第7話 客寄せドラゴン

「今日はたくさんお客様がいらっしゃいましたね」

「クー」


 僕は、アンジェリカに頷きを返す。まぁ、たくさんと言っても3人だけだけどね。


 アンジェリカが少し上を見つめながら指折り数え始める。


「先生に……」


 アンジェリカに先生と呼ばれているハゲ頭の老人。まるで絵に描いた魔法使いのような恰好をしていた。たしかハーゲとかいう名前の偏屈そうなおじいちゃんだった。名は体を表すとは、あのことを云うのだろう。もしかしたら、あの老人の渾身のギャグだったのかもしれない。


 この先生、偏屈なのは見た目だけで、ものすごく腰の低いおじいちゃんだった。アンジェリカに敬語を使うのは分かる。アンジェリカはお姫様だからね。でも、僕にまで敬語を使ってきたのには驚いたな。もしかしたら、アンジェリカより僕の方が丁寧に扱われているかもと思ったほどだ。


 先生は、ドラゴンの生態に興味があるのか、いろいろ質問してきたな。僕は頷くことと首を振ること、YESとNOしか意思表示できないけど、それでもめげずにいろいろな質問をしてきた。その熱意は、まるで何かに急き立てられているような必死さがあったけど……たぶん、僕の気のせいだな。


「お父様」


 先生の次にやって来たのは、なんとこの国の王様だ。アンジェリカのお父さんだね。たしか、名前はランドルトだったっけ…?横文字の名前は馴染みが無くて覚えづらいな。間違っていたらすまん。


 王様は30代半ばくらいの見た目で、ダンディーなおじさまだった。この人からアンジェリカみたいな美少女が生まれるのは、納得してしまうくらいのイケオジだったな。大きな体で、鍛えているのか、けっこうゴツイ体格をしていた。細マッチョではなくゴリマッチョだ。でも、なんだか疲れているように見えたな……王様ってなにをするのか分からないけど、それだけ激務なのかもしれない。


 そんな王様だが、娘の前だからか、優しい目をしていたが……僕には分かる。アレは媚びを含んだ目だ。たぶん、アンジェリカに嫌われたくないのだろう。アンジェリカは、こんな清楚な見た目だけど、年齢的に反抗期真っ最中のはずだ。父親として、アンジェリカには嫌われたくないという媚びを感じたな。媚びの視線は僕にも向いていたけど、たぶん娘の使い魔にも嫌われたくないのだろう。もう、なんていうか「いざという時は頼むぞ」という縋るような目をしていたな。いざという時は、僕を仲立ちにアンジェリカと仲直りするつもりなのだろう。


 あんなにかっこよくて、王様なのに、やってることは世のお父さんたちとなにも変わらないらしい。


「あとは、宰相ですね」


 宰相は、名前をすっかり忘れてしまった。すまんな。愁いを帯びた50代くらいの品の良い上流階級のおじさまというのは覚えてるんだけど……たぶん、ああいう人のことをロマンスグレーと云うのだろう。


 この宰相、なんだかひどく落ち着きが無く、緊張しているようだった。まぁアンジェリカみたいな、すごい美少女とお話するってなったら緊張するのも分かる。宰相という偉い立場の人なのに、意外と心は純情少年のようだ。


 でも、僕がアンジェリカにお菓子を食べさせてもらう時、必ずビクッと体を震わせていたのは、なぜだろう? まさかとは思うが……宰相は、アンジェリカにガチ恋してるんじゃないか? それでお菓子をアンジェリカに手ずから食べさせてもらっていた僕に嫉妬したんじゃなかろうか?


 でも、僕が宰相に目を向けると、僕を媚びたような目で見てくるんだよなぁ……。あれは、嫉妬しちゃうけど、自分の恋を応援してほしいという彼なりのメッセージだったのかもしれない。


 正直、応援と言われても困るなぁ。こういうのはアンジェリカの意思が大事なことだしね。


「国の中枢を担う方々が3人も……」


 たしかに3人は、国王をはじめ皆が国の権力者だ。それにしては、3人とも腰が低かったなぁ。偉ぶった態度なんて全く取らなかった。権力者というと、ソファーにふんぞり返って猫でも撫でていそうなものだけど……3人ともすごく謙虚だったな。


 それにしても、国の中枢が3人も代わる代わる来るなんて、暇なのかな?


「皆様、ルーのことを見たかったのかもしれませんね」


 笑顔で僕の頭を撫でるアンジェリカ。アンジェリカの言うように、それもあったかもしれないな。客寄せパンダならぬ、客寄せドラゴンだ。


 先生からドラゴンは希少と聞かされていたからね。その希少生物であるドラゴンを一目見たかったというのはあるかもしれない。


「さて、それでは、そろそろお部屋に戻りましょうか」


 そう言って僕を胸に抱いて立ち上がるアンジェリカ。どうやらここは、アンジェリカの部屋ではないらしい。応接間みたいなものだろうか?


 さすが、お姫様の住んでる離宮だわ。一般ピーポーだった僕には、なにもかもスケールが大きく見える。


「それからお風呂にも入りましょうね」

「ファ!?」


 お風呂!? もしかして、アンジェリカと一緒にお風呂に入れるの!?


 こんな美少女と一緒にお風呂……想像しただけでドキドキして、クラクラしてしまいそうだ。

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