第4話 朝ごはん
俺は天と地がひっくり返るほどありえない光景を目の前に、開いた口が塞がらなくなった。
合コンに参加した、翌日。
午前から大学なので、普段通り朝ごはんを作ろうかと思いリビングに降りてきたのだが……。
俺がいつもご飯を食べている椅子の前に、こんがり焼けた食パンとサラダと目玉焼きが置かれていた。
これだけだと、お父さんが作ってくれたのかと思う。
目を疑っているのは、一度もその席に座ったところを見たことがない義姉妹の二人が朝食を食べていたところだ。
一人は高校の制服姿。一人はピンクのパジャマ姿。
二人とも俺の方に一切目を向けず、もくもくと朝食をとっている。
「お、おはよう」
「「…………」」
これと言って挨拶を返すほどの反応はない。
昨日の合コンで見た、男と普通に喋る二人の姿はどこにいったんだろう。
疑問を残しながら、俺は朝食をとるため自分の席に座った。
対面にいるのはいととさと。
「いただきます」
こんな状況、家族になって初めてなのでどういう会話をすればいいのかわからない。
話題作りのために、合コンで喋ってたの実は俺だったって告白してしまおうか?
「ごちそーさまでしたぁ〜」
悩みながら食パンに齧りついたところで、いとが席を立ってしまった。
なにか喋りたいけど、何も思いつかない。
もんもんとしていたせいで、いとは食器を洗い、2階にある自分の部屋へ行ってしまった。
「はぁ」
どうしたらよかったんだろう?
せっかく男嫌いじゃなくなったんだから、家族仲良くなりたいのに。
「朝食、おいしくなかったんですか?」
眉間にしわを寄せ、不機嫌そうな顔をしたさとが話しかけてきた。
もしかして気を使わせちゃったのか?
「いやいや。すごく美味しいよ」
「そっ。よかったですね」
「ああ。……そういえば、この朝食作ってくれたのって誰なのか知ってる?」
「私ですけど」
「……え」
そんな当たり前のように言われても困る。
「本当?」
「義妹の言葉を疑うって言うんですか」
言葉は冷たいが、まるで甘えるように頭をぽてっと横に傾け、問いかけてくるさと。
「っ。その言い方はずるい」
「?」
甘えてる自覚がないのか。
「まぁいいや。さとの言葉を疑いたくなるのは仕方なくない? 前まで合う度暴言吐かれてたんだけど」
「……そんなこともありましたね」
つい1日前の出来事なんだか?
「なんか心変わりしたの?」
「別に私はしてないですよ。お姉ちゃんが変わったので、私も変わっただけです」
さとは小さい声で、食べている食パンを見つめながら言ってきた。
「私、別にあなたのこと嫌いだったわけじゃなかったですからね。必死に仲良くなろうと寄り添ってくれていたのに、これまで強く当たって申し訳ないです」
「いいよいいよ! そんな気にしてないし」
「そう、ですか」
昨日も見た、納得できていない顔をしたさとは再び無言で食パンを齧り始めた。
今の会話で、男嫌いじゃなくなったわけを聞くならいとから直接聞かないとわからないって知れた。
……にしても、さとは前々からお姉ちゃんっ子だってことを知ってたけど、まさか好き嫌いまで左右されるほどだとは思ってなかった。本人も、悪気があってしてるところがまた予想外。
謝ってきたってことは、治そうとは努力してるんだろうな……。
そんなことを考えながらちびちび朝食を食べているうちに、いつの間にかさとは食器を洗い終えていた。
あとは2階の自室に戻るだけ。
まだもう少し喋っていたかったな。
そう思っていたとき。さとは階段を登る直前、おもむろに振り返って俺に顔を向けてきた。
螺旋階段がうまく影をつくってどんな顔をしてたのか見えない。
「最後に言い忘れてたことがあります」
「な、なに?」
「――お兄ちゃん。ありがとう」
一言の残し、さとはタッタッタッと軽快な足取りで階段を駆け上がって行った。
「なんのことだ……」
俺は見に覚えのない感謝に、思わず自分がパンを食べてる最中だということを忘れてしまうほど動揺してしまった。
『ありがとう』
甘えるようなとろける声でそう言われたけど、何に感謝されてるのかいまいちわからない。
さとになにかしたっけ?
俺は脳の半分が侵食されるほどの大きな疑問を残したまま、大学へ向かった。
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