1-4 異世界帰りの精霊使い 4
コンビニの帰り道。ファスとプロイアが何かを感じ取ったようだ。
「シラキさん。誰かが戦ってるみたいです。そんなに離れたところではないようですが、魔獣でしょうか」
「シラキはこの世界には魔獣はいないって言ってたじゃない」
ファスは土の精霊ノームと言う種族であり、プロイアは風の精霊シルフと言う種族だ。精霊は、司る魔気を無尽蔵に使うことが出来る。そして、土と風はそれぞれ、気配を正確に察知できる力がある。二人はそれを使おうと思って使っているわけではないが、何か異様な状態を感知すると知らせてくれるのだ。
「ってことは、人が襲われてるんだ。助けに行こう」
妖精たちは針妙な面持ちで、頷いていた。
彼はコンビニで買ったものを虚空へとしまった。それは彼専用の収納スペースだ。彼は異世界に渡った時に、超能力も得ていた。彼の超能力は何でも、どれだけでも収納できる個人の空間といつでもどこでも繋がることが出来るというものだ。収納と取り出し以外のことは出来ないが、なんでもどれだけでも入るというのは異世界でもかなり重宝した能力だった。今、彼はそこに今買ったものを収納した。そこに入れておけば、そのものの時間は経過しなくなるため、食べ物でも腐ることも、味が落ちることもない。そこに入れておけば安心だ。
「プロイア、ファス。人の気配どっちからする?」
「あっちよ」
ファスがその方向を指さしている。そして、彼はその場から消える。彼がいるのは、空中だ。それもそこらにある家よりも高い場所だ。暗闇であることもあり、誰にも見えないだろう。彼は再び一瞬で消えた。次に現れたのは二十メートルほど進んだところに出現したのだ。それはテレポートだった。異世界でも超能力は一人につき、一つだ。だが、精霊などの契約できる種族の力を借りると、その契約した者の超能力を使えるようになるのだ。彼は四人の精霊と契約しているため、彼自身の超能力を合わせると五つの超能力を使えることになるだろう。だが、それは卑怯やチートと言うものでもない。精霊が彼を気に入らないと自身の超能力を使えるようにするほどの契約をすることが出来ない。異世界での一般的なことではあるが、精霊が契約すると言っても、自身が司る魔法をうまく使えるようにさせる程度のもので、魔法を無尽蔵に使えるようにする契約だけでも、かなり珍しいのだ。それを彼は、異世界で妖精たちを救い出し、閉ざした心を開いて、彼女たちから最上級の契約を迫ったのだ。それだけ、彼が活躍したということを忘れてはいけない。
何度もテレポートをして、林と言うか森というか、と言ったような木の生え方をしている場所に来た。ファスとプロイアが、その場所だと同時に言う。肉眼では、木に隠れて見えない。
「ごめん、みんな。少し隠れていて」
そう言うと、コンビニに入った時のように、妖精たちは姿を消す。もちろん、彼には見えているが、外から見ても彼しか見えないだろう。彼は妖精たちに魔法がかかったのを確認してから、こそこそと地面に降りる。木の下は、思ったよりも見渡せる。木の枝が生えているのは上の方だけで、下の方は木の枝がない。彼は気を背にしゃがんで戦闘の音がする方を覗きみた。そこで戦っている片方はライダースーツのような、体にぴったりと張り付いた服装をしている女性だろうか。もう片方は暗闇の中だと全く見えない。肌も隠しているのか、その輪郭も見えない。彼は女性と思われるその人を助けようと思ったが、助けてもいいものかと迷う。異世界で助けようとした方が、最終的に悪い奴だったなんてことはそこそこあった。この世界でもそう言ったことをする奴がいないわけがない。だが、彼が助けに入る前に、何かが彼目掛けて飛んできた。
「ミツケタ。ニンゲン。アイツのナカマカ?」
彼の前に土の壁が立っていた。それはファスが彼を守るために土の壁を建てる魔法を使ったのだ。
「ファス、ありがとう。あれ、ちょっと気持ち悪い見た目だね。グレイ型のエイリアンなんて。冗談だったら、趣味を疑うよ、ほんと」
土の壁が無くなり、甲高い声の主が視界に入った。それは全身メタリックな灰色で、背丈は妖精の八倍くらい。顔らしき場所には無視のような大きな目がついていて、口に見える場所の奥は真っ黒だ。そして、相手は先端の丸い白い銃のような物を彼に向けている。それを握る手には三本ほどしか指がない。
「ニンゲン。オトナシク、ツイテコイ」
かろうじて、日本語として聞こえる程度の言葉で、彼が日本語だと意識しなければ、何と言っているかはわからないような発音。だが、そこに敵意があることは考えずともわかることだった。
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