第16話:二人の王女と冒険者ギルド
私は今、短めのナイフを片手に殲滅した魔物の群れの解体をしています。正直、結構きついものがあります。動物の骨格などの知識はあるけれども実際に解体したことはないのです。一応狼型という名の通り骨格の作りはほとんど狼などの哺乳類に近かったのだけが救いです。あと、シンプルに動物の内臓や血などが精神的にきているのもあります。いくら、解体自体はできても気持ち悪いものは気持ち悪いのです。
「おー、すごいね。初めてだよね?」
「はい、一応骨格構造などは知っている動物に近かったのでまだ…。」
「まあ、最初はきついよね。私は今では慣れちゃったけど。あ、心臓のあたりにある石を取ってほしいかな、それが魔石だから。」
そう言われて解体中の魔物の心臓あたりをナイフで探ると、何か硬いものにぶつかりました。恐らく、これが魔石なのでしょう。実際に取り出してみると前にフレアが持ってきたものよりも少し小ぶりな物が出てきました。少し光に透かして見ると、光って奇麗に見えました。
「多分これで多分全部の魔物から魔石を取り出せたのかな。」
そうやって作業することしばらくして、どうやら討伐した魔物すべてから魔石を取り出せたようです。
「じゃあ、冒険者ギルドに寄ってから戻ろうか。」
「あの、この魔石を取った残りはどうするんですか…?」
「それの処理のためにギルドに寄るの。」
どうやら、冒険者ギルドに今回収した魔石を持っていってその魔石を回収した場所、もとい、魔物を討伐した場所を伝えると、その素材をよっぽど危険な場所にない限りは回収してもらえるようです。その代わり、その素材の半分くらいは冒険者ギルドに納品しないといけないみたいです。まあ、回収の手間を省けるのなら妥当なのでしょう。魔石自体は自分の物になるようです。大体の人はそのままギルドで換金するようですが、フレアは大体は持ち帰ってるみたいです。
ということで、王都に戻ってきて今は件の冒険者ギルドにいます。フレアにギルドに併設されている酒場?みたいなところに案内されて人だかりから少し離れた位置の席に座るように促されました。
「悪いけどちょっと受付で手続きしてくるからここで待ってて?一応ここまで私が一緒に来てるから話しかけてくるような馬鹿はいないと思うけど来ちゃったら適当に私が戻ってくるまで受け流しといて。」
「は、はあ。わかりました。」
私の返事を聞いてフレアは満足気に頷いたのちに受付とみられる方向に回収した魔石を持って向かいました。
フレアが来るのを待っている間、やることもないので周りの声に耳を澄ましてみます。
「今日は獲物が取れなかったなあ。」
「へい、そこの姉ちゃん、一緒に飲まない?」
「俺はなあ、その魔物にこう、一撃をだな…。」
そんな感じに、今日の成果がなかったことを嘆く声、異性を飲みに誘う声、自らの武勇伝を自慢する声、その他、普段の私の立場、もしくは今までの世界では聞かなかったような声が聞こえてきます。
「ん?受付にいるのってフレア王女殿下だよな?しかも出している魔石の数多くないか?」
「そうだな、二十個はありそうだ。さすが、フレア王女殿下だな。」
「フレア王女殿下は一人であれだけの魔物を狩れてしまうのだからな。王国一の魔法使いといっても過言じゃない。」
「ただ、王女殿下ならもう少しおとなしくしてもらいたいものではあるな。いくら強いといっても何かあったらと思うとすごく不安になるからな。」
その声の中にはフレアのことについての内容も含まれていました。少なくとも、冒険者らしき人々からの評価はかなり高いものみたいです。それと同時に心配もされているようですが。
「しかし、フレア王女殿下は今日は一人じゃなくて、もう一人女の子を連れていたよな。」
「ああ、あそこに座っている。見た目はフレア王女殿下と違って奇麗系だな。お前、声かけてみろよ。」
「やだよ、フレア王女殿下が戻ってきたときに何されるかわからん。」
それと同時にフレアの連れてきた人、つまり私についての話も聞こえてきます。私の外見に関する評価はどうでもいいけれども、フレアについて、どうやらさっきのような評価の裏で地味に冒険者の方々に恐れられている面もあることがわかります。
そんな感じに過ごしていましたが、誰も話しかけてくるようなこともなくフレアが戻ってきました。
「ルナー、お待たせー。手続きは終わったよ。回収は三日以内に終わるからそれ以降にここに来ればいいみたい。」
「おかえりなさい、フレア。じゃあ次にここに来るのは三日後以降ですか?」
「だね、まあそのときは私だけでくればいいかな。で、どう?ここは?」
「ここの雰囲気って意味なら、そうですね、私の知らない雰囲気ですね。少なくとも、私が今まで利用したことのあるような環境とは違います。具体的には、まあ賑やかで騒がしいですね。興味深くはあります。」
「なんかお堅い表現だなあ。」
「あ、あとフレアについてのものもありましたよ?王国一の魔法使いだとか言ってる人とか立場のわりに魔物と率先して戦っているのを心配している人とか、あとなんか恐れている人もいましたね。」
「…最後のについては完全に私が悪いかな。昔、下心満載で話しかけてくる輩を真正面からコテンパンにしたことがあるから。残りについては私がやりたいことやってたら勝手についた評価かな。王国一の魔法使い、と言われるのは嬉しくはあるけどね。」
「は、はあ…。」
そう答えたフレアは少し恥ずかしそうでした。その感情には少し困ったようなものも混ざっています。それを見てるとなんかうらやましく感じてしまいます。
「さて、じゃあ、王城に戻ろうか。」
そう言ってフレアが歩き出したので慌ててついていきます。
「フレア王女殿下!さすがです!」
「体を壊さないようにしてくださいね!」
出口に向かう際にそんな声が聞こえてきます。フレアは手を振って笑いかけています。その声はフレアの冒険者からの評判はかなり高いものだということを改めて認識させてきました。なんとなく、私もこうなりたい、というかなりたくないというか、よくわからないような感情が沸き上がってきました。少しだけですが、やはり羨ましい。そう思わずには居られませんでした。
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