閑話
監視対象が消えた。生死は不明。どこにいるのかも分からないらしい。
「もういい、下がれ」
「ハッ!」
なんのために間者を雇っていると思っているのだ。あの男を生かさず殺さず、この国に入ってこないように監視するためだろう。それなのに、消息不明?裏社会で一番だという男を雇った意味が無い。その場で切り捨てようかと思ったが、そうしてしまってはあの男を殺した罪をなすり付ける相手がいなくなる。
怒りの感情がわきあがり、机を殴る。整えていた髪がはらりと影を落とし、染めていた黒い髪にまじった赤色が鏡に映る。
鏡の中の自分は、黒髪に黒い瞳。しかしその瞳孔は引き絞られることは無い。
そのことがやけに気に障った。
「あの男さえ居なくなれば……」
居なくなればいい。しかし、死なれると、自分の嘘がバレてしまう。だからどうにか生かさず殺さずであの男を縛り付けておく必要があった。
「俺から逃げられると思わないことだ」
男は目を細めて遠く、空を見上げる。空には赤い竜や青い竜が飛び交っていて、男を苛立たせるだけだった。人間以下の竜如きに、男が屈しなければいけないのは、酷く不愉快だ。
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