第六章

第一話 グレイ家の事情とゲルマンの正体

~ルナの父親視点~




「何で止めなかった! お前、近くにいただろう!」


 私は消え去ったルナたちの近くにいたゲルマンに詰め寄る。


「すまない。予想外の展開続きで唖然としてしまった。それに、いくら俺でもテオたちを止めることはできないさ」


 素直に謝るゲルマンの姿を見て、怒りの矛先を向けるのは彼ではないことを自覚する。


「くそう! どうしてルナはあんな男と……そういえば、ゲルマンはあの男と親しそうにしていたな?」


「いや、そこまで親しくはないさ。一度だけ合ったことがある程度だ。あいつは、先程連行されたイルムガルドの元息子でな。今は騎士爵だったか」


「ふん、平民に毛が生えた程度ではないか。そんなやつのどこに惚れるような要素がある! 私はルナの幸せを願って子爵の御子息との縁談を決めたと言うのに。親不孝者が」


 あの男への怒りが拭えないまま拳を強く握る。


「なら、取り返せば良いさ。家名を守るのに必要な道具何だろう?」


「貴様何を言う! ルナは私の大事な……」


 言葉が途中でつっかえてしまった。


 おかしい。ルナは大事な娘だ。それなのに、どうして口に出して言うことができない?


「大事な何だ? 直ぐに言えないってことは、心のどこかで娘を道具扱いしていたんじゃないのか?」


 ゲルマンの言葉が耳に入る中、両手を頭に置く。


 私は心の奥底で、家名を守るための道具としてルナを見ていたのか。そんなことは決してない。決してないはずなんだ。


 ちゃんと大切な1人娘としてルナを見ている。


「いや、お前は娘を道具として見ている。その証拠に、娘に反発したではないか。本当に娘の幸せを考えているのなら、政略結婚などさせずに自由に恋愛をさせているはずだぞ」


 ゲルマンの言葉が鋭利な刃となって、心に突き刺さる。


「私は家名を守るための道具としてルナを見ていた」


「ああ、だけどそれで良い」


「何だと?」


「貴族として一番に大事にするのは家名だ。娘などは血を途切れさせないための道具だ。貴族としての家柄を失えば、ご先祖様に顔向けができなくなるぞ」


 彼の一言を聞く度に鼓動が激しくなっていくのを感じる。


「さぁ、ルナ嬢をあのテオから奪い返しに行こうじゃないか。そして、予定通りに子爵の御子息と婚姻を結ばせ、家名を守るぞ」


 ゲルマンが私の頭に手を置く。その瞬間、欲や怒りなどの感情が湧き出てくる。


「そうだ。娘なんてものは家名を守るための道具だ。一番大事なのは高貴なる血筋を絶えさせないこと。どんな手を使っても、ルナをあの男から奪い返してみせる」


「そうだ! そのいきだ! 一緒にテオを倒そうではないか! ワハハハハハ!」


 ゲルマンは笑い、この場から離れて行く。


「テオ、待っていろ! 娘は必ず取り返してみせる。そして再会した暁には、貴様の首を取って晒してくれる!」


 打倒テオを決意すると、私はゲルマンが戻ってくるのを待った。






 ~ゲルマン視点?~





 俺たちはグレイ当主から離れると、屋敷の中に入る。周囲に人がいないことを確認して右手を翳す。


 すると空中に鏡の形をしたモンスターが現れた。


「メイデス様、聞こえますか? 俺です」


 鏡に問いかけると、1人の女性が浮かび上がる。


『ああ、聞こえる。そちらの映像も妾にははっきりと写っておる。それで、連絡を入れたと言うことは、作戦は上手くいったと言うことだな?』


「はい。ルナの件を利用して、イルムガルドとテオを接触させることに成功しました。そしてイルムガルドを憎悪と絶望に満ちた状態で捉えました。あの方に捧げる器としては、充分かと」


『そうか。龍玉の魔力に器まで手に入ったか。あとは時を待ち、テオをここに呼び寄せるだけだな』


【それに関してはご心配なく、弟がテオと一緒にいる限りは、俺の方からは居場所は分かるので】


 メイデス様と離していると、体の一部となっているパーぺが話しに介入してきた。


「おい! 今は俺が中心となっているんだぞ。お前は引っ込んでいろ!」


【えー、俺だって久しぶりにメイデス様と話したい】


「あ、暴れるな! 肉体を維持できない!」


 肉体の中に入れていた人形が出しゃばったせいで、この体を維持することが困難になってしまった。


 やっぱり変身の際に、別のモンスターと一時的に同化するのは難しいな。


 俺は変身を解くと、体がドロドロと溶け、ジェル状の肉体へと戻す。


『もう! 何で変身を解く! まだお前と一時的に同化して、やることがあるって言うのに!』


 俺の肉体から飛び出したパペット人形が文句を言ってくる。


『それはお前が出しゃばるからだ! お前が自己主張するから、精神と肉体のバランスが取れなくなったんだ。お前は感情を操ることだけを考えろ!』


『そんな言い方をしなくても良いでしょうが! 俺は人形だけど、お前の操り人形ではないんだぞ!』


 俺とパーぺは歪み合う。


 メイデス様の命令とはいえ、どうして俺はこいつとチームを組んで、任務に取り組まなければならない。


『くそう。お前が人形ではなく、人であれば、お前の細胞と記憶をコピーして感情を操る能力を得ることができると言うのに』


『人でなくって残念でしたね! バーカ! バーカ』


 バカにするパーぺの言葉を聞いた瞬間、怒りの感情が湧き出てくる。


『誰がバカだ! スライム界の軍師ストラテジストであるこの俺、マネットライム様がバカである訳がないだろうが! 階級持ちですらないノーマルのお前にバカにされたくない!』


『パーぺ、マネットライム好い加減にしてもらおうか』


 パーぺと口喧嘩をしていると、画面越しにメイデス様の声が聞こえてくる。


 画面越しであるにも関わらず、寒気を感じてしまう。


 彼女の口調は優しいが、画面越しからでも分かるオーラーからは怒りを感じさせた。


『ご、ごめんなさい!』


『メイデス様、申し訳ありません。俺としたことが、つい感情を乱してしまいました。軍師たる者、いかなる時でも冷静でいなければなりませんね』


 俺とパーぺは同時に謝る。


『まぁ、良い。作戦を次の段階へと引き上げろ。莫大な魔力と器が手に入った以上、残すはテオの確認だけだ。あやつが本当にハルトであるのかを確認でき次第、妾のところへと連れて来るのだ』


 その言葉を最後に、ディスプレイは消え去る。


 パーぺとマーペが連絡を取り合い、テオをこちらに誘導させ、俺がイルムガルド側を誘導させて戦わせることに成功した。


 そしてテオへの怒りを募られたイルムガルドの肉体は、あの方の器として申し分ない。全てはメイデス様の計画のまま進んでいる。本当に彼女は素晴らしいお方だ。後はあのテオが転生者の生まれ変わりなのかを確認するだけ。


 そのためにも、グレイ家が抱えている問題を利用させてもらう。


『さて、グレイ当主と合流するとするか』

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