転生してオールマイティ目指したら、5つの顔をもつ悪女(?)になりました
月ヶ瀬 星
一章
第1話 プロローグ
「うっ…、いったぁっ…。あれ…?」
シャーロットはひどい痛みで目を覚ました。
身体のあちこちに鈍痛が走っている。
もそもそと、痛む体を起こして目を開き、今の状況を理解しようと、辺りを見回す。...窓から射す光が傾いている。刻は既に夕暮れのようだ。
なぜこんな時間に寝ているのだろう。
それに───
(どうしてこんなに傷だらけなのかしら?)
伯爵令嬢という身分にはあまりにも似合わない、身体中包帯だらけの状態にシャーロットは思わず首をかしげる。
(そもそも私は何をしていたのだったかしら…)
部屋にはシャーロット以外誰もおらず、誰かに尋ねることはできない。
ぱっと思い出せそうにもないため、記憶を順々に辿っていくことにする。
□■□
───────朝6時。シャーロットは起き上がると、いつも通り人目を盗んで部屋から抜け出し、家の裏手にある森に出ていた。
「ふぅ…。すごい、誰にも見つからず抜け出せたわ!気を付けないと、きっとフローラ達に見つかって怒られちゃうものね。大変だったわ…」
フローラとは、シャーロット専属のメイドのことである。…フローラ自体は好きなのだが、お説教がとても恐ろしいのだ。想像しただけで身震いするほどである。
先ほどの脱出の苦労を思い、大きなため息をつく。
だが、そんな苦労の先には楽しみというのは待っているもので、シャーロットの目の前には自然豊かな森と快晴の空が広がっていた。木が揺れて心地よい音を奏でる。
「わぁ、なんていい天気なのかしら!早く始めましょっ!」
らんらんと眼を輝かせながら声高に独り言を言うと、持ってきた木剣で鍛錬を始めた。
…そう、何を始めるかといえば剣の練習だ。シャーロットは騎士というものに昔から憧れを抱いていた。シャーロットは魔法が使えないため、剣術のみが何かを守る唯一の手段であったからだ。騎士である兄の影響もあるが。
そのため少し前──1年半くらい前だろうか──から毎日こっそりと部屋を抜け出していたのだ。大分剣を振るのにも慣れてきて、最近は時々森の中にいる魔物も少し倒したりして腕を上げるべく練習してきたのだった。
練習を始めて1時間が経過しようとしたときだった。
静かだったシャーロットの右手の茂みから、急にガサリと音がする。
「…?何かしら?」
練習する手を止めそちらを見ると、茂みからFランクの魔物であるフォレストスライムが出てきた。──と思ったら、茂みから次々にスライムが出てくるではないか。
(これは…群れ?)
フェンリルなどは群れて生活するものも多いが、基本的にスライムは個々で動いているはずだ。
少し珍しい光景に一瞬疑問を持つも、すぐにシャーロットの思考は切り替わっていった。
「うーん…倒せるかしら」
魔物は基本的に討伐対象である。一部、人が従えさせている『使い魔』などの例外はいるものの。
シャーロットは少し迷ってから、群れに斬りかかった。
シャーロットは現在十歳で、剣を振れるようになったのだって一年前で、更にこの森以外で武器を使ったことはない。そのため、もちろんのこと魔物の群れの討伐経験などないのだ。
少々不安を感じつつも、好奇心が元々強いシャーロットのことだ。初めての出来事への興味には抗うことなこど不可能だった。
しかし。討伐を始めてから数十分経った頃。
「…………」
汗が額からぽたぽたと流れ落ちていく。
かなりの数倒したはずだ。そのはずなのに、倒しても倒しても、次々に茂みの向こうからスライムは出てくる。
───更にそれからどのくらい経ったときだろうか。シャーロットは剣を振りながら叫んだ。
「はぁっ…!はぁっ…!多すぎないかしら!?群れって五匹~二十匹ぐらいって聞いたわよ!?」
この茂みは、スライムが無限に出てくる仕組みなのだろうか。そんな考えが浮かぶほどに、敵は出て来続ける。聞いていた話と違いすぎて、もはや情報の信憑性すら疑いたくなる。
これでも、幼少期から屋敷の裏にあるこの森で、走り回って遊ぶ日々を送っていたため、体力は比較的ある方だと自負していたのだ。
だが、数の力というのは偉大で、全く討伐が終わる様子はない。それに、そもそもが1時間の練習の後である。倒した数が100を越える頃にはシャーロットは疲れきり、剣も当たりにくくなってきていた。
そして───
□■□
「…って、あれ?これ以降が思い出せないわ…」
思い出そうとしても頭が霞がかって、全く思い出せない。そのあと何があったのだろう。
そこでシャーロットは一つの推測が頭に浮かんだ。
「…はっ!もしかして私、そこでスライムにやられて倒れてしまったのではないかしら!?」
現状と記憶の途切れ方からしてそれが事実のように思えてくる。
そして剣経験一年とはいえど、Fランクという最下位ランクの魔物すら倒せなかったのは今までの努力が足りていなかったと示唆されているようで、思わず唇を噛み締めた。
「…...っ!」
すると、大声をあげたせいか、はたまた怪我をしているせいなのか、またしも痛みがシャーロットに容赦なく襲いかかり、視界はブラックアウトしていった。
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