第8話 一晩明けて
次の日、起きるといきなり事件が起きていた。
「なんでこうなった?」
息苦しいと思ったら、レイチェルが俺の上にうつ伏せで乗っていた。
しかも俺の服を着ている為、ブカブカで胸がチラチラと見えてしまっている。
「んっ……」
レイチェルがモゾッと動いた。
そのせいで俺の体にレイチェルの胸がさらに押し付けられる。
俺は感じたことのない感覚に襲われた。
「女の子って本当に柔らかいんだな……」
俺がそんなことを呟くとレイチェルが目を開けた。
「…………おはよう」と俺から挨拶をする。
「………………!」
目の前に俺の顔があったことに驚いたのだろう。
レイチェルは寝起きとは思えないほど目をぱっちりと開いた。
そして、俺の上から退こうとする。
「おい、ちょっと待って……」
俺たちは寝る前に繋いだ手を離さないように布でお互いの手を縛っていた。
当然、俺の体は引っ張られる。
「うわっ!」とお互いに声をあげた。
視界が真っ暗になったと思ったら、ふかふかの感触が両頬にあった。
なんだ? と思い、体を動かすとふかふかの正体が分かった。
俺は不可抗力でレイチェルの胸に顔を埋めていたのだ。
レイチェルと視線が合う。
彼女の顔は真っ赤だった。
「きゃ~~~~!」
レイチェルの絶叫が朝の森に響いた。
「あの……そろそろ機嫌を直してくれない?」
「…………」
レイチェルは俺が朝食を作っている最中も、朝食を食べている今も殆ど口を開かない。
「胸を触られた…………」
レイチェルは潤んだ瞳で言う。
やめてくれ。
そんな顔で言われたら、罪悪感が増す。
「それは君が引っ張ったからだろ」
俺が反論するとレイチェルはプイッとそっぽを向いた。
「トイレを見られて、裸を見られて、ついに胸を触られた。ううん、触られるどころが顔を埋めてた…………」
「トイレは避けられないことだし、裸を見たこと、胸を触ったことは事故だ!」
「そうやって、事故とかトラブルとか言って、次は私の股間に顔を埋めるつもりなんだ! 小説みたいに!」
「何があったら、俺が君の股間に顔を埋めることになるんだよ! 現実にそんなことは起きない!」
「それに男の人と寝たのも初めてだった」
「その言い方はやめてくれるか!?」
なんだか別の意味に聞こえる。
「とにかく、これからしばらくはこの状態なんだ。少し慣れてもらわないと困る」
俺が言うとレイチェルは何かを思いつき、笑顔になる。
多分、碌なことを考えてない。
「やっぱり、ここは平等にする為、アレックスのを見せてもらうしかない。ううん、私の胸を触ったんだから、私にも触らせて」
予想は当たった。
歪んだことを言い出したぞ。
なんで視線が俺の股間に向いているんだよ!
「平等って言うなら、なんで下を見ているんだよ。俺が触ったのは胸だろ」
言った後にこの言い方は問題がある気がした。
また、レイチェルに何かを言われると思ったが、彼女は無言で俺の胸を触った。
「なんでいきなり触った!?」
「だって、触っていいって言ったから」
一体、いつ、俺が許可を出したっていうだ?
でも、まぁ、胸を触って満足されるなら、それでいいか…………
間違って下半身を触られたら、俺だって理性が飛んで、レイチェルが大好きな小説みたいな展開に突き進んでしまうかもしれない。
「結構、鍛えているんだね」
レイチェルは俺の胸板をぐいぐいと押した。
「まぁ、これでも軍人だからね」
けど、どんなに体を鍛えても身体強化魔法の才能が無かったので、戦闘の役には立たない。
見せかけの筋肉だ。
「凄い、小説で書いてあった通り、男の人の体って私と全然違う」
レイチェルは好奇心で手を動かしているだけだろうが、俺は思わず変な声が出そうになってしまった。
「おい、もうやめてくれ」
「えっ、なんで? もう少し…………」
「とにかく駄目!」
「うぅぅ……怒られた」
レイチェルはしょんぼりする。
「えっ、いや、ごめん…………」
そういう表情をされると焦ってしまう。
「じゃあ、もう少し…………」
「駄目!」
「アレックスのいけず」
レイチェルは上目使いで言う。
いけず、なんてよくそんな言葉が出てくるな。
「俺は可憐な少女を助けたと思ったのにな…………」
俺が呟くとレイチェルはムスッとした。
「その認識は間違ってないよ。私は美人って評判だったお母様に凄く似ているらしいの」
いや、君が美人なのは十人が十人、認めると思うよ。
問題なのは発言とかでさ……
「そういえばね。お母様はお父様の屋敷のメイドだったのだけど、浴場でお父様の体を洗っていたところを突然、押し倒されてそのまま…………」
おい、聞いてもいないことを話し始めるんじゃない!
「……で、私が生まれてってわけだよ」
酷い馴れ初めだな!
しかも娘にばっちり把握されているしさ!
「だから、昨日が私の処女喪失かな、って覚悟した」
「そんな覚悟をしないでくれ!」
「命を助けてもらったし、しょうがないかって思った」
「思わないでくれ! 俺は初対面の女の子を押し倒したりしない」
「そうだったね。私が馬乗りになっていたね」
「…………レイチェル、君って多分、物理耐久もかなり高いよね? 引っ叩いてもいい?」
女の子にこんなことを言うなんて自分でも驚きだ。
「多分、アレックスに叩かれたくらいじゃ何ともないけど、SМがしたいの? 私にはそんな趣味は無いけど……」
「そんなつもりで言ったわけじゃない! そして、やっぱり君は全然可憐じゃない!」
「ど、どうして!? 私は穢れを知らない十七歳だよ。新品だよ、新品!」
レイチェルは胸を張って、宣言する。
「少なくとも俺の基準では、自分を『新品』なんて言う子を可憐だと判定できないよ!」
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