第7話  人間世界進出(帰還)!

 ワーグナー・エヴィデンス。


 私を、その名に懸けて保護するとまで誓ってくれた、リスガイ王国の人間だ。

 かなりの権力者と見ていい。おまけに、金も持っている。

 後ろ盾としては十分だろう。利用しないわけにはいかない。


 好待遇の裏に特殊性癖がないことを願うのみだ。

 いざとなれば魔法を使えばいいが……。よく目を凝らせば、その衣服には魔法防護が掛かっている。

 二重三重に張られた魔法防御。強引に突破できなくもない、か……?


 これを突破する波長はまだ見つかっていない。突破しやすくなる波長だけでも見つけねばな。

 そのためには、この男の魔法防御の波長の大方の形状を把握しないと……。





 私が拾われた日のうちに、男の家に着いた。予想以上に近かったようだ。

 案外、辺境に住んでいるようだな。


『さあ、ここだ。これから、ここが君の家となる。とりあえず一週間。ゆっくりくつろぎなさい』


 なかなか豪華な家だ。

 庭も広いし。辺境だから地価が安いのか?




 そして、家の中の一室に案内された。


『ここが君の部屋だ』


 ふむ。見事に何もない部屋だな。

 あるのは質素なカーペット、質素な二人掛けのソファ、小さな机、ベッド。

 客間……ではない。急遽用意されたものだろう。馬車の中で、何やら誰かと連絡を取っていたようだしな。

 ある程度の事態には対処できそうだから放っておいた。それに、大丈夫そうな気がしていた。勘は大当たりか。




 とりあえず、ここで一週間か……。


 部屋の中には四六時中、死角なしに私を監視できるよう、魔法具がいくつも設置されているな。

 魔法で隠蔽されているため、見つけにくかったが。一度、一個見つけてしまえば、他のものを見つけるのも容易だった。


 とりあえず、この一週間は魔法の発動も極力控えておいた方がよさそうだ。

 まったく使わないのも怪しまれるだろうから、弱い魔法をたまに発動させ……いや、やはり発動させないようにしよう。

 この世界の魔法発動のプロセスを完全に理解したわけではない。

 まだ危険だ。





 一週間が経過した。

 二、三度だけ。偶発的に魔法を発動させ、部屋の一部を破壊した。必要な犠牲だ。


「ふむ。逃げ出さなかったか」


 朝、私の部屋に男は入ってきた。

 一日三食は提供されていたが、手の込んだ料理ではなかった。栄養バランスこそ申し分なかったが味気なかった。

 生か焼くか、だったからな。ソースが掛かっていただけマシか。


『では、君に教育をつけよう』


 よく言う。

 この一週間、一度も顔を見せなかったくせに。


 本物の親子でなく、私が力を持つ捨て子である以上、仕方がないことか。


「入ってきたまえ」

「失礼します!」


 そう言って入ってきたのは、若い男だった。

 短く切り揃えられた金髪に金の瞳の好青年。腰には一振りの剣が差さっている。


 こいつは……強い? かなり強い。


 いやしかし、巨王や銀狼よりは弱いか。

 しかし、その立ち振る舞いから、ある程度の強さが想像できる。魔力の波長もよく整っている。


 しかし、真の強者はその見た目の強さすら操る。

 巨王、銀狼がいい例だ。

 なんとなく強いってことがわかる程度だ。魔力の波長は少なくとも、配下の動物たちと同じ程度だった。

 あれを動物と呼ぶのかは、よくわからないがな。


 かく言う私も、自身の波長の見せかけを弄っている。

 どうも、今現在の実力よりも波長の方が大きいようだった。

 魔法の波長さえ見つければ、私は誰よりも強くなれるだろうからな。潜在的才能ポテンシャルとやらだ。


 しかし、見た目十歳前後の子供にしては、実に不釣り合いな大きさだった。

 弄っておかないと、いつ、どこで面倒事に巻き込まれるかわかったものではなかったからな。


『彼はガイオス・エラド。まずはこの世界の言語を理解してもらわないと、だからな。彼と戦いながら、言語を身に着けてもらおう』

『……ガイオスで結構だ。よろしく頼む。……えぇっと……名は?』


 残念だが、私は名を持ち合わせていない。

 やれやれ。せめて、私の意識があるうちに名を呼んでくれればよかったものを。

 全員、私を第二皇子様と呼んでいたものだからな。


 私は無言で首を横に振った。


「どうしましょう?」

「名を付けてやりたいのだが……この子には明確な意志がある。言語を習得してからでよいだろう。それまでは、少年、とでも言えばいいだろう」

「かしこまりました」


 なんという雑な……。

 まあいい。こんなことなら、さっさと言語を習得していないフリをやめてしまおう。


 ふぅむ……。正味、二週間当たりが妥当か?

 いや、念話ができ、見た目十歳前後という点を考慮すると……一週間だ。


 一週間で日常会話を可能とする。

 最初の二日は理解できていないフリをしよう。そこからスポンジが水を吸い込むように吸収するフリをすればよいだろう。


「では早速、中庭で行うとしよう。そのローブはまだ着けていていいぞ」


 ワーグナーはそう言った。〈念話テレパシー〉は使用していなかった。しかし、ジェスチャーがある。

 こうして慣らすというのならいいが……おそらく、肉体での会話で言語的な会話を習得させようという魂胆だろう。


 たしかに、ある程度の知能があれば、これは最も効率的な方法……の一つだろう。

 私が戦いしか知らないとでも思っているのだろうか。


 まあ、都合がいい。

 ……が、少し間違えれば誤解が生まれそうだな。注意せねば。

 

  

 

 


 

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