第十三話 追放サイドとの決着?

~テオ視点~




「よぉ、久しぶりだな。イルムガルド」


 名前を呼ばれ、俺は身を潜めていた建物から姿を現す。


 俺の顔を見た瞬間、イルムガルドは鋭い眼差しで睨み付けてきた。


「テオ! 貴様! どうして俺の邪魔をする! この親不孝者が!」


「勘当して親子の縁を切ったのに、良く言えたな。俺たちは只の他人だ。だから悪人が悪いことをしたのなら、懲らしめるのが筋ってものだろう」


 正論を言うと、イルムガルドの額に青筋が浮き出て来る。そしてこちらに向けて指を向けてきた。


「テメーだけは絶対に許さねぇ! 王様たちに認められて良い気になっているようだが、調子に乗るなよ!」


 頭に血が昇っているのか、イルムガルドの言っている言葉の意味が分からず、首を傾げる。


 別に調子に乗ってはいないのだけどな? イルムガルドのやつ、何を言っているんだ?


「なぁ、どうして赤い髪の女の子たちを攫った? 誘拐だなんて貴族の恥だぞ。何がお前をそこまで追い詰めたんだ?」


「俺はお前がいなくなった後、不運続きになった。依頼を失敗して草原を燃やした罪で爵位を降格させられ、また依頼に失敗して今度は牢屋行きだ。これも全てお前のせいだ! お前、勘当した腹いせに俺に呪いをかけただろう!」


 イルムガルドの言葉に、開いた口が塞がらなくなる。


 こいつ、何被害妄想をしているんだ? 運が悪くなった? 不運を招いたのは自身の落ち度じゃないのか? それを全て他人のせいにするなんて。どこまでも我が儘……いや考えが子どもなんだ。


「お前が言っていることは被害妄想だ。俺はお前たちに呪いをかけていないぞ」


 まぁ、呪いに近いような魔法ももちろんあるが、俺はイルムガルドには使っていない。


「うるさい! 犯人は否定するものだ! 否定したってことが認めている証拠だ!」


 声を荒げるイルムガルドの言葉を聞き、頭が痛くなりそうになる。


 このバカには何を言っても意味がなさそうだ。イルムガルドが誘拐犯なのに、俺が呪いをかけた犯人と言う話しにすり替わっている。


「お前を倒し、俺たちにかけられた呪いを消してくれる。サンダクラウド!」


 イルムガルドが右手を上げると、上空の雲が暗雲へと変わる。


 すると、風が吹き、雲は雷雲へと変わった。


 風が舞い上がり、上昇気流へと変化すると上空の雲に到達。中にある小さい氷の粒と、霰や雹に成長した大きい氷の粒が衝突を繰り返すことで、この時摩擦が起き、静電気が生まれたことで雷雲を発生させたのか。


「こいつで丸焦げになれ! サンダーボルト!」


 イルムガルドが振り上げた右手を振り下ろすと、蓄えきれなくなった電荷が大地の正電荷に誘導され、俺に目がけて放電を起こす。


 雷のパワーは落雷時には電圧が2000000から1000000000ボルト、電流は1000から200000アンペアにもなる。そして人は体内に0・1Aでさえ流れると、命を落とす可能性が非常に高い。直撃だけは免れなければならない。


「テオ君!」


ご主人様マスター! 逃げて!」


 ルナさんとメリュジーナの声が耳に入る。彼女たちは目から涙を流しながら叫んでいた。


 雷撃系の魔法は即死魔法に近い。当たればほぼ高確率で死んでしまう。だからあんな反応をしてしまうんのだろう。


 2人とも安心してくれ。いくら即死に近い雷撃魔法でも、人体に電流が流れなければ良い話しだ。


「アクアガード!」


 空気中の水分を集め、全身に纏う。その瞬間に落雷が直撃し、ビリッとした感覚が襲ってきた。


「ギャハハハハ! 防御魔法を発動したみたいだが、よりにもよって水属性の防御魔法だとはな。余計に電撃が流れて死にやすくなっただけじゃないか! ざまぁ!」


「そんな……テオ君……嘘でしょう」


ご主人様マスター!」


 イルムガルドやルナさん、それにメリュジーナの声が聞こえる。早くイルムガルドの驚く姿が見たいし、彼女たちを安心させたい。


 だから敢えて攻撃を受けた余韻はこのくらいにしておくとするか。


 体から纏っている水を切り離し、新鮮な酸素を吸い込む。


「今、水の防御魔法をバカにしたか? ご覧の通り、俺はこの魔法で命が助かったぜ」


「テオ君!」


ご主人様マスター!」


「バ、バカな。雷撃魔法は即死効果もあるんだぞ。どうして平然と立っていられる」


 イルムガルドが驚愕に満ちた表情をする。


「確かに雷撃系の魔法を食らえば、場合によっては死に至る。電流が流れた際に、体内の電子信号のやり取りを遮断されて、ショックによる心肺停止が起きるからな。でも、俺はそれを水で防いだ」


「それがおかしいと言っているんだ! 水は電気を良く通す! 常識じゃないか! それを覆すお前が異常だ!」


 いや、別に俺は異常ではないのだけど? 普通に正しいことを言っているだけなのだけどなぁ。まぁ、多くの人が同じ認識をすることで、それがいつしか常識化してしまうのは仕方がないことだ。こればかりは俺にもどうしようもない。


「確かに一般の認識としては、水は電気を良く通すと言うが、それは不純物の混ざった水の場合だ。俺の魔法で生み出したこの水は純水だ」


「純水……だと」


「電気は水をよく通すと思っている人は多いが、純水のような水分子だけしかない状態だと、ほんの少ししか電気を通さない。電気を通すといった現象は、電荷をもっている物質が移動することになる。なので、電荷を通す物体がない場合は電気を通すことはない」


 説明をしながら、屋敷で手に入れた白い粉の入った瓶を懐から取り出す。


「水に溶けることによって電気を通すことになる物質は塩化ナトリウム、塩化銅、硫化銅、塩化水素などがあり、これらの物質が含まれた水溶液は電解質と呼ばれる。飲み水ではない生活用水には様々な物質が含まれているので、純水ではない水に電気が流れたことによる感電のイメージから、水は電気をよく通すと誤認されるようになった」


 瓶の蓋を開け、電気が纏っている水の中に注ぎこむ。


「これは食塩だ。こいつ入れたことにより、この水は不純物が混じった水となり、お前の言った電気をよく通す水となった。こいつを食らえば、間違いなく死ぬだろう」


 いつでも放てる用意をしながら、ゆっくりとイルムガルドに近付く。


「く、来るな!」


「悪いな。お前の罪は元息子として見逃す訳にはいかない。こいつであの世に送ってやる! 転生して人生をやり直して来い!」


 即死効果のある電気を纏った水を放つ。


 すると、イルムガルドはその場から逃げようとするも、転倒した。


「いやだあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ死にたくない!」

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