仮面列士ガタンガトン第十三駅『きみの声』
前回までのあらすじ
地下鉄に潜む“残響獣”
──それは人々の記憶や未練にとり憑き、都市に異常を引き起こす存在。
仮面列士ガタンガトンは、かつて妹を失った青年・
仮面列士ガタンガトン
第十三駅『きみの声』
オレは再び地下鉄に向かっていた。
オフィス街にある地下鉄の入口からそのまま地下鉄構内へ。
時刻は夜。
とはいってもだいぶ朝に近い時間帯。
地下鉄は既に眠り着いている時間。
ようやく訪れた短い休みを享受しているように見えた。
なぜオレがここにいるのか。
あの電車が動いているというのだ。
それは『人を喰らうという謎の電車』。
まことしやかに語られる都市伝説。
あるいは真偽不明な噂話。
そして、その噂話にでる電車に乗ったものは誰一人戻ってこない、という話も一緒に流れた。
単純に都会の生活に疲れたのかもしれない、と最初は思った。
だが、居なくなったのは女子高生からお年寄りまでその年齢層が幅広い。
お年寄りならまだしも女子高生が都会の生活に疲れる可能性は低いのではないだろうか。
要は原因不明なのだ。
こういう場合は高確率で残響獣の仕業であることが多い。
残響獣とはその名の通り獣だ。
獣は本能の赴くまま行動する。
残響獣は言葉を話す獣だ。
獣は人を害をなすだけの存在。だから、駆除すべき。それを担うのはオレなのだ。
もちろんそれだけでは無い。
個人的な復讐もある。
妹は「復讐なんて何も解決しないよ」となんて言うだろう。
分かっている。分かっているのだ。
それでもこの想いはやつらを
ーー残響獣を
ーーそして、妹を殺した残響獣を倒さなければはれることは無い。
そして、この時間にあの電車が動くという噂を耳にした。
あくまで噂である。
しかし、火のないところには煙は立たない。
煙は立ったからには。
そこに残響獣がいる可能性があるならば。
オレの役目だ。
だから、オレは走る。
地下鉄の構内は暗くまさしく獣が口を開けて待ち受けているように思えた。
獣の口はとにかく暗かった。
昼間の賑わいとは逆に静かで、この静けさが余計に不気味さが背中から這い上がるような感じをしていた。
定期券を改札に通す。IC音が妙に甲高く響き、耳の奥をざらつかせた。
階段を降り、ホームの先端で待つ。
やがて、音もなく車両が滑り込む。
電車内はバチッバチッ、と微かな電気がついたり消えたりを繰り返しどうにも嫌な気配しかしない。
その光景にゾッとした。
乗り込んだのはおそらく三両目。
吊り革はゆらゆらと揺れるが、捕まっているものは誰もいない。
両方の座席には老若男女様々な乗客が隙間なくびっしりと座っている。誰も彼も目の焦点があっていない。
どこを向いているかかわからない目、泡を吹く口、だらんと垂れ下がった手、誰が見ても意識が無いのが分かる。
慌てて近くの背広のサラリーマンの手首から脈を取るが、ドクンドクンと動いている。
他の乗客にも脈をとるが、生きてはいた。
少しホッとした。
生きていれば何でも出来る。
どこかにまだ意識がある者がいるかもしれない。
そんな微かな期待を込めて他の車両に行くものの、どこの車両も同じようなもので一気に絶望へと落とされる。
だが、まだ望みはある。
この光景。
明らかに自然に起きたものではなく。
残響獣の仕業だ。
ならば、そいつを倒せば解決する。
突如甲高い音が聞こえた。
ベルの音だ。
『〇〇行き、発車いたします』
ノイズ混じりのアナウンスと共に、扉が閉まる。
そして、電車が動き出した。
通常ならば徐々にスピードが上げていくのだろう。
この電車は違う。
一気におそらく最高スピードまで上がったのだろう。
意識を失っている乗客達も掴まるものが居ない吊り革もそして、オレにも一気に重力がかる。
立っていられなかった。
どこかに掴まればと思ったが、そんな隙は与えてはくれなかった。
かかった重力に体勢を崩し、思わず頭をぶつけてしまう。
そして、オレは気を失った。
※※※
「お兄ちゃん」
声が聞こえた。
優しい女性の声だ。
目を覚ますとオレは椅子に座っていた。
目の前の机にはご飯、味噌汁、焼き魚と和食が並ぶ。
「お兄ちゃん、昨日遅かったの?」
そう語り掛けてきたのは妹だ。
セーラー服の上にエプロンを付けた妹。
ああ、と答えてオレは味噌汁をすすった。
少し出汁の味が強いその味噌汁に涙が出そうになった。
だが、オレは知っている。
妹は既に死んでいるのだ。
あの時、駅のホームから落ちて。
ならば、これは幻覚。
あるいは、過去の幻影。
どちらにせよ残響獣の仕業に違いない。
顔を上げると、妹は笑う。
「お兄ちゃん、ここでなら一緒にいれるよ」
