第10話

 隣街で花火大会があると言う八月下旬。明日には夏期講習があるため、私は学校の準備をしていた。リビングに戻ると、お兄ちゃんに

「茉裕!今、めっちゃ焼きそばとたこ焼きとイカ焼き食べたい!」

「えー、隣街だし」

「俺の分も欲しい」

と風李さんが言う。

「あれ?風李さんいつのまに」

「さっき来たばかり」

察した。なんとなくであるが、二人でいたいと言うことだろう。

「分かった。しばらく帰らないから」

「ごめんねー」

風李さんは柔らかい声で言う

「いいえー」

私はキャップ帽子を被って外に出た。もう夕日も沈み夜になろうとしている寸前だった。本当は花火大会に行くと学校の人と会うかもしれないし、先生も見回りをすると言っていたので、一人で歩いていて痛い目で見られそうで嫌だったのだ。まぁ、仕方ないという気持ちをため息で外に出す。

 時間をかけるため歩きで駅まで向かう。駅の近くまで来ると、会社帰りのスーツの人や夏らしい服装の中に浴衣を着ている子供や私と同じぐらいの年齢であろう人達がちらほらいた。私は下を向きながら改札を通り、電車に乗る。おそらく後二十分もすれば花火が上がるだろう。

 隣街の駅に着くと浴衣姿の人達で駅が溢れかえっていた。私はビックリして一瞬その駅から離れて、スーパーとか違うところで焼きそばやななんやらを買おうかとも思ったが、なんか私も食べたくなってきてしまったので、買いに行くことにした。

 案の定、知っている顔が沢山。同じ中学校出身で違う高校に行った人なんかもいた。とりあえず、焼きそばたこ焼きをゲットして後はイカ焼きだけという時に

「あ、佐名ちゃん?」

私は一瞬止めって振り返りそうになったが人の流れに沿って歩いてその場を凌いだ。

「よかったキャップ帽被ってて」

と独り言を吐いて、イカ焼きを買う。

 そして裏道から屋台がある道を抜けて駅まで向かい電車に乗った。花火は電車の中で見た。 

 綺麗だとは思った。

 あんまり時間が経っていないことに気付き、最寄り駅から近いバス停の前にある公園に向かった。

 みんな祭りに行ったのか公園には誰もいなかった。

 私はブランコに座る。

 私は買った商品を持って音ゲーをプレイ。

 最近暇さえあればこれだ。みんながゲームする理由も分からなくはない。

 気づいたら三十分が経っていた。いや、でもまだ早いかな……と考えた時

「佐名さん」

後ろから声をかけられた。振り返ると意外にも

「え……向月先生」

風李さんが迎えに来たのかと思った。

「よく私だって分かりましたね……」

さて、どうしよう。すごく気まずい。すると先生は隣のブランコに座り

「バス乗ってたら佐名さんみたいな人がいて、一様声をかけとこうと」

「帽子被ってたので誰も気付かないと思ってました」

「案外気付くものだよ」

優しくも少し乱雑に言う。先生が何故私を見て来てくれたのか、それは

「兄がお世話になっているようで……本当にごめん。えっと何年前からだ?兄さんとは」

「さぁ……」

「そうだな……言いたくないか……」

「いや、別に隠してるわけではないんですけど」

「ふーん」

先生はブランコでこぎはしなかったが、ゆらゆら揺れる。私は話題を変えた。

「先生、メガネ外さないんですか?」

先生は私の顔を見て

「外したら兄さんみたいに見えるでしょ」

それはそうだけど……。私が視線を逸らすと

「まぁ、いいや。お気遣いどうも。生憎、僕はメガネは好きじゃない」

そう言いながら外した。

「今なら佐名さんしかいないしねー」

そう言いながら

「お茶三つあるから飲む?」

と提案してくる。

「ご家族の分なのでは?」

「あー、母さんに頼まれただけだし、兄さんのはいいよ。内緒」

といつもの眠そうで面倒に言う。

「僕のはそこの自販機で買う」

そう言ってブランコから離れて自販機で飲み物を買いに行く。少し猫背なのはいつも通り。私はその間に、『友達と会ったので遅くなります』とお兄ちゃんにメッセージを入れた。

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