第八話 男女が同じ部屋に泊まるのは色々と問題がある
「はぁー、どうしてこうなってしまったのだろうか」
ベッドに腰を下ろしながら小さく息を吐く。
部屋に入るなり、ルナさんはシャワーを浴てくると言って、シャワールームに入った。
やっぱり普通じゃない。一般常識で考えたとしても、普通なら別々で部屋を取るはずだ。
高い部屋を2部屋借りるのが嫌だった? いや、そんな訳ない。ルナさんのお金の使い方を観察するからに、そんな性格ではない。
それに高い金を出すのが嫌だったとしても、安い部屋を借りれば良いだけの話だ。
それなのに、どうしてわざわざ同じ部屋で寝泊まりをする必要がある?
彼女は何か企んでいる可能性が出てきた。今思えば俺に親切にしすぎだ。
初めて会った時は俺が全裸だったから可哀想に思われたのだろう。でも、俺がテオ・ローゼであることが分かり、更に魔力量がえげつないことが分かってから、親切にしてくれる度合いがおかしい。普通なら、魔力鑑定アイテムを壊しても怒らなかったり、ギルドマスターの暴言から庇ってくれたりはしない。
色々と思考を巡らせると、どんどんルナさんが怪しく思えてくる。
きっとこの部屋で何かを仕掛けてくるかもしれない。対策を考えていたほうが良いな。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁ!」
最悪の場合の対処方法を考えていると、シャワールームの方からルナさんの悲鳴が聞こえてきた。
ルナさんの身に何かが起きた!
疑っていることなんかお構いなしに、急いでシャワールームの扉を開けて中に入る。
「ルナさん! 大丈夫ですか!」
声を上げてルナさんの名を呼ぶと、俺の視界には豊満な胸がぶら下がっている赤い髪の女の子の裸体が映った。
「テ……オ……君……きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺の存在を認識した途端、ルナさんが再び声を上げた。そして近くにあった桶を投げ付けてくる。
このままではまずい。
身の危険を感じて咄嗟に扉を閉めたことで、桶は扉に当たったようだ。扉越しに床に当たる音が聞こえた。
「どうして入ってくるのよ! テオ君のエッチ! 変態!」
「いきなり入って来たことは謝ります。でも、ルナさんが悲鳴を上げたので、それで心配して」
シャワールームに入った理由を語り、彼女に謝る。
「シャワールームにゴキがいたのよ! まさか高い部屋でも出るなんて思わなかったから、びっくりしてしまって、つい叫んでしまったのよ」
ゴキとは、一般家庭に住み着く虫だ。とにかく繁殖力があり、1つの卵から20から40匹の子どもが産まれると言われる。
よく1匹を見つけたら100匹はいると思えと言われているらしい。だけど、このことはルナさんには話さない方が良いだろう。
「そうだったのですね。てっきり何者かに襲われたのかと思ってしまいました。それでゴキの方は?」
「悲鳴を上げたら窓から出て行ったわ」
「そうですか。それは良かったです。今回はすみませんでした。直ぐに出て行きます」
もう1度謝り、シャワールームから出る。そしてベッドの上に倒れた。
彼女の反応を見る限り、考えすぎだったのだろうか? 内心ルナさんの策の1つではないかと思っていたが、俺が現れた瞬間の彼女の反応をみる限り、演技ではなさそうだった。
「本当にもう嫌だ。お金があるのなら、別の部屋を取っているのに」
そんなことを考えていると、シャワールームからルナさんが出て来た。
完全には乾いていないようで、赤い髪には湿り気がある。
「テオ君、さっきはごめんね。次使って良いわよ」
シャワールームを使って良いと言われ、俺は無言でベッドから起き上がるとシャワールームに入る。
とりあえずはシャワーを浴びて疲れを取ろう。
「それじゃあ、今日はもう寝ましょうか」
「そうですね。今日は色々とありすぎて疲れたので、早めに寝ましょう」
早めに就寝することになり、ベッドに入る。灯が消されて辺りが暗くなると、俺は目を閉じた。
今日は直ぐに眠れそうだ。そう思っていると布団が剥がされ、誰かが潜り込んで来る。
「あのう、ルナさん? どうして俺のベッドに入って来るのですか?」
「だって、またゴキが出るかもしれないじゃない。怖くて眠れないわよ」
だったら起きていれば良いじゃないか! どうして就寝しようと言い出したんだよ。
彼女の行動が意味不明な状況の中、ルナさんは体をくっつけてくる。
背中に柔らかい感触があり、相当密着していることが感覚的に分かる。
「お願い。今日だけで良いから、一緒に寝て。それとも、私と一緒に寝るのが嫌?」
嫌じゃない。
彼女の問いに、心の中で答える。
ルナさんはとても綺麗で美しい女性だ。そんな彼女のお願いを聞かない男など、この世にいないだろう。
でも、越えてはならない一線がある。
だけど彼女には色々と借りがあるのも事実だ。ここでルナさんのお願いを聞かないなんて男が廃る。
「分かりました。ルナさんには色々と借りがありますから良いですよ。でも、今回だけですからね」
「ありがとう」
礼を言われると、更に密着感が増したような気がした。
これは色々な意味でやばい。早く眠らなければ。
そう思って強く瞼を閉じるも、変に意識してしまい、中々眠れない。
おかしい。あれだけ疲れていたら普通は眠くなるものだろう。
寝ようとすればするほど余計に目が冴えてしまう。
こうなったら魔法に頼ろう。睡眠魔法だ。
頭の中で睡眠のメカニズムをイメージして魔法を発動すると、俺の意識は次第に薄れ、気が付くと眠っていた。
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