その笑みは歪なものだった。
口角がありえないほど上がり、歪んだ笑み。
妹では有り得ないその笑み。
オレをここに取り込もうとしているのか。
オレは未だ妹のことが忘れられない。
たった一人の家族。
忘れられないはずがないだろう。
忘れた時にヒトは本当の死を迎える。
ならば、オレはきっと生涯忘れることは無いだろう。
「オレは現実に帰る!!」
絞りだせた声は自分の想像以上に大きかった。
その声に圧倒されたのか妹の姿をした何者かが怯む。
「他のヤツらは過去に生きていることを望んだのになぁ」
妹の姿が溶け、そして、本当の姿が現れる。
猪や熊などが歪に合成された不気味なほど気持ち悪いその姿。ギザギザの口、異様に伸びた耳。
声は不快なビブラートをまとい、耳の奥を揺らす。
「俺の名はトレモロ」
「お前が言う残響獣ってやつさ 」
「人間は過去にすがるしか生きていけない。だから、俺がこうやって過去を見せているのさ」
そして、やつは大きく高笑いをした。
高笑いは咆哮のようなものに近くまさしく獣を彷彿とさせた。
「違う!人は前を向ける唯一の動物さ!」
オレの腰にベルトが現れる。
左手を掲げると、手には定期券が現れた。
それをベルトにかざす。
オレの姿が光に包まれた。
そして、現れる。
電車をモチーフにした改造残響獣。
それがオレ。
それが仮面列士ガタンガトン。
赤いムネに左右に走る赤いライン。
新幹線の頭を模したとんがったデザインを仮面に、銀色の姿で、オレは戦う。
「ふん。お前が過去に囚われているうちは俺には勝てんさ」
「知っているさ」
※※※
白い空間は徐々に崩壊していく。
戦いは明らかに劣勢だった。
トレモロは記憶からオレの妹の姿を呼び出し、自分がやられそうになるとその姿に変身をする。
さすがに妹は流れない。
そう躊躇していると、殴ら、蹴られる。
その繰り返し。
「くそ」
卑怯な戦い方とは思わない。
だが、おそらくこのままだと勝てない。
そんな時だった。
ノイズ混じりのアナウンスが車両内に流れた。
『まもなく終点。××に到着いたします。お忘れ物など無いよう降りください』
トレモロの腕がうなりを上げ、オレの仮面をかすめた。
立て続けに蹴りを放たれ、壁際に追い込まれる。
「どうした、過去に怯えるヒーロー!」
また歪んだ笑いを浮かべるトレモロ。
その後ろに妹が浮かんでいた。
また幻影かと思った。
だが、妹が浮かべた優しいその笑みは幻影などでは無い。
「お兄ちゃんなら大丈夫だよ。だって——」
言葉の続きを、車輪のきしむ音がすべてさらっていく。
それでも、妹の口元の動きがはっきりと見えた。
——信じてるから。
声にならなかったその一言が、胸の奥で爆ぜた。
電撃のように全身を駆け抜ける力。
左手に現れたカードをベルトのドライバーに叩き込み、レバーを引く。
「列車、発進! 変身!」
車両が体を包み、金属光沢の新たな装甲が弾ける。
赤と黒のラインが疾走の軌跡を描き、瞳に鮮烈な光が宿る。
——仮面列士ガタンガトン、リコレクトフォーム。
「その姿はなんだ!?」
「リコレクトフォーム。お前を倒す姿だ」
そして、オレは距離をとる。
走る。
トレモロとオレの間に線路が出来る。
全身に力を込め、一気に線路を蹴り出す。
空気が裂け、車両の蛍光灯が一斉に明滅する。
右脚が光の軌跡を引き、トレモロの胸板に突き刺さった瞬間——
金属を叩き割ったような轟音と共に、奴の身体が波紋のように揺らぎ、砂粒が弾け飛ぶ。
胸にヒットして、トレモロは吹き飛んだ。
そして、一気に砂になる。
これは残響獣の特徴だ。
残響獣は負けると砂になる。
これは残響獣の秘密があるそうなのだが、博士からは何も聞いていない。
オレは変身を解き、慌ててまた乗客たちを見る。
乗った時より顔色は安定していそうだ。
一息。
その場にへたり込む。
良かった。
妹はなんて言うだろう。
もしかしたら、「お兄ちゃんは優しいよね。なんだかんだ言って誰かを助けるんだから」と。
「そうだな」と独り言のようにつぶやく。
幻影でも幻覚でも妹に逢えた。
それだけで嬉しかった。
そして、電車は止まった。
だが——
車両の奥、闇の向こうから「カタン……カタン……」と音が迫ってくる。
To be next station
※※※
次回予告
たとえ戻れなくても、人は進み続ける。
でも、その影には必ず“選ばれなかった声”がある。
次回、『仮面列士ガタンガトン』
第14話『影のホームにて』。
そこに待つものとは?
END
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