異世界ハニィ

ももくり

1.プロローグ

 

 

 

 どうやら、


 異世界召喚

 

 …されちゃったみたい。





 目の前にいるのは、黒髪ロン毛の若い男性。

 

 神殿らしき場所から早々に小部屋へと移動し、現在は前出の男性とテーブルを挟んで2人きりの状態。神官も王子も、騎士すらいない。常に2人だけでここまで辿り着いてしまった。


 それにしても、何なのこの雰囲気?


 そっちが呼び出したんだから、心の準備が出来ているのは当然だろうけど、それにしても落ち着き過ぎじゃない?いやいや、そんなことよりまずは会話が出来るか試しておこう。意思の疎通、だいじ。


「もしや私は魔王討伐をさせられるのですか?」

「いいえ」


 おお、なんとか通じるぞ。


 って、ん?いま気付いたけど、この人ってなんとなく誰かに似ているような。いや、こんな美形が知り合いにいるはずない。うん、気のせい気のせい。


「じゃあ、瘴気を払うための国内行脚とか?」

「まさか」


 では、いったい何を。


 言葉には出さずパチパチと瞬きだけで問い掛けてみれば、笑みを浮かべたままで無言。ふむ、訊かれていないことには答えない主義ということか。


「召喚された目的は何でしょう?」

「──あのさ、まだ気付かない?」


「は?」

「高校生のキミは図書委員で、今日は受付当番だったはずだよね」


 すごい、なぜそこまで知ってるの?!


「ええ。その帰りに突然、光に包まれて…」

「あのさ、ひとりで帰ったワケじゃないだろ?」


 ん?まさか召喚されたのは私だけではないと?


「も、もしかして一緒にいた彼もこの世界に?まさか、じゃあ今は何処へ?!」

「…ここ」


 へ?


 更に質問を重ねようとする私をスルーして、目の前のその人は話題を変える。


「うん、そうだな、まずは我が国のことから説明しようか。さあ、しっかり聞けよ」


 そして語られる、この国の成り立ち。


 



 この世界に大陸は1つしか存在せず、

 陸地の大半をアシュガルドという王国が占めているらしい。


 その昔、アシュガルドの王位継承争いに敗れた…いや、正確に伝えておこう。7人いた王子のうち、同母ということで第三王子と第七王子が結託。頭脳明晰な第三王子の描く戦略を、武闘派の第七王子が実行していくことで、最終的には第三王子が玉座を奪取した。


 良好な関係だったはずの2人だが、且つて異母兄弟たちを葬り去った刃がいつ自分に向けられるのかと疑心暗鬼となった第三王子により崩壊。密かに殺害せよとの命を受けた暗殺団に追われた第七王子は、彼が長を務めていた軍隊の隊員と共に逃亡。最果ての地へと辿り着き、新たに建てたのが私が今ここにいるイシュタール王国だ。


 この世界には魔法が存在する。


 魔法には魔力が必須で、母体となるアシュガルド王国に於いて優秀な魔法士は王族や公爵及び侯爵に多い。なぜなら、魔力量の多い者へ優先的に高位の爵位を授けているから。通常、魔力量はから遺伝する。魔力を多く有する男性の子を産めるのは、同じく魔力の多い女性だけ。


 つまり男性側は自分の魔力量を受け容れる器を持った女性でなければ、孕ませることが出来ない。


 これがややこしいことに、女性側は相手の魔力量に関係無く…極端な例を挙げれば、魔力を持たない夫とでも問題無く子が生めるのだ。但し、その場合は子供の魔力もゼロとなってしまうが。


 そろそろ話をイシュタール王国へと戻そう。


 建国時にいた魔力持ちは第七王子と僅か3名の側近のみ。これに命懸けで同行してきた王子妃と侍女2名が加わり、どうにかその血脈を繋げた。それでも安心は出来ない。アシュガルド王国からの暗殺者は執拗に第七王子の命を狙い続けていたからだ。


 やがて王となった第七王子が没し、次世代へ移ってもそれは変わらない。いつしか理由は忘れ去られ、慣習と化した戦争について意見が交わされていた会議の席で、当時の王が苦渋の選択を行なう。



「アシュガルドは少数の魔法士で攻め入り、大勢のイシュタール人の命を奪っていく。我が国は魔力を持つ希少な血を失わぬようにと、過度な迄に保護してきた。だが、もうそんなことを言っている場合では無いのだ。血脈も大切だが、このまま失われていく命を看過していれば、この国の発展は見込めぬ。


 今が決断の時だ!高貴なる者たちも参戦せよ!」



 このあと、幾たびかの話し合いが繰り返され。協議の結果、王族と高位貴族の中から選ばれた数名が国境へと送られた。そして早々に大勝利を得たことで、彼等は常駐するようにと命じられる。


 ──そして、恐るべき事態が。


 いつしか戦闘用の人間を

 生み育てるようになってしまったのだ。


 我が子であっても愛情を抱かぬようにと、生まれてから一度も対面することも無く、そのまま国境へと送り出されていく。高貴な生まれにも関わらずどこか人間らしさに欠け、ひたすら闘い続けるその姿はまるでいくさ人形のような。


 この国の平和は、

 そんな彼等の犠牲の上に成り立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 どうやら黒髪ロン毛の説明がひと段落ついたので、私は再び彼に問う。


「んで、何をすればいいんですか?」

「あー、ざっくりまとめると恋のお相手かな?」


「こいの、おあいて」

「ああ、簡単なお仕事だろう」


 なんだソレ??

 思わず半笑いになった私に、彼は尚も続ける。


「アイツら、生まれた時から人間らしい生活してなくてほんと可哀想なんだよ。あ、昔と違って一応、村らしきものが近くに有るといえば有るんだが。とにかく辺鄙すぎて若者は皆んな町へ出稼ぎに行ってしまう。で、結局は老人と子供しか残らない。だからとにかくキミには、彼等と仲良くなって欲しい」


 そんなことのために、異世界召喚を?

 ほ、ほ、ほんきですか?


「いやあ、そんな顔してるけどさ、死活問題だぞ。年々、彼等のモチベーションも下がっていくし、やっぱオンナがいるのといないのとでは、本気度が違うと言うか」


「そんなの、この世界の女性でも良かったでしょッ。なん、なぜ、どうしてッ」


 ここで私は衝撃の事実を知る。


 どうやら異世界から来た女性には、

 自動的に莫大な魔力が付与されるのだと。




 …ということは、

 私は彼等の子供が生める…らしい。


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