安楽死ノート

百入百敷

第1話 始まりは春の憂鬱

友人が自殺をした。

受験が終わり、ようやく高校生になれるという3月の末に、あいつは命を絶った。あいつの机の引き出しからは、薬の空容器が出てきたらしい。睡眠薬自殺だなんて、昔の文豪の真似事かと思ったが、どうやらあいつは上手くいったようだ。

僕とあいつは小学校からの付き合いで、言わば幼馴染みというやつだ。さぞ辛かろうと、周囲の大人達は僕にそう声を掛けるが、実のところ僕はこうなることを頭の奥底で理解していた。去年の12月、終業式の日にあいつに1冊のノートを渡された。受験の願掛けだのなんだのって、とりあえず持っておいてくれ、と押し付けられた。その上、でも中身は見るな、お守りだからなどと無茶苦茶な言いようだった。そして僕はただその言いつけを守って、何もすることなく時は過ぎた。最後にあいつに会った日、突然言われた。

「あのノートはもう用済みだから、好きにしてくれ」

正直忘れていた僕も僕だが、あいつもあいつだ。まぁ勝手な奴だったが、そうかと一言だけ答えた。


そしてその日に死んだのだ。


丁度僕が、あのノートを読んでいた時だった。あれは死に向けての明確な観察日記に他ならなかった。部屋に入ってきてあいつの死を伝える母親から、思わずノートを隠した。何となくその方がいいと思った。あいつが僕にノートを託した意味の重さを、その時に初めて理解した。


そのノートの書き出しは、「安楽死に是非について」という月並みな小論文のテーマみたいだった。

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