第4話 真実と閉幕

戦争を継続させた犯罪者として蒼一郎は、沢渡副大臣により死刑が執行され20年という短い人生に幕を閉じた。自身の腕の中で蒼一郎を失った美琴は蒼一郎の遺体を強く抱きしめて、命が吹き返さないかと淡い期待を抱いていた。

だが、どれだけ強く抱きしめても蒼一郎からはぬくもりを感じることができず、冷たくなっていくのを実感するだけだった。救えなかった無力感と大好きな人を失った喪失感で美琴は泣いていた。


 「蒼くん・・蒼くん。嫌だよ、また笑ってよ。一緒にお酒飲もうよ。」


 「みなさん!ご安心ください。」


沢渡副大臣はどこか自慢げな顔をして周りにいる人たちに向かって演説を始めた。


 「たった今、この戦争を長引かせた大犯罪者を処刑致しました。怖い思いをした人もいるでしょう。毎日のように来る戦闘機や潜水艦に夜も眠れない人もいたでしょう。ですが、ご安心ください。これでこの惨たらしい戦争が終了いたします。我々日本が世界に並び立つのです。」


沢渡副大臣の演説を聞いて安堵の息を漏らすもの、不思議に思うもので辺りがざわざわしだした。このままでは沢渡副大臣の思い通りになると思い、高宮大臣は反論しようとした時、ある人物がやってきた。


 「なんてことをしてくれたんだ沢渡。」


声がした方を向くと、そこにはSPを数名つれた総理大臣が立っていた。


 「そ、総理。なぜこのようなところに。今は他の国の代表と終戦協定を結んでいるところでは。」


 「そのはずだったんだが、部下からどっかのバカがやらかしたって報告を受けて飛んできたんだよ。」


総理は美琴と蒼一郎のもとに向かい、膝をつき蒼一郎の頭に手を置いた。


 「ごめんな蒼一郎。いつも守ってもらっていたっていうのに肝心なところでお前のことを守れなくて。嬢ちゃんもすまないな。嬢ちゃんの大事な人を守ってやれなくて。」


 「総理・・。」


 「なぜですか!総理。そいつは、他の国の兵士を殺し続けてこの戦争を長引かせた犯罪者ですよ。そいつのせいで戦争は終わらなかったのは事実でしょう。それなのに・・。」


 「おい沢渡。お前、それ以上しゃべるな。」


沢渡の位置からは総理の顔は見えないが、その一言で総理が激怒していることは感じ取れた。


 「他の国の兵士を殺し続けた犯罪者だと?お前は今まで寝てたのか?そんなに言うなら確認すればいいだろう。ですよね。皆々様。」


総理が声をかけると、3か国の代表がやってきた。


 「なぜ、各国の代表者たちもここに?」


 「代表たちを置いて俺だけ来るわけないだろうが。」


 「彼がこの国を守っていた『番人』。」


 「そう彼が・・。」


3か国の代表は蒼一郎のもとに近づいていった。沢渡は罵声を浴びせると思っていた。だが、そんな想像とは裏腹に代表ら全員、右ひざをつき右手を左胸に当て頭を下げた。蒼一郎に最大限の敬意を払ったお辞儀をしたのだ。


 「なっ!あれは最大の敬意を払う行為。なぜですか?そいつは大犯罪者。さらには、あなた方の国の兵士を殺し続けてきた人物のはずです。なのになぜ?」


 「殺してきた?お前は何を言っている。彼は誰ひとり殺してなどいない。」


 「はい?何を言って・・。」

 

急なカミングアウトに沢渡副大臣は情報を整理できず困惑していた。


 「そんなことできるわけないじゃないですか。それじゃあまるで戦闘機や潜水艦だけ破壊して、兵士や乗組員は全員助けたって言ってるようなものですよ。」


 「わかってるじゃないか。その通りだよ。彼は攻め込んできた兵士を殺すどころか怪我1つ負わせずに追い返した。彼のおかげでこの戦争はこんなに早く終わったといっても過言ではない。」

 

 「待ってください!彼がいたからこの戦争はこんなに長引いたのでしょう。彼がいなかったらもっと早く終わっていたはずです。」


 「そんなわけがないだろ。彼がいたから我々はこのような決断をすることができたのだ。もし彼がいなければ、我々は3か国で大規模な兵器のよる戦争を行っていただろう。その抑止力になってくれたのだ。」


 「そんな・・。」


沢渡は各国に代表たちの言葉と行動から初めて自分がやった行動の愚かさを自覚した。自分が殺したのが犯罪者でも何でもない一国民の青年であることに。


 「沢渡。お前の今後のことは後日通告する。いいな。」


 「はい・・。」


こうして、5年間続いた第3次世界大戦は1人の青年の犠牲によって終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る