彼女の友達に恋をした 〜これは遊びじゃない、本気なんだ!〜

聲無 零

第1話 入学式


 誰かが言った、「初恋は実らない」と。

 でも俺は声を大にして言いたい。「俺はそうは思わない」と。

 何故なら、まだ恋もした事もない僕にとっては夢も希望も無いから。


 


「私、優くんのことが好き。誰よりも優しい優くんが好き!笑った顔も、困った顔も、泣いてる顔も全部好き!私には優くんしか居ないの。優くんが私を好きじゃなくても…優くんが私を見ていなくても!…それでも私は優くんが好きなの!……だから…私と付き合って下さい…」



夕方の誰も居ない教室で桜が頬を紅くして、こちらを真っ直ぐ優を見つめていた。

頬には涙が流れ落ちていた。


桜は学校で1番と言ってもいいほど可愛い子だ。

こんな子に告白されて嬉しくない男は居ないだろう。

優も例に漏れず内心かなり喜んでいた。

そして頭の片隅に、片思い中のあの子を思い浮かべた。

それを振り払うかのように頭を振り、優は口を開いた。



「分かった。付き合おう」



ガタン!誰かが廊下を走る音が聞こえた。

姿は見えなかったが綺麗な黒い髪がチラッと見えた。

走って廊下に出るとその後ろ姿はもう見えなくなっていた。



これは優と桜が出会ってから半年後の出来事だった。






 中学校時代に良い思い出が無いゆうは、猛勉強をして地元では無い進学校を受験をして、見事合格をした。

 そして、中学卒業を機に両親の元を離れ、隣町に住む姉の家に居候をさせてもらう事となった。



 

「優、起きないと遅刻するわよ!」


 

 姉のみおが勢いよく布団をめくり起こしに来た。


 

「あと5分だけ〜」


 

 眠たそうに欠伸をしながら返事をして二度寝をするべく布団を掛け直そうとすると、澪のビンタが飛んできた。


 

「アンタ今日入学式でしょ!初日からそんなんじゃあ友達出来ないわよ!」


 

 顔が赤くなる程のビンタを食らった優は頬を抑えながら起き上がった。

 時計を見ると時刻は7時30分、本来なら7時に起きる予定でアラームをかけたが、どうやら気が付かなったらしい。


 

「何もビンタしなくても良いだろ!」


 

 そう俺が反論をすると澪が無言で手を振りあげた。


 

「ま、待って!神様、仏様、お姉様!起こして頂きありがとうございます!」


 

 そう言いながら優は安い頭を地面に擦り付けながら土下座した。


 

「分かってるなら良いのよ。ハーゲンダッツ5個で許してあげる。」


 

 そう言いながら澪は部屋を出ていった。


 

「ふぅ〜、ゴリラと人間のハーフとし言いようがない乱暴さだな。」


 

 悪態をつきながらベッドから出て洗面所に行き歯を磨いて顔を洗っていると、盛大にお腹が鳴った。


 

「お腹はすいたけど食べてる余裕は無さそうだな。」


 

 家で朝食を取るのは断念して自分の部屋に戻り、新品のパリッとした制服に袖を通して鏡で確認する。


 

「これは中々良いんじゃないか?もしかして俺はイケメンなのでは!?」


 

 そんな独り言をつぶやきながら、ポーズを取っているとアラームが鳴った。

 時刻を見ると8時00分と表示されていた。

 どうやら1時間間違えてアラームをセットしてしまったようだ。

 9時から始業式が始まる為、その15分前に着いて居なければならない。


 

「走って行かないと間に合わないな。」


 

 急いでワックスで髪の毛をセットする。

 手を洗いに洗面所に戻り、居間にあった食パンを口にくわえて、鞄を手に取り玄関を出る。


 

「行ってきます」

「はーい、行ってらいっしゃい」


 

 姉の声を尻目に駅に向かって走り出した。


 

「食パンを食べながら走るなんて何処のラノベだよ」


 

 そんな事を呟きながらスマホに目をやる。

 時刻は8時10分、このまま行けばなんとか間に合いそうだ。

 駅に着いた優は改札を通りホームへと向かう。

 予定通り来た電車に乗り込むと車内はかなり混んでいた。


 

 (毎朝こんなに混むって考えると憂鬱だな)


 

 そんな風に考えていると目的地の駅に着いた。


 

 時刻は8時30分、駅から高校まで10分程あれば行けるから余裕で間に合う。


 

 (良かった、初日から遅刻なんてしたら目も当てられないしな)


 

 周りを見渡すと同じ制服を着た生徒がかなり居る。

 在校生は準備の為1時間早く登校していはずなので、ここに居る生徒は1年生と言う事になる。

 そんな中、一際目立ってる2人組の女の子が居た。

 周りの男子生徒も「あの子達アイドルかな?」「やば、レベル高けー」「あんな子と付き合いたい」とザワついてる。


 クールビューティな雰囲気を纏っている、黒髪ロングでキリッとした顔立ちで、笑ってる顔がとても綺麗な女の子と、アイドルみたいな顔立ちで、金髪美少女と言っても過言では無い、見ていて心が暖かくなるような、そんな女の子がそこに居た。

 桜が舞う木の下を、2人で並んで歩く姿はまるで映画のワンシーンではないのか?と錯覚する。

 それ程2人は絵になっていた。


 

 そうこうしている内に学校に着いた。

 入口で【アルストロメリア】をモチーフにしたコサージュを貰い胸に付けたら体育館へと向かう。

 ちなみに【アルストロメリア】の花言葉は、未来への憧れ。入学式にはピッタリの花だ。


 

 入学式が始まり、校長のお決まりである、長い挨拶が始まった。

 時計を確認すると、かれこれ15分は話し続けている。

 恐らく全国の子供達が校長の長話にうんざりしている事だろう。

 優もその1人だった。さっきから欠伸が止まらない。


 

 (早く終わらないかな·····)


 

 そんな事を思っていると、やっと終わった。


 

「新入生代表挨拶」

「はい」


 

 まるで全てを包み込むかのような、優しい声が聴こえた。


 

「ご紹介に預かりました守屋玲もりやれいです。新緑が日にあざやかに映る季節となるなか··········」


 

 よく見ると朝見かけた黒髪ロングの女の子だった。

 恐らく何処の学校もそうだと思うが新入生代表のスピーチは基本的に入試試験の首席が務める事が多い。

 ここの高校も例に漏れず首席がスピーチをする事になって居る。


 

 (あの子頭が良くて綺麗なんて何処のラブコメヒロインだよ)


 

 そんなアホな事を考えて居ると、いよいよ終盤に差し掛かっていた。


 

「··········日々精進していきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。本日は誠にありがとうございました。新入生代表 守屋玲」



 どうやらスピーチが終わったようだ。

 その後も式は順調に進み、終わりを迎えた。

 それから自分の教室へ移動をして、名前の書いてある席へ着席をした。

 周りを見渡すと先程スピーチをした守屋さんが居た。

 よく見ると、朝見かけた金髪美少女と話している。

 どうやら一緒のクラスの様だ。


 

 (あんな可愛い子達と同じクラスなんてもしかしてワンチャン·····)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る