第19話 相違

「ご馳走様。美味しかった。すっごく」

「うん! 美味しかった! ご馳走様でした!」


 美味しい物を食べて風音もご機嫌である。ご飯も二度お代わりをしていた。よく食べてよく動く健康的な子なのだ。風音は。


 流伊も分かっていたからか、ご飯もおかずもかなり用意していた。


 流伊は満足そうに俺達を見てうんうんと頷く。


「はい、お粗末さまでした。二人とも美味しそーに食べるから作った甲斐があったよ」


 うんうんと頷く流伊。前世から変わらぬその言葉に苦笑して――




 改めて。二人を見た。



「さて。二人とも。話したい事があるんだが、良いか?」



 そう告げた瞬間、部屋の空気が変わった。否。自分で変えてしまったのだ。


 食事中に切り出すのは論外だ。折角の美味しいご飯が美味しくなくなってしまうから。


 ……本当ならば、このゆっくりした時間を過ごしてからにしようとも思ったのだが。


 今でなければ、勇気が出ないと思った。今を逃せばまた明日話そうと、後に回すと思ったから。


 まず最初に。俺は流伊を見て、名前を呼んだ。


「流伊」

「なーに?」

「風音には病気の事を伝えた」


 そう言った瞬間、流伊が目を見開いた。驚くのも当然だろう。


「……だいじょぶ? 無理してない?」

「ああ。思っていた反応は来なかったから。問題ない」


 流伊が俺のPCを見た時。既に書いていたのだ。


『病気の事を告げると好感度大幅低下。また、部活で調子が出せなくなり、笑顔が消える』


 しかし、現実……ここを現実と称して良いのかは分からないが。


「そんな事は一切なかったし、信じてくれたよ。あ、ええとだな。なんと言うか……」


 この会話、風音はよく分かっていないだろう。説明をしようと頭を回転させるが、上手く言葉は出てこない。


 どうして知ってるのか。ゲームの事を説明せずに話す自信はなかった。


 しかし、風音は首を振った。


「ううん、大丈夫だよ。ボクの事は気にしないで。実際ボクもそんなに気にならないから」

「……そうなのか?」

「うん。他にも話、あるんだよね。ボクはそっち聞きたいな」


 風音の言葉をありがたく受け取り……頷く。


「流伊は知ったはずだが。……風音。【忌み子】って知ってるか?」

「忌み子?」


 やはり知らないか。いや、知ってる可能性の方が低いと思っていたのだが。


「……すまないな。俺もそんなに詳しく知ってる訳ではない。流伊、説明を頼んでも良いか?」

「え? 知らないの?」


 流伊が意外そうな顔で見てきた。俺は頷きながらも説明はしない。まだ出来ない。


「ま、良いけど。えっと、今日読んだ本ではね」


 そうして流伊が説明をしてくれた。


 昔。とある村に【忌み子】と呼ばれる存在がいた。

【忌み子】は存在するだけで周りを不幸にする。

【忌み子】と親しくするな。長生きをしたいのなら。と、そう伝わっている。

 だから【忌み子】はすぐに殺されるか村八分となった。村八分となれば食料困難に陥り、長くとも数年以内に亡くなるのだ。


 でも、【忌み子】の連鎖は止まらない。次から次へと産まれるのだ。


「だから、共存を目指そうとした」

「……え?」



 思わず、間の抜けた声を上げてしまった。


「ん? どったの?」

「い、いや。……一つ、聞いておきたい事があるんだが。良いか?」


 流伊が頷いた。腕に鳥肌が立ちながらも、それを無視して俺は口を開き、


「破れて読めなくなったり、してなかったのか?」

「……? 普通の本だったけど」

「さ、最後まで載ってたのか!?」

「あー。多分?」


 どこか歯切れの悪い言葉。不思議に思っていると、流伊が言葉を続けた。


「途中まで読んでから電話かけたんだけど、戻ったらなくなってたんだよね」

「……なくなってた?」

「そ。元の場所にもなかったから、図書館員の人にイタズラかと思って捨てられたか……」


「誰かが持っていったか」


 続くはずの言葉を俺が言うと、流伊が神妙な面持ちで頷いた。



 考えられる事は二つ。



 ――俺以外にも転生者が居て、その本を持ち出したか。



 そして、もう一つ。





 ――御前様が持ち去ったか。




 何か不都合な事が書かれていたのかもしれない。


「まあ、それは考えた所で分からない。続き、お願いしても良いか」

「あぁ、うん。そこに書かれてたんだ」


 続く流伊の言葉に、俺は言葉を失った。




『忌み子は神に選ばれし存在である。時折、忌み子は不思議な能力を身につける事や何か物を虚空から持ち出す事があった。当時はこれを【贈物】と呼んでいた』


 ――【贈物】


「……?」


 風音はよく分かっていないのか首を傾げていた。


「風音。少しだけ席を外して貰えるか」

「……分かった」


 追い出すようで悪いが、少し流伊と話したい事があった。

 風音が部屋から出るのを見て……俺は改めて流伊を見た。



 流伊に、あの事を話さなければならない。



【忌み子】


 それは一時、掲示板を騒がせた内容だ。


【忌み子伝説】という本の切れ端が見つかったという証言が至る所から広がった。


 その情報を集めた掲示板は盛り上がり、その中でも一つの説がよく囁かれていた。





【主人公は忌み子である】という説だ。

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