第17話

「いいか、ミライ。自殺しなかった事は褒めてやる」

「え?」

「でも、さっきも言ったけど、“自分”の敵にはなるな」

「う、うん?」

「今すぐ、理解しなくていい。ただ、覚えておいてほしいんだ」

「わ、分かった……あの!」

 勢いに流されて口を挟めなかったけど、ようやく口にする。

「どうして……自殺しようとした事を責めないの?」

 聞くのは怖かった。だけど、今聞いておかないと、絶対に後悔する。そんな予感がした。

「何言ってるんだ!」

 おじさんは笑顔を浮かべた。大きな手に、頭を撫で回される。


「君が死ねなかったのは、最後の最後で“自分”を大事にできたからだ。それを責めるなんて、おかしな話じゃないか!」


 ぼくは呆気に取られた。そんな考え方、した事もない。

「ミライ。よく聞くんだ」

 こちらを覗き込む瞳に、父のそれが重なった。少し前にいなくなってしまったけど、よく覚えてる。

 あれは、ぼくに何かを伝えようとする目だ。

「死のうとする事と本当に命を断ってしまう事は、まったく別物なんだよ」

「……自分を、大切にできたから?」

「うん、そうだよ」

 子供にするように、よしよしと頭を撫でられる。ぼくは自然と、懐かしい気持ちになった。

「人間生きてるとさ、辛い事がヤマほどあるんだ。誰かの力を借りてどうにかできる時もあるけど、そうじゃない人だって沢山いる」

 その言葉に、過ぎる想いがあった。

 ――周りが信じられなくなっていた。

 家族も友人も優しくしてくれたけど。どこかで、自分は迷惑しかかけていない、いらない存在なんじゃないかって思ってた。

「結局さ。自分を守れるのは、自分しかいないんだよ。――俺もこうなって、ようやく実感した」

 おじさんの目には、涙が滲んでいた。

「誰かの為に頑張って――“自分”を粗末にするなんて、本末転倒だよね」

 泣き笑いをするおじさんに、ぼくは何も言えなかった。

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