召喚に応じたらハーレムができた件~ドラゴンに転生した僕の甘々甘やかされ生活~

くーねるでぶる(戒め)

第1話 転生ドラゴン

 ハッと気が付くと、僕は暗く狭い空間に閉じ込められていた。辺りを見渡そうとすると、コツコツと頭をぶつけてしまうほどの狭さだ。ここはどこだろう? たしか、僕は……大きなトラックに轢かれて……。


『あなた! 今、音が!』

『ああ! たしかに聞こえたね』


 熱に浮かされたようにボーっとする頭に、人の話し声が響く。女と男の声だ。僕は助けを求めて声を上げる。


「クァ……」


 しかし、口から出たのは掠れたアヒルの鳴き声のような音だ。口が思うように回らず、意味のある言葉が紡げない。


 困った僕は、まるで何かに突き動かされるように、壁を叩く。ここから出たくて、2人に気付いてほしくて。


 腕は、まるで鉛で固められたかのように重く動きも感覚も鈍い。それでも一生懸命に目の前の壁を叩く。


『がんばれ!』

『がんばって!』


 壁の向こうから、男女の応援する声が届く。いやいや、気付いてるなら助けてよ。


『がんばれー!』

『がんばれ!がんばれ!』


 なんだこれ? どうなってるのこの病院? ナースコールどこなの?


 ―――ピシリッ!


 若干の苛立ちを籠めて目の前の壁を殴ると、壁にヒビが入った。ヒビから微かに光が漏れている。この壁、硬いけど薄くて脆

い?


 外に出られるかもしれない。


『『がーんばれ!がーんばれ!がーんばれ!』』


 外はなんだか楽しくなっちゃてるみたいだし……。


 リズミカルに応援し始めた2人の声援を受けて、僕は反応の鈍い手足を総動員して、まるで駄々をこねる子どもみたいに暴れる。壁に頭突きまでする始末だ。


 ―――ピシピシッ!



 だけど、その甲斐あってか、壁のヒビはどんどんと広がって、大きくなっていく。あともうちょっと。そんな予感があった。


 パキンッ!



 思いっきり頭突きしたら、ついに壁を突き破った。眩い光に包まれて、一瞬目が眩む。僕は反射的に目を瞑ってしまった。


『おお!』

『かわいい!』


 2人の男女の声に目を開けると……。


「ぴぎゃぁあああああ!」


 目の前に、とても大きな白銀の恐竜の顔が二つもあった。怖い。


 スマートな印象を抱かせる逆三角形に近い顔に、大きなツノが4本。僅かに開かれた口からは鋭い牙が覗いている。僕なんて

一口で飲み込んでしまえるだろう。青く澄んだ瞳には、人間のものとは違う大きく縦に割れた瞳孔。そこからはなんの感情も読み取れず気圧されるものがあった。僕は思わず俯いて視線を逸らす。


 え…?


 俯いて見えたのは、妖しい艶のある白い丸みを帯びた壁と、その壁から突き出ている白銀の鱗に覆われた2本の腕。そう、腕だ。だって、そこには僕の腕があるはずで、その腕は僕の意のままに動いて―――


 何これ? 夢? ハハハ、夢だね。夢に決まってる……。



 ◇



 夢じゃありませんでした。


 あれからもう3日は経つのかな? 寝たり起きたりを頻繁に繰り返してるから日付感覚が曖昧だけど、たぶん3日は経ってると思う。その間に僕は、4つのことに気が付いた。


 1つ目。

 たぶん僕は、一度死んで生まれ変わったんだと思う。夢にしては感覚がリアル過ぎるし、一向に目が覚める気配が無い。最初は訳が分からず混乱した。知らない場所で自分が人ではなくなっていたのだから当然だね。でも、3日もすると慣れるしかない。まだまだ違和感の方が大きいけど、これもじきに慣れてしまうだろう。まさか、「あの上司、いつか轢き殺してやる!」なんて浴びるように酒を飲んだ僕が、家への帰り道で大型トラックに轢かれて死んじゃうとは……。これも因果応報ってやつなのかな?


 2つ目。

 僕がこの世界で初めて見た白銀の恐竜。どうやら僕のパパとママらしい。僕は白銀の恐竜の子どもに生まれ変わったようだ。最初に閉じ込められていた暗く狭い空間。アレは卵だった。


 3つ目。

 たぶん、この世界。僕の知ってる世界じゃない。異世界だ。パパとママ、アレはどうみてもドラゴンだ。僕知る限り、あんな立派な体躯に大きな翼の生えた恐竜なんて存在しない。

 見た目は、西洋で考えられていた、よくファンタジー作品に登場するドラゴンに近い。ガッシリとした手足に、白銀に輝く立派な体。尻尾が長いからか、でっぷりというよりも、スマートな印象を受ける。控え目に言ってもカッコイイ! 僕も成長したら、ああなれるのかと思うとテンションが上がる。

 しかも、飛べる。パパもママも優雅にお空を飛んでいる。物理的に空を飛べるとは思えないのだが、実際に飛んでいるのだから仕方がない。もしかしたら、物理法則が違うのかもしれないな。異世界だし。


 4つ目。

 この世界、どうやらある程度の文明があるようだ。僕たち親子が住処にしている大きな洞穴があるのだけど、その中は、まるで白亜の神殿のような荘厳な造りになっている。柱の一本一本、天井から床に至るまで真っ白な石でできており、柱や天井には、シンプルながら綺麗な模様が刻まれている。天井にはシャンデリアのような物までぶらさがっていて、洞穴の中を照らしていた。

