代替プラン
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「ありがとう、元気出たよ」
「ふふん、そうか? 私はまだいくらでも踊りたい気分だがな」
リンピアが相乗りをさせてくれたのは、明らかに俺を元気づけるためだ。まあ、自分も楽しんでいたのも本当だろうけど。
こんな素晴らしいものを味わってしまって、かえって悔しい気持ちもある。だが落ち込んでいるよりは断然マシだ。気分はスッキリした。
ドメイン形成はさすがにどうにもできそうにない。ブッチギリで高度な技術だ。こうして回路の奔流を感じているとよく分かる。とても模倣も解析もできそうにない、複雑で緻密な回路の集合体──
ん?
回路の流れが、よく分かる?
「これは……」
俺が強制的に戦闘モードを起動したときは、エラーが多すぎてナノメタルが乱れ、回路を読み取れなかった。だが今は正常なシステムを肌で感じ取れる。
「これなら……」
さすがにドメイン関係は無理だ。しかしアーマーの駆動系なら……
ブースターを燃やす強力な動力系の流れを……
運動神経信号を鮮やかに反映する関節の動きを……
人型機械を動かすのに必要な制御回路を……
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「では、私はこのままアーマーで寝る。おまえは仮設テントでしっかり休め」
デスワームを倒したことで周辺のキメラ虫は沈静化中だが、安心して爆睡できるほどではない。見張りは警報装置に任せていいらしいが、警戒は必要だ。
リンピアがいつでも動けるようにアーマーの中で休み、いちおう病み上がりの俺は仮設テントでしっかり寝ることになった。
だが、俺が向かった先は仮設テントではなかった。
↵
『ジェイ、どこにいる!? 緊急事態だ! 敵襲だ!』
リンピアの大声が通信で響いてきた。
仮設テントに俺が居なかったので焦っているのだろう。
『どこにいる!? 急いで私のアーマーに乗って──』
「その必要はない。俺が出よう」
『!?』
俺は『脚』を動かして立ち上がった。
『腕』を動かして、武器を──アーマー用ライフル砲を手に取る。
俺のアーマーは生まれ変わっていた。一回りも大きくなっていて、シルエットはずいぶん太くゴツくなった。
改造したのだ。
アーマーのシステムが俺を拒むというのなら、俺がアーマーのすべてを支配すればいい。そのための形を自ら作り上げた。
「俺はついに、こいつと一体となった……システム、戦闘モード起動」
ブースターが唸りを上げてアイドリングを始め、機体周囲に陽炎が立ち昇る。
俺は、アーマーを、操縦していた。
『この音は……ジェイ、アーマーに乗っているのか!? どうやって……一晩で!?』
通信先のリンピアが驚いている。
「やってみたら、できた。リンのおかげだ」
『……たいしたやつだな、おまえは』
「悪いが俺にまかせてくれないか。戦いたい」
『……いいだろう、やってみせろ。私はバックアップに努める』
リンピアはすでに
戦闘準備を整えながら説明を始めた。
『敵はアーマー3機。チンケな盗賊だ。探知されたノイズパターンに心当たりがある。私たちを目の敵にしていた、底辺ディグアウターたちだ』
「それって……」
『おまえが殴り飛ばしてくれたクソ野郎たちだよ』
「そんなに恨まれてたのか?」
『そのようだな。性根の腐った奴らでな、軽い摩擦の結果……逆恨みだ』
始まりはリンピアたち三人組がとある遺跡から大きく稼いで帰ってきた事らしい。街にやってきたばかりのころで、よそ者がいきなり成果を上げるのは珍しかった。目立ったところに面倒が来た。
クソ共はその遺跡を自分たちの縄張りだと主張し、『手数料』を支払うよう脅迫した。もちろんそんな道理など無い。当時はアーマーを多数所有しているグループだったので、リンピアたちを与し易い相手と考えたようだ。そして返り討ちにされた。
以降、奴らはリンピアたちを目の敵にするようになった。
「そりゃひどいな。街には警察とかないのか?」
『よくあることだ。これくらいで警備隊は動かん。それでも評判が悪くなりすぎれば、街には居られなくなるが……』
「ついにブチギレたってことか」
『私が1機で街から出たところを見られていたようだな。好機だと考えたんだろうが……逆に好都合だ。今日でケリをつけてやる』
この襲撃は完全な盗賊行為だ。先日のことが引き金になったのだろう。まだ攻撃はしかけられていないが、撃たれてからでは遅い。荒野という無法地帯で、無許可でここまで接近するだけでも十分な敵対行為である。
『目視圏内に入った。来るぞ』
「了解、こちらから仕掛ける──」
そういえば、アーマーの機体名を考えたんだ。一晩中アーマーを弄り回していたが、最後の数時間はずっと名前を考えていた。俺のアーマーはもはや生まれ変わった。ニールさんたちのものだった頃とはもはや別物だ。新しい機体には、新しい名前がふさわしい。
記念すべき初出撃。せっかくだから格好良く宣言して出撃しよう。
「──ジェイ、『
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俺の機体──ロックフェイスは轟音と砂煙を上げて爆走した。
ブースト全開、前傾姿勢で砂礫や小岩をすべて粉砕しながら直進する……格好良く見えるが、これはまだブースト移動の精度が甘いせいだ。地面の凹凸をうまく計算しながら、丁度良い浮遊具合でのホバー移動……ができていないので、細かい障害物が脚部に当たってしまう。
