第3話 記憶

───その時、シャーロットはふとこの会話に既視感を覚えた。


(……?この会話知ってる気がする…)


そんなはずはない。そう頭では分かっている。

それでも、シャーロットは確かに知っていると確信していた。


思い出せそうで思い出せないのが、なんとももどかしい。なんとかして記憶を引っ張り出そうとして頭を悩ませていると、一つの考えが脳裏をかすめた。



(あ、あれ?これって…いわゆる前世の記憶ってやつじゃないかしら!?)


そう考えるとそうとしか思えなくなる。この考えと今見た映像を基にもう一度記憶の引き出しをあさる。


───そうして、前世の記憶の一部を思い出すことに成功した。


(そう、そうだったわ…!私はシェリー・ヒルトン、ヒルトン家の四人兄弟の長女であり末っ子で、ジイゼン村唯一の聖女!そして人生の目標は、[完璧な淑女になる]!)


まだ少ししか記憶は戻っていないが、やっと思い出せた快感に浸っていると、ふとシャーロットは一つすべきことがあると気づいた。


前世で掲げていた人生目標である[完璧な淑女になる]というのを今世こそは達成しなければ!


なぜ今世こそなのかといえば、淑女とは【品位のある、しとやかな女性】とされているが、あの様子では彼女に淑女の未来は訪れなかっただろうからだ。

それは誰でも───例えまだ十歳のシャーロットであっても思うことである。


(あ、いや、けれど今は別に淑女になりたい訳でもないのよね…。そうだわ!今世ver.の目標に改めたらいいのよ!名案だわ!)


今世ではシャーロットは伯爵令嬢として生きているが、どうにも淑女であるよう強いられる貴族の世界は好きになれない。きっと、前世から素質はなかったのだろう。

そう結論づけ、新たな目標を考え始める。


(そうねぇ…何にしようかしら?いっそのこと、前世の目標を淑女要素を消して[パーフェクトレディー]とか?いや、胡散臭すぎるわね…)


我ながらセンスのなさに顔をしかめてしまう。


(そもそもここで言う完璧って、なんでもできる人って意味よね?それなら…[オールマイティー]とかどうかしら!これなら、そこまで胡散臭さはない気がするわ!)


(よし、今世の目標は[オールマイティー]よ!)


いい感じの新目標を作れて気分が上がる。

そして、新目標に向けて張り切っていると、シャーロットが別のことに集中したのが原因だろうか、気づけば先ほど見ていた映像の続きは見れなくなっていた。


更に、先ほどに比べ随分と体は軽くなっていて、やっと夢らしく意識がぼんやりしてくるのを感じる。



こうして、だんだんと意識は遠ざかり、本物の夢の世界へ旅立っていった。



───そのため、この時にシャーロットはなぜ前世の記憶が戻ったのか疑問を抱くことはなかった。気づいていればと後から後悔することとなるとも知らずに。

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