第10話 誕生日

「誠彦さんはゴールデンウィークってなにか予定ある?」

「無いね。今年は飛び石だし、もとより人混みが好きではないので遊びにも行く予定も無いよ」


 人混み嫌いは田舎育ち故か? 人よりも野生動物が多い地区に住んでいたものでね。


「そうなんだ……」

「ん? どこか行きたいところとかあったりするのかな?」


 どうせ暇なのだから行きたい所があれは付き合うことぐらいはなんてことないのだけれど。


「そういうわけではないんだけど……」

「じゃあ何?」


 珍しくモジモジしながら歯切れの悪い受け答えをする季里。


「誠彦さんとは一度も遊びに行ったことがないから、遊びに行ってみたい……かなぁ~なんて思ったりして」


「確かに。季里と遊びに行ったことはまだ一度もないな」


 一緒に暮らし始めてからそろそろひと月になるが、一緒に行動したのはスーパーに買い出しに行ったぐらいしかない。

 そもそも僕が季里と一緒にいるところを見られないほうがいいと言っているためになるべく目立つような行動は控えているせいもある。


「だからね、せっかくだから誠彦さんのバイクの後ろに乗ってみたいなぁ……なんて思ったりして?」


「なに、季里はバイクに乗りたいのか?」


「あ、でもスクーターって二人乗り禁止なんだよね?」


「いや、禁止なのはいわゆる原付きスクーターね。僕のバイクはスクーターでも二人乗りが大丈夫なやつだよ。それにゴールデンウィークなら免許取得後一年の二人乗り禁止期間も終わっているし」


 二輪の免許は誕生日の当日に取得した。学園への免許取得申請も親の名義で入学前にしてあったのでそこらへんはスムーズにいったので……。交通手段が寸断されている山奥の田舎ゆえこれは当然だろう。

 バイクは単なる移動が主な目的なので拘りなんてものがなく、ちょうどよく村のバイクショップにあった一二五ccのスズキの中古スクーターにした。自前の貯金だけでは足りなくてじいちゃんに援助してもらったのでとてもじゃないけど新車なんて買えなかったんだ。


「ってことは誕生日ももうすぐなの?」

「ん? 今日は二七日だっけ。明々後日だな、三〇日が誕生日。それ以降なら二人乗りおっけーだぞ」


「いやいやいや! 二人乗り云々の前に誕生日でしょ? お祝いしないと」

「誕生日だからって特別なことはいらないと思うんだよね」


 小学生の頃までは家でも誕生日を祝われたけど、中学生にもなるとそういうのは気恥ずかしいというかなんというかでやらなくなっていた。


「私の命の恩人の誕生日です。盛大に祝わせて頂きたいと思います!」

「……そう? 命の恩人は大げさだけど、祝ってもらえるならお願いします」


 季里がやる気に満ちているようだし、折角なのでお受けすることにしたよ。四~五年ぶりの誕生日祝いってことなので、どうも季里は盛大に祝ってくれるようだった。

 嬉しいか嬉しくないかって問われれば即答で嬉しいって答えるけどね。


 🏠


「ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデートゥーユー♫ ハッピバースデーディアマサヒコ♬ ハッピバースデートゥーユー♪」


 パチパチパチパチ☆


「あ、ありがとう季里。こんな祝ってもらっちゃってなんか申し訳ないな」

「お誕生日なんだからいいんだよ! 一七歳おめでとー」


 リビングにはペーパーチェーンや花瓶に花が飾られたりしてとても華やかだ。折り紙でHAPPYBIRTHDAYって折って飾り付けもされている。凄いな、文字も折れるんだ。


 ホールケーキはさすがに二人で平らげるのは無理ってことで、ショートケーキを二つ、洋菓子店で買ってもらった。ろうそくは、要は気分なので一本だけ。

 代わりに料理だけは季里は気合を入れて作ってくれた。今日は日曜日なので朝イチから自宅から一番近い南武ストアで買い出し。これは僕も手伝った。


 帰宅後は「お祝いされる人は手伝わなくていいから」と言われてリビングでのんびりさせられた。なんか申し訳ないけどここは好意に甘えさせてもらった。


 ダイニングテーブルの上には唐揚げ、ハンバーグ、コブサラダにスペイン風オムレツ、スパゲティナポリタン等々の豪華で少しお子様チックな料理の数々が並ぶ。


「今日はお子様ランチをイメージして作りました! どうぞ召し上がれ!」


 おう、通りで。お子様ランチとはね。


「いただきます! うまっ! やっぱ季里の料理は美味いね!」


「えへへ、ありがとう。一生懸命作ったから食べてね。残ったら明日のお弁当に入れるから無理して食べきらなくてもいいからね」


 そういう気遣いもできるところが本当に季里のいいところだと思う。才色兼備で良妻賢母って感じだよな。妻でもないしお母さんでもないけど。



 食事を食べ終わると季里はいそいそと自分の部屋に戻っていく。


「(? なにをそわそわしているんだろう……)」


 次にダダダっと部屋から出てきた季里は頭に真っ赤なリボンを巻き付けて出てきた。


「はい! プレゼント!」


 僕の前に躍り出て両腕を大きく開いて大の字になって立っている季里。プレゼントって?

 しかもキャミソールにショートパンツというなかなか目の置き場に困るような服装にわざわざ着替えている。


「えっと……なに?」

「だから、プレゼントだよ」


「……どれ、かな?」

「わ・た・し」


「……………………ん? なんだって?」

「だから、プレゼントは私だよ。誠彦さんの好きにしていいよ」


 誕生日プレゼントとして身を捧げて、「美味しく召し上がれ」みたいなやつでしょうか?


「えっと……お気持ちだけ頂いておこう、かな?」

「私じゃ不満だって言うの?」


「そういうことじゃなくてね。ほんとその気持だけで嬉しいかな」

「童貞のくせに……」

「なに? なんか言った?」


 知り合ってひと月でこんなに懐いてくれているし、しかもかなりの美少女に「私がプレゼント」などと言われれば心動かない男はいないだろう。

 でもそれじゃ、それ目的でうちに匿ったみたいですごく嫌な感じ。なんかそうじゃないんだよね。


「プレゼントが間に合わなかったのは悪いけど、少しぐらいはいいじゃない?」

「はぁ……わかったよ。じゃあ、季里にご奉仕してもらおうかな」



………。




「あ……あああぁ、そこ……、きもちい……。もっと強く……」








「誠彦さんってば、若いのにちょっと肩凝り過ぎじゃないの?」

「姿勢悪く寝転んでスマホゲームしていたのが悪かったかな? あ、そこそこ、そこが気持ちいい」


 季里には肩もみのご奉仕でプレゼントにかえてもらうことにしたよ。



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