決定的に何かが違う世界でも

bittergrass

1 異世界帰りの精霊使い

1-1 異世界帰りの精霊使い 1

「うわ、っと」


 どこかの部屋の中、彼は背中にふわっとした何かに受け止められた。部屋は暗く、自分が今どうなっているかもわからない。だが、彼は直感的に、それが自分の部屋で、自分が倒れているのが、ベットの上だと理解していた。


「戻るときも乱暴なんだよなぁ。まぁ、もう会えないと思うと少し寂しい気もするけど。さて」


 彼は一人で喋っているが、ベットから降りて立ち上がる。自分の部屋なら照明のスイッチがある場所を手でまさぐり、スイッチを押した。パチンという音がして少し遅れて明かりがついた。


「眩しっ。っと」


 一瞬目をぎゅっとつむり、目を薄く開くとやはりそこは自分の部屋だった。姿鏡が自分の目に入り、その前に立つ。ここに飛ばされる前に来ていた薄いチェストプレートや自身の身長の半分ほどある剣とそれを納めるための鞘が腰に括りつけられていたのだが、それもない。今の彼が来ているのは、異世界に召喚されたときに着ていた高校の制服だ。紺色のブレザーに腹部に二つのボタン。ボタンには三つの星が描かれている。下は濃紺のスラックスだ。服装は変わっているが、彼自身の見た目は変わっていない。黒い髪は彼の耳を隠す程度の長さで、細い眉にたれ目で大きな瞳が印象に残る。唇は小さく、桜色だ。身長は百六十ないくらい。見た目だけで言えば、背の低さも相まって、可愛い女性に見えるだろう。現に、彼が無地のティーシャツを来て、ジーンズを履いて、パーカーを着て外出した時にも男性にしつこくナンパされたこともある。声を聞けば、男性かもしれないと思えるかもしれないが、男性としては声が高いため、ボーイッシュな女子として認識されることも多い。本人は自分を男だとわかっているのだが、周りの人、特に初対面だと女性だと間違われるほどの見た目だ。中学生の時は自分の見た目に悩んだこともあったが、今はむしろ人に良くしてもらえることも多いため、その見た目についての悩みはなかった。異世界でも女性と間違えられるほどで、そのため、彼には仲間も少なくなかった。女性も男性も彼の味方をすることが多かったのだ。良いことだけと言うわけでもなく、誘拐に遭ったり、貴族の奴隷になりかけたりと、元の世界では体験する可能性もほとんどないことに巻き込まれることも多々あった。だが、彼はそれほど弱くはないため、ピンチというほどでもなかったことだ。


「それにしても、ほんとに戻ってきたんだなぁ。そう言えば、魔法はまだ使えるのかな」


 彼は鏡の前で、自分の体を動かしながら、適当に独り言を呟いていた。彼は人差し指を立てた。


「フレイズ。火を」


「はいはーい」


 誰かの声がして、彼が立てた指先に小さな蝋燭に灯るような火が出現した。そして、彼の隣には小さな二対の羽の生えた赤い人がいた。


「フレイズっ? なんで、こっちの世界に?」


「えー、だって、今呼んだじゃーんっ」


 小さな空飛ぶ小人は赤いドレスと来た妖精だ。赤い髪をポニーテールで結んでいて、丸く赤い瞳を持っている。その瞳と丸みのある顔のせいで童顔だ。頭にはカチューシャを着けていて、カチューシャの横にはバラをかたどった飾りがついている。赤いドレスは彼女の足まで隠すほどの長さでスカートにはバラの刺繍が縫われていた。妖精と言うだけあって。彼女は十五センチくらいしかない。満面の笑みを浮かべて、彼の顔に自身の顔を近づけて、文句を言っている。


「ボクもいるよぉ」


「すみません、付いてきてしまいました」


「ファスだってついてきたかったから付いてきただけなんだから」


 フレイズ以外にも妖精が出てきた。彼女の後ろに三人の妖精が飛んでいる。


 最初に暗い口調で喋っていた妖精は、ミスト。青い水のような髪を腰の辺りまで伸ばしていて、青い瞳にジト目、青いドレスを着ていて、スカートの裾の辺りには白いフリルがついている。肩には薄い素材の布が掛けられていた。


 二番目に落ち着いた様子で話していた妖精は、プロイア。薄い緑のドレスを着ていて、スカート部分が膝の上の辺りまでしかない。孤心はリボンがついていて、彼女が動くと、その先がふらふらと揺れる。髪はドレスよりも少しだけ濃い緑色で、三つ編みにしている。エメラルドのような瞳で困った顔で彼を見ている。


 最後にツンとした態度の妖精は、ファス。ツインテールの金髪で、少しだけ釣り目で黄色のドレスを着ている。腕を胸の辺りで組んで、ツンとした態度ではあるが、片目を開けて彼の様子を伺っていた。そこから覗く瞳も髪と同じ金色だ。


「……君たちに、また会えるなんて、とても嬉しいよ。もう、会えないと思っていたから。この世界でもよろしく」


 彼は目に涙を浮かべながら、妖精たちを歓迎する。そんな彼をなだめるように四人が彼の近くによって、頭を撫でていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る