第十六話 俺の爵位が降格されるだって!ふざけるな!

~イルムガルド視点~




 俺ことイルムガルドは、草原の3分の1を燃やした罪を被されそうになっている。


 このままではまずい。証拠が提出された以上、俺が草原を燃やした元凶扱いにされてしまう。


「分かった。モンスターの死体を確認しなかったことは認めよう。だけど、草原を3分の1燃やしたことはどう説明する? ファイヤーボール1発では、あそこまでの被害は起きないぞ」


 ユリウスに問うと、彼はやれやれと言いたげに肩を竦める。


「それこそ愚問ですよ。あの草原の草は通常の物とは違い、燃え易い性質も持っているのです。たとえファイヤーボール1発でも、大規模な火災へと繋がってしまいます」


「そんなことし――」


「そんなことは知らないなんて言わせませんよ。依頼書にはちゃんと注意書きが書かれてあります」


 ユリウスが懐から1枚の紙を取り出し、俺に突き付ける。


 紙を受け取ると、それは見覚えのある依頼書だった。


 この依頼書、俺がエレファントエンペラーの討伐を受けたものと同じだ。あのときは、誰も護衛任務を受けないでイライラしていたから、細かいところは読んでいなかった。


 心臓の鼓動が早鐘を打つ中、細部まで黙読する。すると、最後の方に注意書きとして、炎の魔法の使用や火種になるような物の持ち込みを禁ずると書かれてある。


「これで分かったでしょう。あなたはいくつもの過ちを犯した。言い逃れができない大罪を犯したのですよ」


 俺の表情を読み取ったのか、ユリウスが罪を認めさせようとしてくる。


 くそう。こんなのってあるかよ。


「苦し紛れの抵抗はよせ。もう、誰がどう見てもお前の負けだと思っている。国の保護区域である草原エリアの草原を燃やした挙句、その場を放置した罪は重いぞ。よってイルムガルドの爵位を騎士爵にまで降格させる」


 王様の言葉に衝撃を受けた。騎士爵は一応貴族であるが、平民に毛が生えた程度の権力しか持っていない。シモンと同じ階級にまで落とされてしまった。


「待ってくれ! それはあまりにも!」


「黙れ! このワシをこれ以上怒らせるな! 本当であれば、貴族の身分を剥奪しても良かったのだ。だが、お前は昔に借りを作っておる。そのことを踏まえて、キリギリ貴族にしてあげているのだ」


 王様の言葉が信じられず、頭を抑える。


 俺は悪夢でも見ているのか? 英雄と呼ばれ、貴族に成り上がったこの俺が、騎士爵なんてものに成り下がるなんて。


 これは間違いなく悪夢だ。頼む。早く目を覚ましてくれ!


 心の中で懇願するも、目が覚める感覚がない。そのことから、これが現実であると実感させられた。


「王様頼む! 俺にチャンスをくれないか。昔みたいに頼み事を聞く。だからもう1回、前の爵位に戻る機会をくれないか!」


「イルムガルド、必死であるな。そんなに前の爵位が恋しいか?」


「当たり前だ! 今回の件は俺が全て悪いことは認める。もう、二度と冷静さを欠いて失態を犯さない。だからもう1回チャンスをくれ!」


 不本意であるが、俺は王様に対して頭を下げた。


 騎士爵なんてものになってしまっては、これまで通りの生活を送れなくなる。せっかく一般人の冒険者から貴族に成り上がったって言うのに、平民とさほど変わらない騎士爵になってたまるかよ。


「分かった。そなたがそこまで言うのであれば、最初で最後のチャンスをやろう。だが、降格なのは免れない。お前は今この時点で騎士爵に降格だ。だが、ワシの願いを叶えることができたのであれば、お前を元の爵位に戻してやるとしよう」


「ありがとうございます」


 王様に礼を言い、チャンスを貰えたことに安堵する。


 よし、なんとか首の皮一枚で繋がった。これで王様の願いを叶えてやれば、俺は元の爵位に戻ることができる。爵位を取り戻すことができるのであれば、どんな手でも使ってやるさ。


「それで、王様のお願いと言うのは?」


「うむ。実は同盟関係にある隣国のお姫様が、急に無表情になったと言うのだ。ワシの友である王は、姫をどうにかして笑わせてやりたいと言っておる。現在褒美を求めて、世界各国から姫を笑わせようと、たくさんの挑戦者が集まっていると言う。もし、姫を笑わせることができたのなら、爵位を元に戻してやろう」


 王様の言葉に、思わず呆気に取られてしまった。


 隣国のお姫様を笑わせることが、元の爵位に返り咲く条件だと?


「分かりました。では、今すぐに隣国に赴き、無事にお姫様を笑わせて見せましょう」


「うむ。期待せずに待っておる。では、行くが良い」


 王様が右手を前に出して格好付ける。


 しかし彼の言葉に、怒りが湧き上がってきた。


 王様のやつ『期待せずに待っている』だと! そこは『期待しておる』だろうが。これじゃあ、俺が失敗することを前提に、条件を与えているように聞こえるじゃないか。


 みていろよ。必ず隣国のお姫様を笑わせてギャフンと言わせてやる。


 笑わせるなんてことは簡単なことだ。金を使って人気の芸人でも雇えば良い。


 元の贅沢な生活を取り戻すためにも、俺は絶対に姫様を笑わせてやる。そして再び元の爵位に返り咲いた暁には、ユリウスを陥れてやる。


 新たな野望と復習を胸に、俺はシモンとメルセデスを引き連れ、隣国へと向かった。

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