3-4 終わる夏休み 4
「危なかったね。あの化け物は一時的に封印してやったんだ」
目の前の女子は、片手を眼帯に当てて、手を彼に向けてそう言い放った。彼はその瞬間に、彼女が病気であることを理解した。遺跡であるならいざ知らず、こっちの世界で、そう言ったことをする人種には名前がついている。言葉だけなら、まだ疑うだけだが、眼帯に包帯となれば、彼女が患っている物は一つだろう。
「中二病……」
こてこての見た目に言葉遣い。怪我もしていないのに、包帯を巻いているというのも中々、重症だ。もちろん怪我をしているわけではないだろう。その眼帯も目の怪我をしているわけではないはずだ。何より、赤い瞳もおそらくカラーコンタクトなのだろう。
そして、彼女には彼の呟きが聞こえたのだろう。彼女は釣り目気味の目で、彼を睨んだ。
「ボクは中二病ではないんだ。その証拠に、ほら、ボクにはちゃんと力がある」
そう言って、彼女は腕や手を動かさずに、袖から出ている包帯をふよふよと浮かせている。それは手品にしか見えないが、彼は自分が超能力者かつ、異世界召喚された経緯を持つため、それが手品ではなく超能力的な何かなのだろうとは思った。だが、彼は警戒を解こうとはしなかった。それも当然だろう。中二病だからと言って敵ではないとは限らない。いや、妖精と言うこの世界ではあいまいな存在を彼女た欲しがる可能性の方が高い。
「……いやいや、そう警戒せずともいい。ボクは一般人には攻撃しない。たとえ、君が妖精を使役していようと、手を出すつもりは――」
彼女がそこまで言った瞬間、彼女の目の前に彼がテレポートして、彼女の顔を掴もうとしていたのだ。しかし、彼の腕を何かが抑えていた。それは熊のぬいぐるみだった。手はもふもふしているし、熊の顔もリアルな怖い物ではない。黒い四つの穴が空いたボタンが目になっていて、花には黒い丸い飾りがついている。全身クリーム色。その手にはフェルトで作ったような爪がついているが、その爪で攻撃されれば、傷が出来そうだ。
「
たった今攻撃しようとしていた女子の近くに、彼女よりさらに小さい女児が彼女に寄り添っていた。彼女は小学生のような見た目で、かなり幼い印象を受ける。現状でもかなり顔が整っている。髪の毛は茶色で、ボブカット。繭は細く、大きい瞳は黒。人形のような見た目だ。たれ目で眠たそうだ。
「少しびっくりした……」
彼女は驚いて、尻もちをついていた。彼女の前に少女が立ち、熊の体を触っていた。すると、熊は彼の腕をどうやってか掴み、彼を投げ飛ばした。
「せっかく助けたのに、攻撃するなんてひどいっ!」
「酷いのはそいつだ。彼女たちは使役なんてしていない。僕が彼女たちを縛っているわけがない。彼女たちは僕の一生一緒にいると誓い合った伴侶以上の女性たちだ。この関係を使役だと言ったんだ。それを許せるはずがないっ!」
優しい雰囲気の彼の様子がおかしいのは、異世界で彼女たちに会ってからだった。最上位の契約を結ぶ前から、彼は妖精たち自身のことや、彼女たちとの関係をけなされたり、貶めるようなことを言われると沸点が低くなり、すぐにキレるのだ。妖精たちは彼を止めるつもりはなかった。それは彼女たちも同じ怒りを覚えているからだ。
「そんなこと知らないっ。助けたんだから、おれいくらい言いなよっ!」
子供の彼女には既に姉が攻撃されたという事実が許せなかった。それは彼女の正義、許せないことの一つなのだろう。彼女も一歩も引く気がない。彼女の隣に犬と猫も出現していた。犬は歯をむき出しにして、猫はシャーと威嚇している。熊は既に彼に襲い掛かろうとしている。そもそもその三匹の動物がどこから出てきたのかわからないが、彼もそれを気にしていられるほどの余裕はない。
「
「でも、でも、攻撃してきたんだから!」
少女は怒っているのが誰でもわかるような、体を大げさに動かしながら自身の感情を表現している。それに対して、眼帯の少女はそれを納めるように頭を撫でている。どうやら、中二病でも冷静な人物なのだろうか。
「ボクがやるよ。だから、猩花は見てて」
そう言うと、彼女の袖から大量の包帯が伸びてくる。さらに彼女は眼帯を外す。そこには黒い瞳があった。そして、彼女は眼帯の目に当てる部分を両端から引っ張ると、黒い液体が彼女の周りにぶちまけられた。その液体は地面に落ちることなく、彼女の周りをくるくると周る。輪から外れた水滴もその輪につられて回る。
「さっきのはテレポート? そう言う超能力か。ボクはその力、よく知ってるよ。だから、君は絶対にボクには勝てないよ?」
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