの子に聞いていたとおりみたいですね。理解しましたぁ~! わたし、小桜さんと同期だった木ノ本みのりと言います! 覚えてません?」 


 みのりは下から覗き込む姿勢で、自己紹介という名の挑発をしてみせた。


「木ノ本みのり……? それって、あたしが休学した後の?」

「そうで~す! 通路ですれ違った時にあいさつしたと思うんですよね~」

「軽く会釈しただけなので、ちょっとごめんなさい」


 話を聞く限りだとカナは専門学校をやめてないのか。でも休学は似たようなもんだったかな。


 それにしても木ノ本みのり。彼女の狙いがよく分からない。俺にちょっかいを出してきてるかと思いきや、カナをけしかけてるようにも……。


「あはっ、気にしないでいいですよ~。話しかけたわけじゃないので知ってるわけが無いですもん! ただ、気になっただけなんです~」

「何をですか?」


 カナの疑問に対しみのりは俺をチラッと見ながら、


「だって、せっかく預かりから準所属にランクアップするところだったのに、お話を蹴って休学したじゃないですかぁ。もしかしてそれは、そこの男の子のことが関係しているのかなぁと」


 預かりからランクアップ?


 やっぱりカナは声優専門学校で頑張っていたのか。しかし休学してアルバイトして俺の為に彷徨っていた?


「……だから何が言いたいんですか?」

「素直に打ち明ければちかくん……天近すばるくんも受け入れやすいと思いますよ~? ぐだぐだしてると、わたしがどうにかしちゃいますよ? いいですか~?」


 何やら隣のカナから不穏な空気を感じる。何かを思い出したのか、握りこぶしを鳴らして気合いが半端ない。


 まさかここで乱闘でも始めるんじゃないよな。


「…………なるほどね。木ノ本みのり。うん、思い出した。黒幕も分かったんだけど、それでも彼に近づく?」

「――えっ……」

「あたしは本気で動いただけ。なのにあなたからはそれが感じられない。そんな状態、それもに頼まれてまだ続けるつもりがあるなら……」


 どこの格闘家だよと突っ込みを入れたくなるくらい、カナはボキボキと骨を鳴らし始める。


 さすがにやばいと感じたのか、みのりは少しずつ後ずさりながら周りを気にして逃げるタイミングを計り出した。


「あ~っと、天近くん。わたし、待ち合わせしてたからそろそろ行くね!! ごめ~んなさい! また夏場原に来た時はでサービスするね! ばいばい~」

「へっ?」


 ――あっという間に、みのりは俺とカナの前から逃げ出してしまった。逃げ出した方向は駅の方だが。


「ふぅ。すばるくんがまさかお店でサービスを受けていたなんて、お姉さんは悲しいよ」

「ち、違うって!! 受けてなくて、俺はあの時カナのことが気になって……あっ――」

「ほほほぅ? あたしのことが気になってストーカーと化していたわけだな? 正直に吐きな! あたしの陰の部分を覗き見したのだね?」

「……は……い」


 みのりとの戦闘モードが抜けていないカナの迫力が恐ろしい。眼力に加えて、いつでも拳を繰り出せる状態の彼女に逆らえるはずが無いよな。


「うんうん、でもまぁおあいこだよね。あたしもすばるくんにずっと隠してたわけだし」

「じゃあ――」

「ん、声優専門学校は正確にはやめてなくて休学しただけ。でも、ランクアップ後の休学だからやめたも同然なんだよね」

「え、えっと、よく分からないけど、養成クラスからランクアップしたんだよね? そのまま上手くランクアップしていけば正式に所属出来たかもしれないのにどうして……」


 わざわざ俺が暮らすところを彷徨っていたのは俺を探していたんだろうけど、それにしたってもったいない。


「こまけぇことは後でじっくりと話してあげようじゃないか! その前に、あの女をやる気にさせた黒幕のところに行こうぜ!」

「黒幕……」


 どう考えてもしかいないんだよな。俺のことが気に入らなくてカナと俺を引き離そうとしてるといったら奴しか。


「駅に行けば絶対会えるし、そこで全部解決だぜ! 終わったら、すばるくんのお部屋で正直にあたしをさらけ出してやろうじゃないか!」

「……脱ぐのは駄目ですよ?」

「ふふん、今さら恥ずかしがる仲じゃないのに困った男の子だよね、少年は。そこも含めて気に入ってるけど!」


 駅でカナと待ち合わせしているあいつ。それと、みのりが逃げて行った駅で会うのはおそらく――

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