1−6 蛙の習性?
え……だ、誰……?
恐る恐る見上げると、そこには私を覗き込んでいる巨人?がいた。
「ケローッ‼」
(キャーッ‼)
思わず叫ぶ私。すると巨人が笑った。
「随分可愛い声で鳴くんだな〜」
そしていきなり手が伸びてきたかと思えば、体を掴まれてしまった。
「ケロッ?!」
(キャッ‼)
気付いた瞬間、身体を持ち上げられて手の平に乗せられていた。
「こんにちは、蛙さん」
その人物……彼は、驚くべきことに蛙の私に挨拶をしてきたのだ。
「ケロッケロケロケロ……」
(こ、こんにちは……)
通じないのは分かりきっていたけれども、私は頭を下げて挨拶をした。
彼は……少なくともあの非道な魔法使いよりは信用できる!と私の蛙の本能が訴えて来る。
「へ〜……まるで本当に挨拶されているみたいだ」
彼はじっと私を見つめてくるので、私もじっと見つめ返す。
凄い……。この彼もあの魔法使いに負けず劣らず美形だ。茶色の瞳に金の髪。あのおとぼけ魔法使いは黒髪に緑の瞳だったけど……。
「それにしても珍しい蛙だな……白い身体に青い瞳なんて。そもそも青い瞳の蛙なんて初めて見た」
そして私の身体を仰向けにひっくり返すではないか!
『キャーッ‼エッチ‼』
抗議の声を上げつつ、叫ぶもケロケロとしか鳴けない私の言葉が彼に通じるはずもない。
それなのに彼は無遠慮に私の身体をジロジロ見る。
も、もうこれ以上我慢できない……‼こうなったら相手が油断したスキに得意の蛙ジャンプ?で……。
そう思った矢先突然くるりと元の姿勢に戻されると、指でそっとつままれて先程の花壇の中に降ろされた。
「きっとこの花壇の中が落ち着くんだろうな。そうだ、庭師に伝えておこう。白い蛙が花壇にいるからそっとしておいておくように伝えておかなければ。それじゃあね、蛙さん。捕食されないように気をつけるんだよ」
そして物騒な台詞を言い残し、彼は歩き去って行った。
『え……?今、何て言ったの……?捕食されないように気をつけろですって……?だったら保護してくれたっていいでしょーっ‼』
私は立ち去っていく青年に向かって、恨めし気にケロケロと叫ぶのだった……。
****
『あ〜あ……それにしてもこれからどうしよう……』
花壇の中から空を見上げてはケロケロと喉を鳴らす私。自分の蛙の鳴き声を聞きたくないのに、何故か勝手に喉からはケロケロと小さな鳴き声が勝手に漏れてくる。
大体、呪われた蛙の私に人助けなど出来るのだろうか?いや、その前に……。
私はじっと、自分の蛙腹を見た。こんなにお腹は膨らんで?いるのに、お腹がすいてたまらない。
『そう言えば……あのアブラムシ……すごく美味しそうだった……』
いつの間にか私の脳内には先程見かけたアブラムシのことで埋め尽くされていた。
『いいや!だ、駄目よ!私は人間……人間は絶対に虫なんか……え?』
するとラッキーなことに、私の眼前のに葉っぱについたアブラムシがいるではないか!
『アブラムシ……』
そして、ついに私は……誘惑に負けてしまった――。
****
『ふ〜……美味しかった……。最初に食べようとしたときは気が引けたけど、食べてみれば意外とどうってことないものね』
どうやら今の私の意識は完全に蛙と一体化?しているのかもしれない。その証拠にアブラムシを美味しく頂いてしまったのだから。
空を見上げればいつの間にか夕暮れになり、空には一番星が輝いていた。
『はぁ〜……それにしてもこの先、どうやって人に感謝される行いをしなければならないのよ……。でも、考えても仕方ないし……何処か安全な場所に隠れて今夜はもう寝ることにしよう……』
そして私は安全を考慮し、出来るだけ葉っぱが生い茂る場所を探し出して身を潜めた。
『おお!これはナイスな隠れ場所じゃないの!』
私は喜び勇んで葉っぱの中に身を隠したのだが……。甘かった。
蛙は夜行性であるということを知らなかったのだ!お陰で少しも眠くならない。
『うう〜……!お、覚えていなさいよ〜!あの魔法使いめーっ!!』
ケロケロと鳴く私の声が、静かな森に響き渡るのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます