3.不死兵
「不死兵」
その字の通り死なない兵の事をそう呼ぶ。
特に負傷や病により通常生存出来る状態ではないが死亡する事もない者たちを指し示す。
2120年の国境線消滅により、地球上と人類の手が届く範囲の宇宙は秩序が消滅した。
薄い希望を塗りたくった外壁のみが無様に残ったモラルの陰に息を潜めて震える日々が7年続いた。
その間多くの自治区が生まれ、多くの人々が住む場所を変え、新たな秩序が世界に新たな線を引いた。
導火線であった。
新たな秩序が引いた線の上に争いの火が付き、線を辿って広がった。
当然ながら各自治区はこれを見過ごさず、可能な限りすべての自治区の代表者が北アメリカ大陸某所に招集され議会が開かれた。
話し合いは単純且つ短時間で決着した。
「自治区の中でも範囲が小さく、区内での出来事が他の自治区に与える影響が物理的・概念的に少ない自治区」
を指定戦闘地域とする。
それ以外の場所では突発的な自衛行為を除き如何なる戦闘も行ってはならない。
所謂「限定戦闘法」。
旧日本・宮城県と山形県へかかる山脈地帯の指定区域。
JPN-6-a126-3エリア
この議会により戦闘区域が指定されたのみならず、自ずと世界の勢力の分布が浮き上がった。
端的に言えば議会に集まった「北アメリカ大陸を中心とする自治区連合(FARC NAC)」通称「ファルクナック」と、「ピオニーブラッド」に代表されるファルクナック以外の自治区とその連合などの勢力がキリキリと牽制し出したのだ。
両者が衝突するまで時間はかからなかった。
ファルクナックはピオニーブラッドの武器製造や自治の方針を批判し、ピオニーブラッドはファルクナックの多干渉と「世界の秩序ぶる振る舞い」を傲慢だとした。
ファルクナックはピオニーブラッドの自治区の中でも僻地の小さな自治区に密偵を配し手筈が整うと連合軍から小隊を送った。
食料を配布したり医療行為を行いながら毎回少人数ずつをファルクナックの自治区に拉致した。残された人々には家族や仲間とより良好な環境での暮らしを提示してファルクナックの自治区への移住を進めた。
結果としてピオニーブラッドの自宅の幾つかは消滅した。
これがピオニーブラッドの中心部へ知れ、勿論のこと連合間の問題に発展。
ここでピオニーブラッドがファルクナックに対話による解決と移住者の意思による返還を求めた。
ファルクナックは対話には応じたものの移住者の返還を拒絶、どころか拉致があった事を全面否定し「移住は彼らの意思によるものでファルクナックは彼らを『救出』した」と宣言。
更に「『救出』により消滅した自治区の領土・領海・領空は移住者先であるファルクナックに所有が認められる」と一方的に宣言、同時に「救出」後の各地への軍事施設・武器・部隊の配備を展開。
ピオニーブラッドはファルクナックに対して限定戦闘法制定以降初めて宣戦布告。
2170年 4月1日
JPN-6-a126-3エリア
ピオニーブラッド対ファルクナック
開戦
通称「一次戦」
JPN-6-a126-3エリアでの殲滅戦である。
この戦闘は6年経過今も耐える事なく続いている。
6年も戦闘継続している理由-。
それが「不死兵」の存在である。
医療の進歩が著しく、病や怪我は「永久再生施術」により完全自然治癒が可能となっている。
加えてクローン技術が成立、世界的にも認められて100年以上が経つ。
よって、「永久再生施術済のクローン」が兵士の大多数を占めた。
両連合がこれを戦闘に投入し続けた結果、大量に生み出されたのが「不死兵」である。
戦闘による負傷、戦場における病で生命機能の維持が困難となりながらも、永久再生施術の効果で死亡する事はない。
帰還兵にも戦場にも不死兵が大勢現れその取り扱いは人権問題に発展し両連合ともに抱える課題ともなった。
帰還した者に対してはそれなりのケアが施された。
絶え間ない戦闘により不能となった者の救出は進まず、あたり一面から不死兵の呻き声が聞こえる。
戦場の不死兵は身動きの取れぬまま悶える事も出来ない。今後永久に戦場に転がり痛みに侵され生きる恐怖で死を望む。
肉塊のみとなった部位は単に回復、時には周囲の肉塊を取り込み合いながら増殖する現象も確認される。
この増殖に上半身のみになり意識のある不死兵が巻き込まれた際、その不死兵は自ら左右の耳を引きちぎり目を潰し最後は味方から手榴弾を奪い方に加えて頭を吹き飛ばす行動が目撃されている。
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