第25話 英雄の生還
ヒババンゴの姿から人形に戻る女。
ヒババンゴは口を開く。
「私はおまえの
そして元聖騎士ハサンこと、シオリだ。」
そうか。元聖騎士なら三鈷剣を知っている。
何故盗んだのか?
そして、何故ジンタンから姿を消したのか?
シオリが、ジンタンや、
タンレンの前から姿を消す日の事を
セシアらに話してくれた。
それは驚きの真実だった。
老賢者ルビクが病気による衰弱死した。
すると、召喚者が死んだ時、
シオリの身体が急激に変化した。
召喚士が死ぬとき、なんと
『聖騎士はアヤカシ』となるのだ!
これは当時のシオリも知らなかった理。
聖騎士召喚の際に、召喚士と聖騎士は、
魂で繋がると同時にマーラに囚われる。
聖騎士は召喚士が生きている限り
死ぬことはない。
しかし、召喚士が死ねばアヤカシとして
マーラに魔として生きることとなる。
魔獣ヒババンゴの姿になった時、
シオリは絶望していた。
しかし、絶望は一瞬。
ジンタンとタンレンから姿を消した。
いつアヤカシとしての
本性が出るか分からなかったからだ。
可愛い我が子ジンタンの離れるのは、
命が切り裂かれる程の痛みがあったが、
ジンタンを守るには、
自身が彼らの前から
消えることだと思っていた。
いつ我が子を食い殺すかもしれない。
いつ理性が飛ぶか分からない。
だから母として愛するが故に
ジンタンとタンレンから姿を消したのだ。
だがシオリの理性は死んでいなかった。
少し聖騎士時代より
荒ぶる衝動はあったものの、
獣化はコントロール出来たのである。
子どもへの愛は日増しに増えていく。
子を愛さない親などいない。
親になったからこそ分かる心情なのだ。
ある日里を歩いていると、
虐待されている女の子を見た。
様子を観察していると、
虐待は日常のようだった。
そこで獣化して、女の子を攫った。
女の子に我が子
ジンタンの面影を見たのである。
女の子の名はメイ。
攫った時は、とても怯えていた。
でも、愛情を注ぐうちに
二人は本当の親子のような間柄となった。
時間が空いてるときには、
剣術や魔法を教えた。
メイはどちらかというと魔法に強く、
本人も努力家であった。
魔法が本職では無いとはいえ、
元聖騎士のシオリに並ぶまで
魔法力が強くなっていった。
ところが、子供をさらった
大猿のアヤカシが出ると村人は恐怖した。
里は冒険者を募り、
ヒババンゴ退治と称して
パーティを編成し、襲撃してきた。
恐怖を植え付けるために、
敢えてパーティの一人を残して、蹂躙した。
生き残ってる者の前で、体を膾(なます)のように引き裂いて、
そいつの前で臓物を引き抜いてやった。
逃げ帰るものにも、立ち尽くし恐怖で震えるものの、失神した者にも
「次に私達の前に敵として立ちふさがるのならば、明日は我が身と知れ」
と心に植え付けさせた。
恐怖を伝染させる為だ。
何度かヒババンゴ退治の部隊も送られたが、
返り討ちにした。
その内の何人かを玄関に『飾る』。
生き残った者は口々にある事無い事を噂にする。中には寝込む者、冒険者から足を洗う者もいた。
時のカンデンブルグ王から、ウェーダー宛に討伐命令が出た者の生き残った者はいなかった。
やがて魔獣ヒババンゴは実害以上に
噂の方が大きくなっていった。
犠牲者には心底気の毒だとは思ったものの、
メイを、守るためと割り切った行為であったとシオリは続けた。
そしてシオリはこう述べた。
それは根幹を揺るがす陰我であった。
「アヤカシに殺された者はアヤカシとなる。」
死の輪廻。そしてアヤカシは、
魔王スマターが滅びるか、
聖騎士が浄化しないと天に召されないのである。
「そしてセシア。お前に言いたい。
お前は聖騎士の従者ではない。
聖騎士がお前の従者だ。
今回の旅にメイを連れて行ってくれ。
外をみせてやってくれ。
ジンタン我が子、ジンタン。
母を許してくれ」
シオリは、そう言って泣き崩れるのだった。
セシアは言った。
「分かりました。メイを、預かりましょう。
ではあなたには、召喚士として
召喚獣として契約してもらいます。
これでメイやジンタンとも会えますね。
さて。三鈷剣はどこですか?」
シオリは泣きながら、洞窟の湖を指差す。
つい、懐かしさを覚えて、
三鈷剣を盗んだのだと言う。
かつての相棒三鈷剣。
三鈷剣で一度自身を貫こうとした。
浄化したかった。
しかし自死は認められない。
三鈷剣を持ち去り、湖の底に沈めたのだと言う。
湖を見ると、そこまで深くない場所に
三鈷剣は沈んでいた。
そして三鈷剣が青白く光出す。
セシアは叫ぶ。
今だと思った。
《トホカミエミタメ、トホカミエミタメ。
今こそハサンを復活させよ!》
三鈷剣の光は大きくなり、やがて小さな塊が、
だんだんと人間の形を作っていく。
洞窟と湖上全体を照らす大きな光。
霊体のハサンが何処から現れ、
肉体に宿る。
ハサンだ!
ハサンは一目散に湖から出ると
「おーー!寒!せめて剣を引き上げてから
祝詞唱えてくれない?」
と全力で震えた。
会いたくて震えるとはこのことだ!
火を炊いて暖を取る。
「今日は復活パーティだな。
ドテチン鍋とマシカの串焼きで
お祝いしよう!」
シオリは腕を振るって
料理仕度を始めるのであった。
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