9.困るニーニ<ニールニアロウの談>

 

 

 ………

 

「じゃあ、ニーニと呼んでもいいですか?」

「おふっ、う、ああ、もちろん!」


 

 

 俺の名前はニールニアロウ。

 侯爵家生まれの国境軍人だ。


 話せば長いことながら。

 男だらけの生活をしてきて、いきなりそこに女を1人混ぜると言われ、動揺が隠せなかったワケで。だけど3人の中では一番年上だから、ドンと構えて見せなければと思い、なんとか普段どおりに振る舞ってみたものの。


 あがる。

 心がメッチャあがる。


 そんで、ウキウキが止まらない。

 どうにもこうにも自分が止められない。


 うれし──っ!

 きゃほほほほーい!

 

 フワフワ状態で暮らすこと半年。

 ようやく例の女子と対面の時を迎えた。


 うへえ、可愛い。


 意志が強そうな瞳にスッキリとした鼻梁、小さな口は今にもお喋りを始めそうだ。きっと性格もいいんだろうな。人種は全然違うけど、それが逆に魅力的に映るというか。うん、多分このコは向こうの世界でモテモテだったに違いない。


 はああ、早く仲良くなりたい。


 だけど、出し抜くのは絶対にダメだし。

 そのくせ、他の奴に奪われるのもイヤだなあ。


 葛藤しているうちに、アーサーヴェルトがモモ嬢争奪戦からの離脱を告げる。


 まったく、お前は…。本当はそんなこと、したくないんだろう?自分だけ幸せになることに罪悪感を抱いているから、それで俺達に譲ろうとしてるんだよな?


 くそっ、俺の大バカ野郎!!


 自分さえ良ければいいと、さっきまではそう思っていたんだ。ごめん、2人とも。こんな俺を、モモ嬢が選んでくれるはず無いよ。そうさ、諦めるんだ。哀しいけど、俺はお前達の幸せを祈り続けることにする。いいんだ、恋愛よりも友情の方が大切だから!


 

 なーんて思っていたのに。



 モモ嬢との顔合わせ中に魔獣退治の要請が来たので、即行で征伐を終え。そのあと屍肉を持ち帰り、いつもどおりに焼いて食べようとしたところ、ノウゼンノットハルトさんがモモ嬢にも食べさせろと。


 するとモモ嬢がどうしても料理をしたいと主張し、村の仮住まいに調味料が有るので取って来ますなどと騒ぐから、こうして俺の魔馬に同乗させることに。いや、たまたま今日は俺が食材調達の当番だったからというのが理由なんだけど、それでも本音はワクワクしていたりして。


 へええ。

 胸、無いと思ったけどそれなりに有るんだな。


 ささやかながらポヨンとした何かが背中に当たる。あー、うー、むーん。くそう、何か喋らないと、胸に意識が集中してしまうじゃないか。そんな葛藤を知ってか知らずか、モモ嬢が無邪気に話し掛けてきた。


「あのう、ニー…なんちゃらさん」

「あん?何か言ったか?!」


「ニー…二?ニートは無職、ニンニンは忍者よね」

「ごめん、聞こえないんだ。前に乗ってると追い風を全部被っちゃうからさ」


「名前なんですが」

「ああ、俺の名はニールニアロウ!」


 カッコイイ。


 男らしく名乗った自分に惚れ惚れしていると、

 モモ嬢が間髪入れずにこう言った。


「じゃあ、ニーニと呼んでもいいですか?」

「おふっ、う、ああ、もちろん!」


 くそう、くそう、くそっ、くそ!


 死ぬほど嬉しい。

 女から愛称で呼ばれるとか、憧れ過ぎて泣ける。

 

 ひとりで感激している俺に、モモ嬢はそのまま驚きの相談を始める。最初は聞き違いかと思った。だが、どうやらこの子は本気で言っているらしい。


「あのですねー、魔力量さえ高ければ、お三人さん以外の子を生んでもいいワケですよね?」

「へっ?はっ?」


「私、どうやら好きな人が出来たみたいで。その人と両想いっぽいんですよねえ」

「だっ、だけど魔法にも種類が有ってだな。俺ら三人は火魔法や氷魔法という、戦いに適した攻撃魔法を持っているんだが、そのお相手のタイプは何か分かってる?」


 おいおいおいおい。

 俺達以外で魔力が多いって、そんなの1人しかいないだろ。 


「そっか、種類が有るんですね。今度、本人に訊いてみます。えと、じゃあ、もし攻撃魔法だったら、私は彼と付き合えるってことですか?あ!彼の名前は言えないので、ニーニさんはこの話、内緒にしててくださいね」

「…うん、分かった。それと付き合えるかどうかは即答出来ないな。魔力量がどのくらい多いのかも不明だし」


 特定されていないと思うことの方が、驚きだよ。

 そんなの師匠のはず無いし、どう考えてもあの男だろうが。


「魔力量も確認が必要なんですね、了解です!」

「あー、うん、あ、あああ」


 へなへなと力が抜ける。

 なんだか、早くも失恋してしまった気分だ。

 

 

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