第6話 虫のよくない話

 虫に聞くところによると、中には、死について考える虫がいるらしい。


「俺たちはいつも人間たちに踏みつぶされている。それなのに、人間は、人間の死の際に悲しみにくれる。まったく、虫のいい話だ」


 同情はいらないらしいが、虫だって死ぬときには、ちょっといつもとは違うと言っている。


「死ぬ瞬間というのは、人間もそうらしいが、とたんに、時間の進み方が超ゆっくりになって、人生いや、虫生に起きたいろいろな出来事が走馬灯のようによみがえってくるんだ」


 おまけに、一つ一つのシーンにちゃんと後悔や喜びの感情も一緒にくっついてくるというから、良いことはいいけど悪いことは、耐え難いようだ。


 そうこうしているうちに、時間の進み方は何百倍もゆっくりと進んで、完全にストップした時が、死ぬということらしい。


 そして後片もなくなってしまう。


 だが、その虫は、疑問に思うことが一つあると言っていた。


「しかし、なんで、俺たち一族は、こうして、何億年も前から、繰り返し虫として生きているのだろうか。死ぬことによってすべて無くなってしまったはずなのに」

 

 そんなこと人間だってわからないさ。



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