第15話 意外と優秀。だけどちょっぴり玉に瑕
「マギー! マギーはどこだ!?」
「あ、やべ。アズール様だ」
マギーがそう声を出すと、廊下の奥からアズールが姿を現す。
「まったく、お前という奴はふらふらと! 僕のお付きという自覚は……シオン姉さん? チッ、ルーレンもか」
彼は
するとマギーが、怯えに体を小さくするルーレンを庇うように立つ。
「なんすか、アズール様?」
「なんだじゃない! 夕食後は調べものをするから書斎から辞書を持って来ておけと言っただろ! それなのにこんなところでドワーフなんかとさぼって。お前にドワーフの獣臭さが移ったらどうする? 僕が
「はい、さ~せんね」
それに対して、アズールもまた不満顔を見せた。
「相変わらず無作法な奴め、お前は僕のお付きでありゼルフォビラ家のメイドなんだぞ! それなのにいつまで経っても!」
「私はアズール様と違って物覚えが悪いんですよ。それよか、なんのようでしたっけ?」
「おま、あ~もういい! 辞書だよ辞書!」
俺は二人のやり取りを見ながらこっそりとルーレンに声を掛ける。
「凄いですわね、マギーは。横柄な態度を取るアズールを軽くあしらってますわ」
「クスッ、いつもこんな感じなんですよ、マギーさんは」
「そうなの? あなたの方は大丈夫、ルーレン?」
「え? ……ええ、いつものことですから」
問うた中身は、ルーレンに対するアズールの態度。
だけど、彼女はいつものことだからと流した。
俺はこれ以上このことには触れず、マギーとアズールへ視線を移す。
二人はいまだにワーワーと言い合いを行っている。言い合いというか、アズールが一方的にがなり立てているだけだが。
俺はそんな二人の姿を目にして思う。
「いくらマギーしかアズールの相手ができないと言っても、二人は
「たしかに一見無茶苦茶のように見えますが、実のところアズール様はマギーさんを評価していますから問題にならないのだと思います」
「評価? 失礼ですけど、そのような要素は一つも?」
「ふふ、そう見えますよね。だけど、見ていてください」
少しだけ悪戯っぽい笑いを見せたルーレンに促され、二人を見つめる。
二人は――
「辞書辞書、うるさいっすね。ちゃんと部屋に置いてましたよ」
「は? そんなものは――」
「午後は執務机じゃなくて応接用のテーブルで勉強するって言ってたじゃないですか? 資料関係が嵩張るから広いテーブルの方がいいって言ってたでしょ。だからそこに置いたんすけど」
「え?」
「それとアズール様が欲しがりそうな資料は纏めてファイリングして置いてますよ。ちゃんと種別に分けて、付箋も付けて」
「そ、そうなのか?」
「香辛料・メニセルを使ったお茶の準備もできてますし、一息入れるためのお菓子も用意してます」
「あ、うん」
「あと、何か足りないものありますか?」
「……ない」
「それじゃ、お部屋に戻りましょう。シオン様、失礼します。ルーレンも。さぁさぁ、アズール様戻りますよ」
「こら、僕に気安く触れるな!」
そう言ってマギーはアズールの背中を押すように歩いていく。
俺は二人の姿を見つめ、口元を緩める。
「フフ、あの小生意気なアズールもマギーに掛かれば形無しのようですわね。それに、思いのほか優秀そうで」
「ええ、マギーさんは凄いんですよ。頭が良くて、強くて、記憶力も良いし、家事や洗濯も得意で、気遣いもできますから」
ルーレンは
彼女にとってマギーは友達以上に尊敬する人物のようだ。
そのマギーの声が届く。
「まったく、メニセルのお茶なんてよく飲めますね。香りも味も薬みたいで不味いのに。はぁ、あれの用意をすると、こっちは気分が悪くなるんですけどね」
「ふん、それはお前が本物の味を知らぬ庶民だからだよ」
「その割には好んで飲んでるのはアズール様だけですよ。もしかして、アズール様、味覚が……残念?」
「おい!
二人のやり取りを眺めつつ、俺はルーレンに尋ねる。
「ルーレン、気遣いできていますか?」
「えっと……ちょっとだけ口が悪いのが玉に瑕なだけなんです。本当ですよ」
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