そんな荒い走行ではエネルギーロスが大きくなるが、俺のアーマーは凄まじい速度を保っている。
すぐボロボロになるはずの脚部も
前方、敵方のボロいアーマー3機が視えた。
雑魚だと直感する。装甲は貧相で、武器もライフル砲一本ずつのみ。薄汚く野蛮で原始的だ。リンピアひとりだとしてもこれで勝てると思っていたのだろうか。思っていたんだろうな、頭も馬鹿なんだろう。
爆走突撃してきたロックフェイスを見て動揺しているようだ。
まるで荒野の怪物でも見たかのように浮足立っている。
『○△□✕!! □□□□□!』
バンバンと砲撃音。
下手くそな射撃だが、何発か被弾する……が、俺の
『□□□□□ッ!! □□□□□ッ!!』
近距離通信が聞こえる。ロボット系フィクションではよくある、敵同士でもパイロットが会話できるアレだ。アーマー間では自然にオープンチャンネルで垂れ流されてしまうものらしい。
山賊のような雄叫びでも聞かせて脅すつもりだったんだろうが、奴らから聞こえてくるのは絞り出すような罵声だ。
……そういやアイツらの声は、あの夜にミュートフィルターをかけたままだった。何かを喋っているらしい、ということは分かるが何を言っているかは分からない。
まあいいか。
俺は奴らのうちの1機へ突っ込んだ。
ただの体当たりだが、破壊力は十分にある。ロックフェイスの機体重量は相手の倍以上はあるだろう。
なぜなら、機体の正面が
特に胸部は三角形に突き出ていて、攻撃的で重量がある。
つまりこれは、アーマーによる衝角突撃だ。
「ぶっ飛べ」
俺のロックフェイスはなんの工夫もてらいもなく敵アーマーにぶち当たり、この世で最も単純な物理原則を体現した。
敵アーマーは胴体を一瞬で圧壊され、軽々と弾き飛ばされていった。
「あーあ、剥がれちまった」
鎧にした岩が、衝撃によって数割ほど崩落している。
この岩は、ナノメタルを接着剤としてアーマー表面に装甲したものだ。ナノメタルだけでも装甲にはできるが、岩を主成分にすることでカサ増ししてナノメタルを節約している。セメントに石を混ぜてコンクリートにするようなものである。
本来ならこれほど巨大な錬銀制御は負担が大きすぎる。対デスワームでやったように無理をすればできなくはないが、処理負荷も銀消費量もコスパが悪すぎて、アーマーを重装甲にするためだけにやる意味は薄い。
これを可能にしたのは『表面装甲』、デスワームから獲得した回路だ。
俺はデスワームの持っていた大量のナノメタルを飲んだ。その際、妙な回路を獲得した。デスワームが持っていた表面装甲回路──『自分の表面に硬いものをくっつける』ということに特化・最適化された回路だった。これによって、運動の邪魔にならない装甲の重ね方がすぐに計算できるようになった。また、肉体表面への接着強度がものすごく上昇した。
この装甲化はアーマーに対しても実行可能だった。
「せっかく、厳選した岩で格好良く貼り付けたのになあ。まあ仕方ないか」
ひび割れた岩を、ナノメタルで補修する。
おっ、金継ぎならぬ銀継ぎってかんじ。これも格好いいんじゃないか?
『○△□✕ッ!! ◯◯◯◯◯!!』
アーマー交通事故から我に返った1機が、ライフル砲で殴りかかってきた。
銃身に刃があり斧のようになっていて、それが振り下ろされてくる。
「それ、蛮族っぽくて格好いいな……俺にくれよ」
ロックフェイスの岩の太腕で防御する。
ガスン!──と音を立てて銃斧は食い込み……岩の表層に挟まれて止まってしまう。
岩は鉄よりも脆く割れやすい。故にクラッシャブル装甲となり、砕けることで衝撃を殺す性質を持つ。
加えて岩の下にはナノメタルが混じっているため、新しい異物を接着することもできる。
結果、ロックフェイスの腕は凶器を受け止め、逆に奪い取ってしまった。
『◯◯◯◯◯ッ!? ◯◯◯◯◯ッ!!?』
「ありがとう、大事にする。じゃ、さよなら」
重い岩の拳をコクピットへぶち当てると、それで静かになった。
残りは1機。
どうしよ、1人くらいは生け捕りにするもんなのか?
『✕✕✕✕✕ッ……!』
最後の1機は、無様に背中をみせて逃げ出そうとしていた。機体が青白い稲妻を纏い始めている。
フライトブーストを起動するつもりだ。それ戦闘中にしたらダメなやつじゃなかったか?
と思ってたら、ライフル砲弾が飛んできた。
バスン、と背中から撃ち抜かれる。フライトブーストのために装甲が開いていたせいで、重要そうな機関部を貫かれているのがみえた。
今にも飛び出そうとしていた姿勢のまま硬直し、無様に転倒……そのまま停止した。
『全敵機の駆動停止を確認。よくやった。初戦としては上出来だな』
リンピアの
こうして敵3機はあっさりと撃破された。
「フフ……勝った……」
勝った。
本物のアーマーに乗って。
自分の手で戦って、勝った。
「フ……ククク……最高だ……最高すぎる……」
それは思っていたよりも静かな喜びだった。
脳天の小さな場所から、細く少しずつ、幸せという感覚が温かい雫のように降り注ぐ。
その幸せは薄まること無く、全身に行き渡り、暖かく俺自身を満たしてゆく。
もうアーマーに乗れない……前世で味わった死に至るほどの絶望が、癒やされ消え去っていくのを感じる。
「最高だ」
この世界に来てよかった。
この世界は、最高だ。
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