第28話 今日の晩御飯はどっか美味しいところに食べに行こうぜ②

「サグルさん。こっちは」

「わかってる」


 俺は正面から向かってくる魔物を蹴り殺しながら目的の場所に向かって走る。

 最後の分かれ道を曲がったところで京子が驚いたような顔をする。

 京子も自分のアプリで地図を確認していたから、この先に何があるのかわかったのだろう。

 心なしか、顔色がさっきよりも悪いような気がする。


 そう、この先にあるのは行き止まり、袋小路だ。

 このまま進んでいけば逃げ場がなくなってしまう。


 だが、俺が最初から目指していた場所もそこだった。


 俺は行き止まりまで来て、京子を下ろす。


「まさか、ここで戦うつもりですか!?」

「そのつもりだ。ここなら一方向からしか攻撃されないからな」


 三方が壁ということは敵が来る方向が一方向しかないということだ。

 行きやすい中で一番細い通路にきたので、脇を抜けられるということもほぼないだろう。


 だが、これが一番いい方法だと思う。

 敵の数はおそらく一万くらいになる。


 前休憩中にEランクダンジョン内のモンスターを数えてみてそれくらいの数だった。

 多分この感じだと、ダンジョン中のモンスターが俺たちの方に向かってきているので、今の戦闘は一対一万ということになるだろう。


 多くの敵と戦うとき、一番重要なのは、一度に多くの敵を相手しないことだ。

 相当な実力差があっても一対百だと苦しいが、一対一を百回繰り返すならなんとかなる。

 あとは一万回繰り返すまで疲労で潰れないようにするだけだ。


 ドドドドドという足音が次第に近づいてくる。


「サグルさん」


 京子が不安そうに俺の方を見てくる。


「京子」

「はい」

「多分、全部倒したら五百万以上になるはずだし、今日の晩御飯はどっか美味しいところに食べに行こうぜ」

「え?」


 俺が言ったことが予想外だったのか、虚をつかれたような顔をする。

 そして、おかしそうに笑い出してしまう。


「笑うことないだろ」

「くすくす。そうですね。皇国ホテルの最上階のスカイラウンジはハンバーグが美味しいそうなので、そこに行きましょう」

「それは楽しみだ、な!」


 俺は角から姿を見せた醜兎に向かって駆け出す。


「シッ」

「グギェーー」


 俺はその醜兎を一刀のもとに切り裂く。


「「「グギェーー」」」

「ちっ、次から次へと」


 今度は三匹いっぺんに飛びかかってきた。


「『眼術ガンジュツ・見切り』」


 俺の右目に炎が宿る。

 どう見ても邪気眼ですね。

 本当にありがとうございます。


 だが、このスキルはかなり有用だ。

 視界に映る存在の動きを完全に把握できる。


「シッ」

「ギェ」「ギャ」「ギョ」


 軌道を調整して、一刀でモンスターを屠る。


「グギェギェ」


 攻撃した直後の俺を隙だらけと見たのか、一匹の醜兎が突進を仕掛けてくる。


「隙なんてねぇよ。『風遁・掌雷ショウライ』!」

「ギィ」


 スキルを発動すると、左手が紫電を帯びる。

 俺はその左手をモンスター目掛けて叩きつけた。


「もういっちょ」

「「「ギャ」」」


 返す刀で近くにいたモンスターを真っ二つにする。


(まだこんなにいるのか)


 だが、ちらりと通路の先を見ると、白い絨毯を敷き詰めたように見渡す限り醜兎の群れが広がっていた。


 俺の戦いは始まったばかりだ。


◇◇◇


「すごい」


 京子は目の前で繰り広げられる戦闘から目が離せなかった。

 まるで踊るように戦い続けるサグルはすごいスピードでモンスターを倒していく。

 すでに十回以上支援魔法をかけ直しているのだから、すでに十分以上闘い続けている。

 だが、ただの一度もダメージを負っていない。


 だが、敵はまるでサグルさんの振るう小太刀に吸い込まれるかのように攻撃を受け、そして一撃を受けた醜兎はボフッと軽い音を立てて煙になっていく。


「私も負けてられない」


 京子は自分の杖を強く握り、サグルの背中に視線を送る。

 支援魔法が切れる予兆を見逃さないようにするためだ。


「! 『高加速ハイアクセル』」


 京子は今、サグルにかけられる限り全ての支援魔法を送っている。

 消費MPはかなりのものだ。

 戦闘中もMPは回復しているが、ジリジリと減っていることはなんとなくわかる。

 だから、無駄に早くかけてしまうと、MPが枯渇してしまう。

 かと言って支援が途切れて仕舞えば一撃で複数のモンスターを倒せなくなり、劣勢になってしまう。


 だから、魔法が切れる瞬間に間違いなくかけ直さないといけない。

 当然、ゲームのようにアイコンやカウントダウンのようなものも出ない。


 頼りになるのは見習い聖女になって見えるようになったサグルさんを包む魔力の膜だけ。

 それが薄くなってくればかけ直す。

 それくらいしかできることはない。


「!! 『高強化ハイストレングス』」


 しかも、正しい支援魔法をかけるためには微妙にしか違わない支援魔法ごとの魔力の色を見極める必要がある。


 どの支援魔法が切れそうか瞬時に判断し、正しい魔法をかけ直さないといけない。

 ミスは許されない。


 京子は額から垂れてくる汗を拭うことすらせずにサグルの背中を見つめ続けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

掌雷ショウライ」です。「雷掌イズツシ」ではありません。あと、「千鳥チドリ」でもないです。

技名考えるのって本当に大変ですね。

漢字ふた文字だったら一緒になってもしゃあないと思ってググるのをやめました。

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