第24話 ジェラルド様と夏休暇の終わり・後
「あはは! ざまぁねぇなぁジェラル――」
「
ジェラルド様を殴ろうとした男がその手前で弾かれる。
「痛ってぇ!!」
「なんだ!?」
――ざっと音を立て勢いよくジェラルド様の前まで行くと彼を庇うようにして目の前に立つ。
正面には大多数の大柄な男性たち。彼らの視線が一気にこちらに集まり、足が
「……君は!」
「大丈夫ですか、ジェラルド様!?」
「なぜ、ここに!? 俺のことはいいから逃げろ!!」
「何だぁ? このお嬢ちゃん?」
「足震えてんんぞぉ」
「あはは! かっわいい~! 後で可愛がってやるから退けよ」
「退きません!!」
私が叫ぶと空気が変わる。
「……あ?」
「なに、この女?」
「ジェラルドの女か?」
「あー面倒くせぇ一緒にボコっちまえよ、こんな女よぉ!!」
ネイサンに胸ぐらを捕まれる。
――怯んでたまるか!!
「
「!?」
「
風が螺旋を描きながら大地を舞う。風の勢いで飛んでくる土埃から自分を庇うために私の胸ぐらを掴んでいた手が離される。
「クソッ! この女も魔法持ちかよ!!」
「おい、ネイサン! さっきのやつ出せよ! あの女にぶつけてやれ!!」
「持ってるわけねぇだろ!! いくらしたと思ってんだ!! それに、ありゃあ違法なもんなんだ……そう易々と手に入るもんじゃねぇ!!」
やはり、ネイサンはあれを一つしか持っていなかった。もしもの時は魔法でどうにか対処するしかないとは考えていたが……。私は、ほっと胸を撫で下ろす。
「じゃあ、どうすんだよ!!」
「魔法持ちだろうが女一人どうとでもなるだろ! こっちには人数がいるんだ! 取り囲んで抑え込め!!」
ネイサンの言葉に男たちが円を描くように私とジェラルド様を囲む。
――大丈夫。
大丈夫だ。こんな時のために特訓したんだ。キャロルの時みたいなことには絶対にさせない!!
小さく息を吸い込み静かに吐く。そのタイミングで彼らも一斉にこちらに向かって来た。
「
彼らの元に凄まじい落雷が落ちる。
「ぎゃあああああ!!!!」
「うあああああ!!!!」
「うっ……あっ、ぁ……」
次々と男たちが倒れて行く。
ちゃんとセーブしておいたので数日間の入院程度で済むはずだ。
「……君は……こんな力を持っていたのか……」
「ジェラルド様、ご無事ですか!?」
「…………ああ。助かっ……」
「お嬢様!!」
声のした方へと振り返ると師匠とライズさんが居た。
「お怪我はございませんか!? 何なんですか、この状況!!」
「……はい、大丈夫です! い、いろいろありまして。すみません、ご心配をおかけしてしまって」
「……本当ですよ!! どれだけ心配したと思っているんですか!?」
泣きそうな師匠に何て言おうか考えていると、警察の人達がやって来てネイサン達を運んで行く。
ジェラルド様と私も話を聞かれたが彼等は随分と評判が悪く近隣からも苦情が多く寄せられていたそうだ。そのお陰か深くは追及されなかった。ジェラルド様と私は貴族だから絡まれたのだろうと労いの言葉を貰ってから直ぐに解放された。
ライズさんにジェラルド様を背負って貰うと私達の乗ってきた馬車に乗せて、お屋敷まで送り届けることにした。
揺れる馬車の中でぽつりぽつりとお互いに会話がなされる。
「……今日は助かった。この礼はいつか必ずしよう」
「いえ。私が勝手にしたことですので、お礼なんて不要です。……むしろ大変でしたね」
「……助けられたのは事実だ。俺は、借りは作らない」
そう言えば、一人称が俺になっている。これが素なだろうか?
「でしたら、今度カフェテラスで紅茶でもご馳走してください」
「あれの礼がそんなものでいいのか? 変わっているな。……それで、君は俺とあいつらとの関係を聞かないのか?」
「……気にならないと言えば嘘になりますが、根掘り葉掘り聞くようなことではありませんので」
「あんな風に巻き込まれたのにか?」
「あれは私が自分から巻き込まれに行ったんです。それなのに、恐らく踏み込まれたくはないジェラルド様の柔らかい場所に土足で踏み込むような真似をするつもりはありません」
「……そうか」
「はい」
間もなくジェラルド様のお屋敷に着く頃だろう。軽く息を吐く。
「……いつか、君に」
「え?」
「いつか君には話そう。俺のことを」
「……はい」
ぼんやりと外を見ながら、今日はあったことを思い返す。
たくさんお買い物をして、ジェラルド様を見掛けて柄の悪い人達に絡まれていて……。
会話の内容から旧知の仲なのだろう。皆それぞれ事情がある。生きている以上それは当然のことだ。深いもの重いもの辛いもの……いろんなものを背負って生きているし、生きて行かなくてはならないのだ。
――でも。
今日はちゃんと魔法を使えた。ジェラルド様をお守りすることが出来たのだと思わず笑みがこぼれる。胸が温かくなる。この忌まわしいと思っていた魔法で誰かを救うことが出来たのだ。
――ああ、良かった。
私は生まれて初めて自分を誇らしいと思えた。
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