はい!こちら、中学生パトロール隊です!!
華ノ月
第一章 赤い炎は優しい雨に打たれる
第1話
~プロローグ~
「……なんだよ……これ……」
少年が仲の良い父親と一緒にあるものを見ながらまたお喋りをしようと思い、リビングに備え付けてある物入れから一つのあるものを取り出した。そのあるものには沢山の懐かしいものがある。
そうやってそれを見ている時だった。その中の一つに目がいった。テープが剥がれかけていて、そのものの裏に何か紙のようなものが挟まっている。少年は不思議に思い、隠すように挟まっている紙を引き出した。
紙は四つ折りに畳まれていたので、それを広げる。最初に父親の名前が記されていて、どうやら手紙のようだった。
それを読んでいく内に少年の顔からみるみると血の気が引いていく……。
その手紙のような紙には少年にとって信じがたいことが書かれてあった。
そして、その日を境に少年は髪に赤のメッシュを入れて、「ヤンキー」と呼ばれる者になってしまう……。
1.
「フン♪フフフーン♪♪」
制服に身を包み、姿見の大きな鏡の前で中学二年生の
ポニーテールが出来上がり、胸に父がプレゼントしてくれたバッジを付け、腰に手のひらサイズのピコピコハンマーをセットする。そして、首から笛をぶら下げると一呼吸した。
「……よし!!」
「じゃあ、お母さん!行ってくるね!」
キッチンにいる母に声を掛けて、玄関で靴を履く。右手には大きな虫眼鏡を持ち、元気な声をあげる。
「中学生パトロール隊員!結城颯希!いざ出動なのです!!」
玄関まで出てきた母親の
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「いってきます!!」
颯希はそう言うと元気よく家を飛び出していった。
日曜日にもかかわらず、制服に身を包むのは中学生にとって制服が正式な服装だからである。
そして、颯希は日曜日になるとパトロール隊員になって町の安全のために近所をパトロールしていた。
父親が警察署の署長をしており、いつしか警察官の父に憧れて自分も「将来は警察官になりたい!」という夢を持つようになっていく。亡くなった祖父も優秀な警察官で、犯人を特定するための考察に優れた才能を持っていたという話だ。兄である
そして、今に至る……。
鼻歌を歌いながら颯希は近所を練り歩いていた。時々、落ちている空き缶を見つけると近くのごみ箱に捨てたりして清掃活動も行っている。近くにゴミ箱がない時は、ポケットに忍ばせてあるビニール袋にゴミを入れている。お陰でご近所さんからは『ボランティア活動をしている珍しい子』として、ちょっとした有名人になっていた。
「あら!颯希ちゃん!今日もパトロール?」
庭に咲いている花に水をやっているちょっと年配の女性が颯希に声を掛けた。
「こんにちは!おばちゃん!町の平和は私が守るのです!」
颯希はそう言って、笑顔で敬礼のポーズをする。
「頑張ってね!おばちゃん、応援しているよ!……あっ、そうだわ!」
おばちゃんと呼ばれた女性が家に入る。しばらくすると、小さなお菓子を手にいくつか持って出てきた。
「良かったら、お腹が空いた時にでも食べてね」
そう言って、女性はキャラメルを颯希に渡した。持ちやすいように巾着に入れてくれる。颯希はお礼を言って受け取った。
空が晴れ渡り、心地よい風が吹いている。近所にある公園に入り、ちょっと休憩することにした。
ベンチに腰を掛けて一息つく。するとちょっと離れたところに見えるあるものが颯希の目を捕えた。
「……煙?」
でも、火事が起きた時の煙ではない。「なんだろう?」と思い、その煙の方に行ってみる。
煙が出ている所の近くまで来ると、人の気配がした。
颯希は気付かれないように近くまで行くと、首から下げている笛を手にした。
ピイィィィィーーー!!
「うわぁ!!」
突然の笛の音に少年が驚いて声をあげる。
「な……なんだぁ?!」
笛のした方向に少年が顔を向けると、そこには仁王立ちした颯希の姿があった。
「未成年のタバコは違反なのです!!」
颯希は少年が吸っていたタバコを取り上げると、足で踏み潰した。そして、丁寧にその吸殻を持っていたビニール袋の中に入れる。
あまりの突然のことに少年はしばらく呆然としていたが、我に返るといきり立って言葉を発した。
「なんだよ!お前!!」
怒り顔で颯希に乱暴な言葉をぶつける。
「中学生パトロール隊員、結城颯希!違反は見逃さないのです!!」
敬礼のポーズをしながら、颯希が笑顔で自己紹介をする。少年はその颯希の態度に口をあんぐりさせてしまい、言葉が発せない。
「未成年のタバコは法律で禁止されているのです。だから吸っちゃダメなのですよ!」
颯希が少年に顔を近付け、人差し指を立てながら少年を叱る。
「お……お前には関係ないだろ!!」
ようやく少年の口から絞り出すように言葉を発した。
「違反は違反なのです。代わりに……はい!」
颯希はそう言うと巾着から出したお菓子を少年に渡す。
「これ、一つあげるのです!」
少年が掌を見るとそこには『甘~いキャラメル♪』と印字されているお菓子があった。
「……なんだよ、コレ」
「キャラメル!」
「見りゃ分かるわ!」
「すごいであろう!!」
「なんちゃって漫才をしてんじゃねーよ!!」
「あるがたく受け取るとよい!少年A!」
「俺は犯罪者じゃねーよ!!」
いかにも「えっへん!」という感じでキャラメルであることを伝えた颯希に少年が突っ込みのようなものを入れる。漫才かコントか分からないようなものを繰り広げていると、颯希が真面目な顔で言葉を発した。
「君さ、なんの意味でタバコ吸っているのですか?」
「……お前には関係ないだろ」
少年がプイっとそっぽを向く。
「違反だって知っているでしょう?」
颯希がそう言うと、少年がくるっと颯希に顔を向けてポケットからタバコの箱を取り出す。そして、タバコを掲げながら言葉を綴る。
「ヤンキーといえばタバコ。そして、隠れて吸うのがヤンキーのタバコを吸う定義だ!」
「古っ!」
「うるせー!!」
少年の良く分からないヤンキーの定義に颯希は思わず突っ込んでしまう。というか、「本当のヤンキーなら堂々とタバコを吸っていると思うのだが……」と思いつつ、あえてそこは突っ込まない。
「……もしかして、誰かへの当てつけ?」
颯希の言葉に少年の目が見開き、表情が強張っていく。そして、苦々しい口調で少年が言葉を発する。
「……お前なんかに分かるかよ!」
―――パシッ!!
少年はそう吐き捨てると、持っていたタバコの箱を颯希に向けて投げ捨て走り去っていく。
しかし、この出会いがあんな出来事になるとは誰も予想していなかった。
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