第7話
「あんたには、ファンクラブ会員から厳選された選ばれし、ファンクラブの幹部になって欲しいのよ」
「いや、なんでだよ」
俺は思わず、そうツッコまずにはいられなかった。
俺はファンクラブの幹部なんぞには興味ないし、そもそもファンクラブにすら興味がなかった。
そんな俺が幹部にでもなれば、ファンクラブ内で抗争が起きて、ファンクラブが崩壊でもしてしまうんじゃないか。
「俺を幹部にしようとするのは、流石におかしいだろ? 幹部が欲しいっていうなら募集すれば、なりたい奴だっていっぱいいるだろうに。……それに大体な、俺は土屋さんのお隣さんでしかないんだぞ?」
「ええ、その通りよ。あんたが土屋様のお隣さんだからこそ、幹部に迎え入れようっていうのよ」
「……えぇ」
「少しあたしの話を聞きなさい。そうすれば頭の弱いあんたでも、あたしの言っていることが理解できるようになるから」
「俺の頭が弱いと決めつけるな!」
「違うの?」
「…………違く、ないです」
「ほらね」
くそっ、俺の成績が良ければ、ここで言い返せるのに……!
俺の入学直後のテストの結果は、人様に見せびらかすことができるようなものではなかった。
もちろん両親にも見せられず、俺のカバンの奥底に封印されている。
俺が大人しく黙ったのを確認すると、石田さんは語り始めた。
「このファンクラブを作ったのはね、土屋様を護るためなのよ」
「……護る? 推すとか好きな気持ちを共有するとかじゃなくて?」
「もちろん、そういった理由もあるけれど、それは1番じゃない。1番は、土屋様を護るため。それは会員規約、第1項に記載されているわ」
「会員規約なんてものもあるのか……」
「安心して、あなたにも今日中には暗記してもらうものだから」
「安心できる情報はどこですか?」
俺のそんな質問は、あっさりと石田さんに無視された。
無視するって決断は、そんな簡単に選択しちゃいけないものだと俺は思うんだ……。
にしても、どうやら石田さんが設立したファンクラブは、俺の想像しているようなファンクラブとは少し違うもののようだった。
「容姿が格別にいい人は、いい意味でも悪い意味でも注目を集める。注目が集まればそこにはたくさんの人が寄ってくるし、いろんな人の感情が動いて、問題や事件も起こりやすくなる。それを未然に防いだり、その事件から土屋様を遠ざけたりしようってわけよ」
「それはファンクラブというより、護衛隊ってことか?」
「そういう解釈もできるかもしれないわね」
「でもたかが、1人の一般生徒に気を使いすぎじゃあないか? 有名人とか芸能人なら、分かるけどさ」
「有名人や芸能人じゃないからこそ、護ってあげるべきなんじゃない。そういう人たちには近寄りがたく感じてしまう部分があるけれど、土屋様はそうじゃないただの1人の一般生徒よ。だから護衛してあげる存在が必要だと思うの」
それとも……と言いながら、石田さんは険しい表情になった。
「土屋様の身にもし何かが起こってしまったとして、後になってなにか対策をしておけばよかったって、あたしに後悔したらいいってあんたは言うの?」
「それを言われちゃあ、俺はもう何も言えないな」
「もちろん、分別はつけているつもりよ。そもそも護衛してくれなんて頼まれてもいないんだし、プライベートなことだったりセンシティブなことに、首を突っ込もうってわけじゃない。ただ重大な事件が起こらないように、見守るだけ。あくまで最終防衛ラインでありたいと私たちは考えているの」
石田さんの言っていることは理解できるが、少し過度な心配な気がする。
念には念を、石橋は叩いて渡れ、なんて言葉はあるけれど、念を入れすぎたり石橋を叩きすぎるのもかえって、別な問題を起こしてしまいそうだ。
「いいえ、あたしがしっかりとやりきれば問題ないわ。もちろん中途半端な覚悟でやれば、問題の一つや二つ起きてもおかしくないでしょうけど」
「人の心を簡単に読むな」
「単細胞の言いそうなことは、考えなくても分かるわ」
「た、単細胞……」
俺が石田さんのチクチク言葉にショックを受けているのにはまったく構わず、石田さんは俺に言い放った。
「あたしには、高校3年間を土屋様に捧げる覚悟がある」
その石田さんの言葉に、ただならぬ覚悟が込められているのが、単細胞の俺でもよく分かった。
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