第45話 楽外心志の狙い撃ち

「うわっ、それにしてもすごい数……生き物がたくさんだぁ。ばんばんっ、って、撃ち落としたい気分っ」

「やめてくれ。こんなところで殺人なんかしないでくれよ、雨衣」

「殺人じゃないよ――これは、なんて言うの? 蝙蝠こうもりだから――殺蝙蝠? なのかな? かなかな?」

 雨衣が、くるくると指で回していた拳銃を、飛び回る蝙蝠へ向けている。

 だがぼくの注意を聞いてくれたのか、ばんっ、と撃つことはなかった(口では言っているが……それで衝動を紛らわせているのだろうか)。

 雨衣が、なぜ案内人に選ばれたのか、不思議だ――どういう基準で選ばれたのだ?

 本人に聞けばいいとも思うが、しかし、それはなんだか、お前は役立たずだよね? と言っているようにも取られてしまう。雨衣はそれでショックを受けるような子じゃないにしても、言った側のぼくの方が傷つく――。

 まあ、向いていないとは言え、失敗はしていないし。

 ぼくだからこそ、雨衣をつけてくれた、粋な計らいなのかもしれないな。

 黙って彼女についていこう――今日は素直に従ってあげるよ。

 すると、雨衣が振り向いた。

 後ろ向きのまま、彼女は器用に荒れた獣道を歩いていく。

「それにしてもさ、よく分かったね。一週間前のことだけど。楽外心志は、殺されたんじゃなくて、『自殺』だったって。よく気づいたね。どうして? 閃いたの? それとも充分な情報の上で、導き出したの?」

 雨衣は背後の大きな木を、ひょいっと避けた。

 ぶつかる、なんてヘマはしないか――さすがに。

 そう、自殺。

 心志さんの死因は、自殺だったのだ。

 だから殺されたわけじゃない。

 単に、死んでいた、だけだ。

「閃いたわけじゃない、消去法で、それしか可能性がなかったんだ。ぼくの頭だからね、真実はまったく別かもしれないけど――あの状況では、そう答えを出すことが一番、収まると思ったんだ。別に、知らない誰かに押し付けることもできた。たとえばぼくが名乗り出れば、それでその場は収まるだろう? 真偽はどうあれ、さ。楽外も、モヤモヤしなくて済むだろうしね」

「死因の答えを出したのは、楽外指南のため、だったんだね――、ひゅーひゅー、きみがそんなことをするなんて、イメージと違うなー」

「そう? ……そうか。ぼくはそんなこと、しないもんな」

 だろうな。たとえ目の前で死にそうな人がいても、手を差し伸べることはない。見てみ振りをする、なんて気遣いもしない。分かった上で、堂々と知らんぷりをする。

 それがどうだ、ぼくは楽外のために、彼女の心を、楽にさせるために、見つけたのだ。

 あーあ、ぼくのイメージ、ぶち壊しじゃないか。

「良いイメージだよ。わたしからの好感度は上がったね、この銃で、きみを撃ち抜きたい気分」

「殺す気じゃん。どんだけ独占欲が強いんだ、雨衣は」

 好感度が上がっただけで殺されるなんて最悪だ。

 プラスのはずなのに、結果がマイナスって――。

 冗談だけど、と雨衣は言うけど――どうしよう、全然、冗談に聞こえねえ。

 本気で、こいつならやり兼ねない。

「じゃあさ。楽外心志は、どうして自殺したんだろーねー?」

「………………さあね」

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