 そしてその奥には、精巧な金銀財宝が無造作に山と積まれていた。金銀くらいなら分かるけど、中には虹色に輝く不思議な金属だったり、瑞々しい花や木の枝だったり、七色に光る宝石だったり、まるで海を思わせる青い金属だったり、正体の分からない物がいっぱいある。ドラゴンの居る世界だ。もしかしたら、ファンタジーな宝物かもしれない。ミスリルとか。


 その中でも特に注目したいのが、服や装飾品があることだ。どちらもドラゴン用ではなく、人間用の物に見える。少なくとも、人間あるいはそれに近い格好の知的生命体が居るみたいだ。もしかしたらエルフやドワーフなんてファンタジーな種族も居るかもしれない。


 僕が気付けたのは、このくらいかな。あと、これは確定ではないんだけど、どうやら僕たちドラゴンは、祀られているようだ。洞穴の中に在った宝物の中には、明らかにドラゴン用の物があった。今、僕の目の前に置かれている精巧な彫刻が刻まれた大きな器や杯なんかがそうだ。体の大きなドラゴンに、こんな細かな細工ができるとは思えないから、人間のような知的生命体からの捧げものだろう。


 まぁドラゴンなんて居たら、祀っちゃう気持ちも分かる。願わくば、僕のパパとママが生贄とか要求するタイプの悪いドラゴンじゃないことを祈るばかりだ。


 ドラゴンは強いというのが定番だけど、同じくらい英雄によって倒されるのも定番だからね。


 ぐぎゅるー!


 考え事してたらお腹空いてきたな……。


 僕は今、洞穴から出てすぐの所にある草原で座っている。時折吹き抜けていく風が気持ち良い。空気も澄んでいて、美味しい気がするけど、空気じゃお腹は膨らまない。


 今日は天気が良いので、洞穴から出てお外でご飯を食べるらしい。目の前に置かれた大きな器や杯は、僕用の食器だ。銀色に輝く食器には、見事な細工が施されている。たぶん銀製だと思うけど……いったいいくらくらいするんだろうな…? この大きさだと、軽く億とかいきそうだ。使うのがちょっと畏れ多い。


『ルシウス、ただいま帰りましたよ』


 直接頭に響くような女性の声に空を見上げれば、上空に舞う白銀のドラゴンの姿が2体見えた。2体とも口に何かを咥えている。パパドラゴンとママドラゴンが帰って来たらしい。生まれたばかりの赤ちゃんドラゴンを置いて二人で出かけるのはどうかと思うけど、たぶんこれがドラゴン流の子育てなのだろう。ちなみにルシウスというのが、僕の名前らしい。


 2体のドラゴンは、音も立てずにふわりと着地すると、僕の前にそれぞれドサリと口に咥えていた獲物を落とした。一角獣のようなツノの生えたイノシシと、トリケラトプスみたいな恐竜だ。どちらもすごく大きい。


『良い子で待ってましたね。偉いですよ、ルシウス』


 まるでずっと僕を見ていたかのように語るママドラゴン。ママドラゴンは、ひょいっとイノシシを咥えると、上空へと空高くぶん投げた。どんな首の力してるんだよ!?


 ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


 空高く舞い上がったイノシシに向けて、ママドラゴンが口から火を噴く。これがあの有名なドラゴンブレスってやつかもしれない。すごい迫力だ。


 重力に引かれて、僕の目の前に置かれた器へとドサリと落ちてくるイノシシ。毛むくじゃらだった体毛は消え失せ、表面がこんがりと焼かれたイノシシの丸焼きの完成だ。プスプスと脂が弾け、とても食欲を誘う良い匂いがする。相変わらずワイルドすぎる調理方法だ。


『さあ、召し上がれ』


 僕は早速イノシシに齧り付こうとすると……。


『まぁ待ちなさい、ルシウス。こっちの肉も美味しいぞお』


 そう言って、トリケラトプスの肉を小さく噛み千切り、僕の器に盛りつけていくパパドラゴン。


 たしかに、トリケラトプスの肉から良い匂いがするけど、生肉はちょっとまだ抵抗が……。僕は焼かれたイノシシ肉へと齧り付いた。


 齧ると、表面がパリッと弾け、濃厚な脂の味が口いっぱい広がる。普通なら噛み千切るのに苦労しそうなものだが、ドラゴンの体のおかげか、まるでバターのように噛み千切れた。柔らかい肉を噛むと、口の中で肉汁がジュワリと溢れ出す。美味しい。塩コショウもしていない肉だというのに、こんなに美味しく感じるのは、ドラゴンの体だからだろうか? いくらでも食べれそうなくらい美味しい。


『またわたくしの勝ちね』


 イノシシを狩ってきたママドラゴンが勝ち誇ったように言う。


『こっちも美味しいと思うんだがなぁ……』


 そう言うパパドラゴンは少し寂しそうだった。今度はパパドラゴンの狩ってきた物を食べてあげようかな。焼いてくれたらね。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 活動報告にちょっとえっちなSSを投稿しています。

 もしよろしければ見ていただけると嬉しいです。


https://kakuyomu.jp/users/ieis/news/16817330666241294788

https://kakuyomu.jp/users/ieis/news/16817330666771633781

https://kakuyomu.jp/users/ieis/news/16817330667130235754

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