第十話 復活の魔王
~魔王視点~
イルムガルドとか言う男の肉体に入り、我は復活を果たした。
思うように指が動く。人間の体であるため、少々違和感があるが致し方がないであろう。
『メイデスよ、よくやった。これで再び人間界の支配をする野望を実現することができる。死を目前として精神と肉体を切り離してから500年。ようやく実行するときがやってきた』
『お褒めに預かり光栄です。魔王様』
配下のメイデスに礼を言うと、彼女は胸に手を当て、軽く頭を下げる。
さて、まずはこの肉体がどれほどのものか試すとするか。
この肉体を拘束していた縄に魔力を送って千切り、玉座から立ち上がる。
『デスボール』
右手を上空に掲げ、魔法を発動する。すると天井に直径10メートルほどの火球が現れた。
この程度か。やはり我を復活させるのに、大半の魔力を消費してしまったようだな。だが魔力が回復すれば、もっと巨大化させることができるだろう。
続いて拳に力を入れて玉座を殴る。すると見事に破壊した……我の腕が。
ヌオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ! 痛い、痛い、痛い!
玉座を殴った程度で指の骨が折れたうえに、腫れて赤くなったではないか!
あまりにも耐え難い激痛に、思わず涙を流しそうになる。だが、我は魔王。それに今は配下のメイデスが目の前にいる。醜態を晒す訳にはいかぬ。
『まさか、人間の肉体がこうも脆いとは思わなかったな。メガヒール!』
拳の治療に上級回復魔法を使う。本来なら、ハイヒール程度の中級回復魔法で済む話しだが、我が使用できる回復魔法は上級のみ。なので、この程度のケガにも上級回復魔法を使用しなければならない。
魔力の無駄遣いであることは承知しているが、あの激痛から逃れるには治療を施すしか方法がなかった。
回復魔法の効果により、痛みを感じなくなる。
『申し訳ありません。魔王様と同調できる肉体がそいつしかいませんでした。人間の肉体の脆さは計算に入れていませんでした。申し訳ありません』
メイデスが頭を下げて謝罪の言葉を述べる。
『先に弱点が分かったのだ。ハルトの生まれ変わりと戦う前に気付けたことを喜ぼうではないか』
『さすが魔王様です。海よりも広い心の広さに感服致します』
プラス思考の考えで言葉を連ねると、メイデスが尊敬の眼差しを送ってくる。
配下から褒め称えられるのは気分がいいが、どうしたものか。これほど脆い肉体であれば、ハルトの生まれ変わりと戦ったところで負けは見えている。
『それなら、カオスの研究が役に立つんじゃないかな?』
『兄ちゃんナイス! それなら魔王様の肉体を魔族に変えることができるね!』
弱点の対処を考えていると、聞き覚えのない声が聞こえてきた。声が聞こえた方に顔を向けると、2体のパペット人形がこちらにやって来る。
『何やつだ』
『何やつだと問われたら』
『答えてあげないといけないよね』
2体のパペット人形は手を繋いでこちらを見る。
『俺の名前はパーぺ♪』
『僕の名前はマーぺ♪』
『『2人合わせてパペットーズ♪ 小さな野望から大きな野望まで♪ 実現してみ~せる~♪』』
突如リズミカルに歌い出すパペット人形たち、魔王を目の前にしてこの堂々とした佇まいは、かなりの強者モンスターなのかもしれない。
『も、申し訳ありません魔王様。こやつらは妾の配下のパーぺとマーペと言います。世間知らずなところがありまして、大変不愉快な思いをさせたかと思います。ほら、お前たちも謝らぬか』
『ごめんなさい』
『だって、僕たちの名前を覚えてほしくて』
2体のパペット人形たちをメイデスが謝るように促す。その姿はまるで人間の親子の光景を
『いや、問題ない。この我を見てそのような態度でいられるとは頼もしいではないか』
『本当にありがとうございます。さすが魔王様です』
『あのメイデス様が男にペコペコしている』
『珍しいね』
メイデスの反応を見て、パペット人形たちは意外だと言ってくる。
普段の彼女は違うのだろうか? 500年前も、我の前ではこのような態度であったはずだが?
疑問に思っている中、パペット人形たちが現れた時に言っていた言葉を思い出す。
『パーぺとマーペと言ったか。お前たち、カオスの研究でこの肉体を魔族の肉体に変えることができると言っておったな』
『そうだよ。カオスはね、人間に成り代わって息子を魔族に変えたんだ』
『それと同じことをすれば、きっと魔王様の肉体も今とは違うことになるんじゃないのかな?』
なるほど、カオスがそのような研究をしておったのか。500年ぶりにやつの顔を見ても良いかもしれないな。
『分かった。では、今からカオスの
案内をするように促すと、なぜかメイデスが顔を俯かせて表情を暗くした。
どうして彼女はあのような顔をする? まぁ良い。そんな細かいところを今は気にしてはいられない。
早くこの肉体を完全に魔族にしなければ。
『はいはーい!』
『1名様ご案内!』
パペット人形たちの案内のもと、我は魔王城から出て行く。
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