第11話 サインボールのプレゼント

田村は明子に案内され、大地の病室へ入った。


その時、二人部屋には、大地と大地の両親だけがいた。


「こんにちは」と田村は言うと、


その声を聞いた二人は、田村の方へ振り返ると一瞬固まり驚いた表情をした。


「こんにちは」と再び田村が言うと、


「こんにちは」とひとみが少し驚いた表情で言ったため、

 

「みんな、どうしたの? せっかくジャガーズの田村選手が、大地に会いに来てくれたのに、一言ぐらいお礼でも言ったらどうなの?」と明子が言った。


「田村さん、ありがとうございます。でも、大地のために来ていただいたのですか?」と幸雄が尋ねると、


「先日、大地君のお見舞いに来ると約束しました。でも、今日はあまり時間がなくて、何もお見舞いの物を買って来られなくて申し訳ございません」


「そんなことで謝らないで下さい。お見舞いの物だなんて、田村さんに来て頂いただけで十分嬉しいですから」とひとみが言うと、


「大地、田村選手にお礼を言わないとだめでしょ」


「タム、ありがとう」と大地は言った。


「いいえ、大地君。早く元気になってね」と言って、田村はボストンバッグからボールを取り出してサインをした。


「大地君、こんな物しかあげられないけど」と言って、大地にそのボールを手渡した。


「ありがとう。野球のボールだ」と大地は喜んだ。


「よかったね、大地。宝物ができたね」と明子が大地に言うと、


「宝物だなんて大げさですよ。今日は時間があまりないもので、申し訳ないですが、失礼させていただきます。大地君、元気になったら、お父さんたちと野球の応援に来てね」


「うん、早く元気になるよ」と大地は明るく言った。



ひとみは、明子に大地を少しだけ見てもらうように頼み、幸雄と一緒に、一階の正面玄関のところまで田村を見送った。


「ありがとうございます。こちらで結構です。あの、失礼ですが、大地君の病気はすぐに治るのですか?」と私は大地の両親に聞くと、


幸雄とひとみに、一瞬間があって、

「実は、大地は白血病なのです。でも、きっと治ってくれると信じています」と幸雄が言った。


田村は幸雄が言った病名に、驚きを隠せなかった。


「大地君が早く治られることをお祈りしています。大地君によろしくお伝え下さい」と田村は言って、タクシーで新大阪駅へ向かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る