②
お茶会の会場はきらびやかだった。
手入れの行き届いた広い庭には季節の花は色とりどりに咲き乱れ、緑の木々の新芽が美しい。
その庭の中央、均一に刈られた芝生には大きな大きなテーブルが置かれ、染みひとつないテーブルクロスの上には豪奢な造りのカップやソーサー、ティーポット。
さらに庭の花に負けない色彩豊かなスイーツが並んでいる。
「ここに並ぶスイーツは各国の名産品を使ってこしらえたものですのよ」
そう自慢気に語るのはホイップ国のホイップ姫。
艶のある長い髪と切れ長な瞳は高貴さと美貌を感じるがどこか冷たく鋭い印象だ。ちなみにお茶会のスイーツは各国の名産品から作って提出するようにと言い出したのはこの人らしい。仕切り屋?
「私の国、ホイップ国の名産品は生クリーム。見て、このカップケーキのホイップクリームの見栄えの良さ」
一番端に座っているのに、ホイップ姫の甲高い声が一番遠い席に座るメルトの耳に響く。
「このツノの立ち方、素晴らしいわ。やはり私の国のホイップクリームは世界一。他の国の生クリームなんて比べものにならないですわ」
おーほっほっほ、と高笑い。
その一歩後ろで控える御付きの執事はツノが立ったような髪型をしていた。
「ああら。美しさならアラザン国の方が上手うわてでしてよ」
そう言ってホイップ姫の隣でしゃしゃり出てくる姫がいた。
アラザン国の姫君、アラザン姫だ。
アラザンのようにつぶらな瞳をぱちぱちさせ、小さい身体をふんぞり返らせる。ドレスには細かいビジューがたくさん装飾されている。
「見てこのアイシングクッキー。私の国自慢のアラザンでこんなに輝いてる。小さいのにこの輝き! まるでダイヤモンドでなくて?」
ちなみに、奥で控える執事もアラザンのように小さい。
(国の名前とシンクロしてる的な?)
いつの間にか火花を切り出すホイップ姫とアラザン姫をよそにその隣でうつむく姫の姿があった。
そばかすに三つ編みと素朴な見た目のテンパリング国の姫だ。
「どうしよう私の品なんて皆さんよりもはるかに劣ってるわ……」
指を合わせ、うつむくばかりの姫だが、皿の上のチョコレート細工はかなり繊細で技術的な品だった。
「本当はもっと上出来なものをお出ししたかったのに……こんな品では満足できないわよね……」
自信なさげに言うのと反対に目は強気だった。どちらかというと自信に溢れている。
いわゆる“そんなことないよ”待ち。ちなみに天然パーマの執事は一人テンパっていた。
(めんどくさいタイプね……テンパリング国の連中は)
話をふられないようメルトは目をそらした。
「っていうかぁ。どう見ても私マジパン国の優勝に決まってるでしょう?」
そう言って派手な飾り盛り盛りのショートケーキを見せつけるのはテンパリング姫の隣席の、これまた我の強そうなツインテールの少女。名はマジパン姫。
豪奢なドレスに化粧もどの姫よりも完璧に施されているが、ふくよかな体型のせいでドレスも顔もキャッチーな人形マスコットに見えた。
声も動物と妖精を足したようなキャラクターみたいな声。きっとマジパンの食べすぎだろう。執事は優男風で雰囲気イケメンの地味な感じだった。
「ヘーイ初めましてだね。お隣さん同士仲良くしまショウ」
そして最後に先ほどから延々にメルトに話しかけてくるのがグラニュー島のグラニュー王女。
このお茶会唯一の島国の姫君らしく島国育ちゆえか、穏やか且つ陽気で他のメンバーより好戦的ではない。執事も王女と同じくにこやかかつ爽やかでマジパン執事よりイケメン。
この中で最年長らしく他の姫たちもグラニュー王女に強く出る者はいなかった(絡みづらいのもあるかも)。
……以上の五人の姫とメルトを足した六人で本日のお茶会が行われる。
「そういえばメルト姫は今回が初めての参加でしたわよね」
突然ホイップ姫がメルトに言った。
「え、あーそうだけど」
「退屈でしょう」
「は?」
ホイップ姫が目を細めて笑う。
「私たちみたいな小国と天下のデコレート王国、それはそれは規模が違いすぎて話なんて合わないものね」
「そうそう!」
アラザンがホイップの言葉に相槌をうつ。
「今までは何かと欠席してたのも私たちなんて自分と釣り合わないとか思ってたのではなくて?」
「私たちとのお茶会は……とるに足らないってこと……?」
