私が蛙にされた悪役令嬢になるなんて、何かの冗談ですよね?

結城芙由奈

プロローグ 

  深夜0時――



 部屋の明かりを消してベッドに潜り込むとスマホをタップした。


「どれどれ、今日も小説更新されているかな〜」


 最近、私は巷で噂になっているネット小説に夢中になっていた。それは魔法が存在する世界の異世界ファンタジー恋愛小説だった。


 平民でありながら魔法を使えるヒロインが貴族だけが通える学院に特例として入学し、この学院に通う王子と心を通わせ恋に落ちる……と言う内容だった。


 いかにも定番な内容だったのだが、このネット小説が人気だったのはファンタジー色が強いことと、ヒロインを徹底的にいじめ抜く悪役令嬢の存在が強烈だったからだ。


 この悪役令嬢は王子の婚約者だった。けれど肝心の王子は彼女を省みることをせず、ヒロインに夢中になっていた。

 そこで悪役令嬢は王子の目に届かない範囲でヒロインを自分のメイドのようにこき使い、更にはしつけと称した体罰を与えた。


 そして悪役令嬢の蛮行がやがて、王子の耳に入ることになり……ついに彼女は王子によって処罰される……そこまでが昨夜の話だった。


「深夜0時を過ぎたから作者さん、もう昨夜の続き更新しているはずよね……。あ、あった!更新されてる!さて、悪役令嬢サファイアは一体どうなるのかな……?」


 ドキドキしながら私はスマホをタップした――。




 20分後――。


「はぁ〜あっ?!嘘でしょう?!いきなりの最終回?!し、しかも……私の一推しのサファイアが……魔法で蛙にされるなんて!信じられない!いくら何でもやり過ぎでしょう?いや、もともと婚約者のいる相手に手を出すヒロインがおかしい!王子だって最低よ!」


 思わずスマホを壁に投げつけ、布団を頭から被った。


「う〜……こんな結末絶対に納得いかない……。この小説はサファイアがいなければ成り立たないのが分かっていて、作者はわざと彼女を蛙にして完結させたに違いないわ。さてはネタでも尽きたのかしら?」


 それにしてもあまりに酷すぎる結末だ。これではサファイアはもう何もすることが出来ない。


「可愛そうなサファイア……。私が身代わりになってあげられたら……」

 

 つい、感極まって言葉が口をついて出てしまう。


 それが後ほど、自分の人生を狂わせることになるともつゆ知らず。



そして私は可哀想なサファイアを思いながら、眠りに就いた――。




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