第十三話 ごめんねぇつーよくてっさ!
~ストライク視点~
まさか、父上が既に亡くなっており、今まで父上だと思っていた男が魔族だったとは思わなかった。
確かにここ数年、父上の様子がおかしいと思っていた。今まではテイマー程度に、誰でも動物を使役することができる研究で、多くの人たちに役立っていた。それなのに急に動物をモンスターに変える実験を始めたのは、魔族が成り代わっていたからなのか。
自分の手を見る。
僕の手……いや、体全体が魔族になっている。僕はもう、人間ではなくなっているのだ。
【さぁ、ストライクよ。生まれ変わったその体で、ここにいる人間共を皆殺しにしろ!】
脳内に父上だった魔族の声が響く。
確かにあの男は貴族である僕の美しい顔を殴り、歯を失わせられた。あいつだけは許せない。でも、使用人まで殺す訳には行かない。
彼らは昔からアバン家に仕えていた人たちだ。テオを倒すことは賛成でも、彼らを殺すことはできない。
【何をしている! 早く殺しに行け!】
嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! テオは倒す。だけど使用人たちを殺すことは、僕はしたくない。
【どうやら、まだ魔族として覚醒していないようだな。であれば、もう少し細工をしようではないか】
『ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!』
頭を締め付けられるような痛みに襲われ、頭を抑えずにはいられなかった。けれど暫く経つと、その痛みが引いていく。その代わりに心の中がぐるぐると憎悪の感情が渦巻いている。
『殺す! 殺す! 殺す! テオもルナも、使用人も、この場にいる全員僕が皆殺しにしてくれるさ!』
全てに対しての憎しみが募り、破壊衝動に駆られる。
まずはクソザコの使用人たちからぶっ殺してやるよ!
屋根から飛び降り、使用人たちの前に飛び降りる。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
急激に伸びた爪を使い、メイドの体を貫く。
この肉を貫いた時の感触、気持ちいいいいいいいぃぃぃぃぃ! 最高じゃないか! もっともっと、その悲鳴でメロディーを奏でてくれ!
「ストライク!」
後方からテオの声が聞こえ、振り向く。やつは目の前におり、拳を握っていた。
『ブヘッ!』
思いっきり顔面を殴られ、後方に吹き飛ばされる。地面の上を転がり、植木にぶつかったことでようやく止まることができた。
『おのれ……テオ!』
ゆっくりと立ち上がると、テオはメイドに回復魔法を使ったようだ。メイドは何事もなかったかのように立ち上がっていた。貫いた証拠とも言えるメイド服が破けていることからして間違いない。
「ルナの側に居てください。メリュジーナがいるのでほぼ安全です」
「分かりました」
「私も娘の側にいよう」
メイドとグレイ男爵がルナに駆け寄って行く。
くそう。僕としたことが、爪が甘かった。腹ではなく心臓を突き刺せば良かった。
【予定では心臓を貫くはずだったのに、まだ抵抗があるようだな。なら、更に細胞の侵食速度を上げるか。殺しが快感となり、やめられなくなるだろう】
再びあの魔族の声が聞こえてくる。
『テオ! よくも僕の獲物を殺すのを邪魔してくれたな! 今度はお前から先に殺してやるよ!』
地を蹴って駆け、素早く移動する。
完全なる魔族となったこの体は人間の時の瞬発力を遥かに超えている。
『死ね! テオ!』
「パースペクティブ!」
距離を詰めた瞬間、テオが魔法らしきものを発動するが、僕の体には何も変化が起きない。
まぁ良い。どうやら魔法は不発に終わったようだな。この場面で攻撃系以外の魔法を使うなどあり得ない。焦って魔法を発動した結果、失敗に終わったに決まっている! こいつを食らえ!
伸びて鋭さを増した爪を使い、テオの心臓に向けて突き出す。
こいつを貫いた時の感触はいったいどんなものなのだろう。想像しただけで涎が出てきそうだ。
早く突き刺して、苦痛に歪む顔をしながら絶叫する姿を見たい。
鋭い爪を放つも、テオは横に跳躍して攻撃を躱す。
避けられたか。まだこの体に慣れていないようだ。でも、それも時間の問題。直ぐに新しいこの体に慣れて、必ずお前を殺してみせる。
左右の腕を交互に使い、爆裂拳の要領で鋭い爪を連続で突き出す。
だが、テオは避けに集中しているようで、僕の攻撃は回避される。
どうして当たらない? いや、違う。全然反撃に出ようとしないところをみると、攻撃に転じる機会を失っているのだ。
つまりやつは、防戦一方で余裕がないことを示している。
このまま攻撃を続ければ、やつの判断力が鈍り、必ず攻撃が当たる。
『防戦一方じゃないか! ごめんねぇつーよくてっさ! ギャハハハハハハ!』
僕は強い! 最強だ! テオを倒したその後、この場にいる全員を切り刻んで、全員の悲鳴で音楽を奏でようではないか!
今から楽しみだ! 僕の人生を変えてくれたあの方に捧げる曲として相応しい!
攻撃を続けていると、テオの動きが止まる。
どうやら疲れが出たみたいだな! 隙だらけだ!
『こいつで止めだ! お前はいったいどんな悲鳴を上げてくれる!』
「ごめんな」
拳を放ち、鋭い爪で突き刺そうとした瞬間、テオはいきなり謝罪してきた。
どうしてこの男は急に謝り出した。
「ゼイレゾナンス・バイブレーション」
疑問に思っている中、テオが再び魔法名を口に出した。その瞬間、僕の鋭利な爪が砕け、短くなる。
爪の鋭利な部分が砕けた以上、突き刺しても肉を抉ることができない。やつに爪切りをさせられた!
「ごめんな。お前を助けてやれなくって。お前の仇は俺が取ってやるからアイシクル」
テオが再び魔法名を口に出した瞬間、目の前に大きい氷柱が現れ、僕の肉体を貫く。
そうか。お前、この状況の中でも僕を救おうとしてくれたのか。あの時不発だと思っていたあの魔法。あれはきっと、僕の体でも調べていたのだろう。僕の体を元に戻すことができないと分かったからこそ。謝ったんだ。
敵を救おうとかバカかよ。まぁ、これで使用人たちを殺したいと言う破壊衝動から解放される。
『あ……りが』
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