大人しそうなテンパリング姫まで話にのってくる。
(ああん? なにこいつら……やけに私にあたり強いわね)
ズズーっと紅茶を飲んでいるとマジパン姫がけたたましく声をあげる。
「そういえばデコレート王国のスイーツがないじゃない! 執事も先程からいないし、まさか怖じ気づいたとか!?」
「あーそれなら」
「お待たせしました。デコレート王国自慢のスイーツ【ロイヤル・タワー・デコレーションケーキ】でございます」
カラカラカラ……
荷台にのせて登場した塔のように高く豪華なデコレーションケーキに唖然とする姫たちだったが、ケーキの影に隠れていた執事の顔を見てもっと大きな声をあげた。
「え!? ロバ!?」
「初めまして。デコレート王国姫君・メルト姫様に仕える執事のフィナンシェでございます」
「ロバが執事なの!?」
「どういうこと!?」
「ロバって人の言葉喋れるの……!?」
驚きを隠せない姫たち。
ホイップ姫が取り乱す姫たちを自身も取り乱しながら諫めるように言う。
「よく見てみなさい! ロバ顔の人間なのよ! ほら、耳はつけ耳で前肢も手袋か何かなのよきっと!」
「どうして人間がロバに近づける必要があるの!?」
「わけがわからないわ!」
阿鼻叫喚だった。
人間得たいの知れないものに遭遇するとパニックになった自分を納得させるために必死で納得するための理由を探すらしい。
フィナンシェの件はロバに憧れるロバ顔の人という体で落ち着いた。
姫たちの慌てぶりをよそにメルトは一人もぐもぐとテーブル上に並ぶスイーツをもりもり頬張っていた。
「それにしてもビンボー臭いスイーツばかりね」
「「ぴくッ」」
姫たちの動きが止まる。
「見栄えが違うだけで味はどれも似たか寄ったか。それに唯一の見栄だって上の飾りがちょろりーんとのっかってるだけだし。個性がないわね」
ぬぁんですってぇぇぇえ……!?
周囲の湿度が上がる上がる。間違いなく姫たちの怒りで。
「皆様聞きまして!?」
「ええ聞きまきてよ。これが王国に君臨するデコレート王国の姫の本音よ。私たちを間違いなく見下して!」
「デコレート王国と違って私たち小国の特産物はひとつしか出せないからって」
「これ以上ない侮辱だわ!」
「メルト様」
「あによ」
フィナンシェがこっそりメルトに耳打ちする。
「他の国々はデコレート王国と違い代表できる品が少ないのです。それらを使って精一杯自国の誇りを表現したスイーツを貶すような言い方をしてはなりません」
「あらそうなの?」
しかし時すでに遅し。
メルトの発言を聞いた姫君たちは怒りで顔を茹だらせていた。
「や、やっぱり気にくわないわ。デコレート王国」
「私を……いえ、私たちの国や国民をバカにしたのも同然よ!」
「自分が優位に立ってるからって」
「許せない~!」
「あら、皆さんメラメラしてるネー」
完全に打倒メルト(一人除き?)の図が出来上がっていた。
***
「……ヤバいぞこれは」
ロイヤル・テラスの草むらの茂みに隠れながら、ビターとカヌレはメルトの様子をうかがっていた。
来るなと言われて来ないヤツはいない。
戦力外通告を受けるも二人は心配でお茶会の会場まで駆けつけていた。
「いくら小国の集まりだからってあの場にいるのは姫たちだけ。束になればメルトがボコボコにされちまう」
共通の敵。
それは普段互いに仲良くない奴らだって仲良くチームワークが組めてしまう魔法の素材。
間違いなくメルトは奴ら姫君たちの共通の敵になっている。
「ああメルト様」
おろおろカヌレが汗を流す。
そんな彼にビターは「行くぞ」と声をかけ立ち上がった。
「メルトを助ける」
「は? 何を言う。メルト様に私たちは来るなと釘を刺されただろう。それにお茶会に出席していいのは一国の姫とその執事だけ。メルト様には執事役のフィナンシェ殿がついているだろう」
「だぁれェがメルトの執事だっつったよ」
「は?」
ビターがこれ以上ない悪い笑みを浮かべて言う。
「共通の敵をつくらせたのは向こうさんも同じだろ。見せてやろうぜ“チームワーク”」
「お、おまえ」
カヌレは不敵に笑うビターを見て嫌な予感しかしなかった。
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