第10話
「亜佑美……?」
ポカンと口を開けて、おじさんが呟く。
「徹ー! 入るわよー!」
「どうして、ここに……」
困惑するおじさんをよそに、女性は遠慮なく靴を脱いで上がる。
「全く……外に鍵、置きっぱなしだったわよ。いくらわたしがいなくなったからって……うわ、きたなっ!?」
ぼくらをすり抜け、廊下をズカズカと進んでいた彼女は、部屋の惨状に悲鳴をあげた。
「鍵が、置きっぱなしだった……? いや、そんな筈は……」
ふと、女性の後に続いてぼく達に近付いてきた黒猫が目に入り、ぼくは目を見張る。
「ミア!?」
「お疲れ様、ミア。お陰様で助かったよ」
コユキはひょいとミアを拾い上げると、定位置の肩に乗せた。
「まったく……ひと使いが荒いんだから。いくら急ぎだからって、外に放り出さないでよね」
「すまなかったねえ……だけど、きちんと鍵を届けられたみたいで安心したよ」
その一言に、ぼくは息を呑む。まさか、コユキの仕業だったとは。
おじさんはぼくらの様子に気付く事なく、ただ女性――奥さんの後ろ姿を見つめていた。
「こんなに汚して……今日、出社してないんでしょ? あなたの会社から連絡あったわよ」
「そうか……まだ、君の番号を消してなかったんだだけ」
「まったく……わたしがいないと、ホントに駄目なんだから。これじゃあ、何の為に離婚したんだか……」
目尻に涙を滲ませながら、奥さんはゴミを拾い集める。
そんな彼女に、おじさんは何も言えないみたいだった。
「……徹?」
一向に応えがない事に、不審を覚えたようだ。顔をあげた奥さんは、不安げに瞳を揺らす。
奥のリビングへと目をやり――抱えていたゴミが床に散乱した。
「徹!!」
自身の亡骸に駆け寄る奥さんの後ろ姿に、おじさんは手を伸ばした。
だけど、その姿に彼女は気付かない。――死人だから。
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