第八話 誘拐犯現る
翌日、俺が目を覚ますと、両サイドにルナさんとメリュジーナが眠っていた。現在横になっているベッドはキングサイズではなく、1人用のシングルサイズ。幅が狭いからか、彼女たちは落ちない様にしがみついていた。
ど、どど、どうして2人とも同じベッドで寝ているんだよ! 他にもベッドがあるじゃないか!
しかも、メリュジーナのこの感触はもしかして服を着ていないのか?
と、とにかく、ルナさんたちを起こしてベッドから出て貰わないと。
「ルナさん、ルナさん。起きてくれ」
「うーん。あ、テオ君おはよう」
ルナさんに声をかけると彼女は瞼を開け、眠気眼のままぼんやりとした表情で俺を見た。
「おはよう……って、そんなことよりも、どうしてルナさんが俺のベッドで寝ているんだよ」
「だって、私って誘拐されるかもしれないでしょう。1人で寝るよりもテオ君の隣が一番安全だから」
隣で寝ていた理由を語ると、ルナさんはまだ眠いのか、再び瞼を閉じた。
「寝るなら隣のベッドで寝てくれ」
隣のベッドで眠るように促すも、彼女は既に眠ってしまったようだ。声をかけても反応してくれない。
こうなったらメリュジーナを起こすしかない。
「メリュジーナ、頼む。起きてくれ」
「まだ体温が上がっていないから無理。お願いだからあと1度だけ待って」
「お願いだから後5分待ってみたいな言い方をしないでくれ。それに体温を上げたいのなら服を着たまま寝てくれ。どうして寝るときは常に裸なんだ! それにどうして自分のベッドで寝ない!」
「だって、服を着ると圧迫されているような気分になるんだもん。寝る時くらい解放感を味合わせてよ。それに人に触れていた方が体温が上がりやすい。だけどルナが
瞼を閉じたままであるが、どうやら俺の声は届いたらしい。だけど行動可能な体温になっていないので、俺の願いは聞けないようだ。
「二度寝しても良いから、それぞれのベッドで寝てくれよ!」
2人に自分たちのベッドで寝るように伝えるも、俺の願いは叶わなかった。
結局2人が自分の意思でベッドから離れるまで、俺は彼女たちの抱き枕代わりにされ続けた。
「それじゃあ、チェックアウトをしてこの町から出よう」
「そうだね。何事もなくって本当に良かったよ。こんな物騒な町は早く出たい」
「物騒なのはルナだけだからね。わたしは大して急ぐ必要はないと思うけど」
荷物を纏めて部屋を出ると、チェックアウトをするためにフロントに出る。しかしフロントには女将さんが居らず、代わりに別の女性がいた。
「あれ? 女将さんは?」
「女将さんは用事があるとかで早朝から出て行きました。私は代理を頼まれたので、代わりに店番をしております」
「そうだったのですか。お疲れ様です。これが部屋の鍵です」
カウンターの上に部屋の鍵を置くと、女性は名簿と思われる本を取り出す。
「テオさんたちですね。ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
女性に軽く会釈をすると、宿屋の扉を開けて外に出る。
ルナさんには昨日の買い物で買ってきた帽子を被って赤い髪を隠してもらっている。そのお陰で町民がジロジロと俺たちを見ることはなかった。
「そこのお前たち、その場で止まり、両手を上げろ!」
町を出てからマーぺに道案内をしてもらっていると、5人組の男たちが現れた。
ボロボロの服や伸び放題の無精髭から察するに、野盗たちと見て間違いなさそうだ。
「そこの帽子を被っている女を置いて行くのであれば、命だけは助けてやろう。お前や水色の髪の女の子には興味がない」
俺やメリュジーナには興味がない。つまり、こいつらが誘拐犯か。
「テオ君、私――」
「大丈夫、分かっているから」
彼女の意思を汲み取り、1歩足を前に踏み出す。
「動くなと言っておるだろうが! もう良い! お前たち男は殺せ! 片方の女は捕まえて売り捌く」
中央にいる男が指示を出すと、残りの4人が得物を握って襲いかかってくる。
魔法を使ってくる様子もなさそうだし、ただの物取りか。こんな奴ら、瞬殺してやるよ。
「スピードスター、エンハンスドボディー」
俊足魔法と肉体強化の魔法を発動し、素早くその場から移動する。
「消えた! ど、どこにいやがる!」
野盗の1人が声を上げる。
どうやら俺のスピードに追い付けずに、目が捉えることができないようだな。
「お前の背後だ」
野盗たちの背後に周り、男の首筋に手刀を叩き込む。
「グハッ!」
男たちは次々と倒れ、その場で気を失っていく。
「さてと、後はお前だけだな」
「くそう。あのババァ、情報と全然違うじゃないか。ただの旅人ではなかったのかよ」
「あのババァ?」
気になったので男に訊ねるが、彼は返答しない。
なら、少々拷問ぽくなってしまうが、情報を吐かせるとするか。
「グラビティープラス2倍」
重力魔法を発動し、男の周囲だけ重力を倍にした。体重が2倍となった男はその場から動くことができずに苦悶の表情を浮かべる。
「さぁ、吐け!」
『あ、吐けって言っても嘔吐じゃないからね。間違っても汚物を撒き散らさないように』
持っている情報を教える様に命じると、鳥籠の中にいるマーぺが横槍を入れてきた。
「わ、分かった。話すから命だけは助けてくれ」
男が懇願し、命を助ける代わりに情報を吐かせることに成功した。
「俺たちに情報をくれたのは、宿屋のババァだ!」
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