第16話 落とし穴
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魔物の背の跳躍を続けながら階段をうまく下り地下五階へ降りた。
魔物の暴走は、ひっきりなしに続いている。
途中、何度も通路の交差点を通過したが、どちらの道も魔物でいっぱいになっていた。
別方向から来た魔物の群れ同士が激突し、ぶつかり合いが起きている。
どちらの群れも道を譲らず、お互いに進路を邪魔する相手を押し退けようとしているところに後続が次々と突っ込んできて潰れ合っていた。
暴走ではなく押し合いになっている。
俺にとっては、むしろ、そのほうが動きやすい。
踏んでも潰れそうにない大きめの魔物の背中から背中へ跳躍していく。
地下六階へ降りる階段を塞ぐ扉はおろか、扉があった閉鎖のための壁そのものが外れてなくなっていた。
外れた壁は、その場に倒れ、魔物に踏まれて魔物の足元で粉々に砕けていた。
俺は、くん、と、匂いを嗅いだ。
まったく色っぽい話はなかったが一晩を共に過ごした、
足元の破片の中に匂いはなかった。
さらに奥。
地下六階へ降りる階段の前を通過した先の方向に俺は、
地下六階から階段を上って来た魔物の群れは扉を突き破って地下五階に出ると左右に分かれたのであろう。
すんなり地上への道を見つけた群れもあれば地下五階を遠回りする羽目になった群れもある。
正解の道を見つけられた群れは先へ進めたが、はずれの道を進んだ群れは行き場を失い地下五階の通路という通路に充満した。
地下六階へ降りる階段前を通り過ぎた先は、まさしくそのような、はずれ通路だ。
前にも後ろにも進めなくなった魔物の群れが押し合いへし合い互いに相手の上を乗り越えようとして、もがいていた。
俺は魔物の背中の上を駆け抜けた。
前方からする、
死んだ肉の匂いではない。
生きて動いている発汗を伴った匂いである。
俺は前方に、
地下四階には地下五階へ落ちる落とし穴の罠があった。
地下三階には地下四階へ落ちる落とし穴の罠があった。
恐ろしいことに落とし穴の位置は真上から見て同じ場所だ。
要するに地下三階の落とし穴に落ちると地下四階でとどまらずに地下五階まで落ちてしまうのだ。
ダンジョンで二階層分の違いは致命的だ。
今でこそ休ダンジョンであり観光ダンジョンと化しているこのダンジョンだが、活ダンジョン時代であれば地下三階相当の実力しかない探索者パーティーが、万一、二階下の階層に足を踏み入れた場合は、よほどの幸運が続かない限り生きては戻れないだろう。
だが、落とし穴で二階層も落ちている時点で、そのパーティーは幸運に見放されている。
そもそも床板と梁の厚みで階層と階層を隔てる家とは違いダンジョンの場合は階層と階層を隔てる床面の厚さが、計り知れない。
二階層分の高さを垂直に落ちれば、それだけで大抵は死ぬに違いない。
地下四階から地下五階へ落ちる落とし穴の壁面。
見上げれば通路同様に五メートル四方の広さを持つ四角い穴が二階層分を突き抜けて頭上に開いている。どこかのエントランスホールのようだ。
地下四階の床は厚さ十メートルはありそうだ。
地下四階も地下三階も落とし穴は開いたままである。
休ダンジョンであるため再生は、ほぼ行われない。
それぞれ落とし穴の手前には周囲に人が落ちないための柵が設けられ『危険なダンジョンの落とし穴の罠』について説明書きの看板が立てられていた。
一度作動した落とし穴の仕掛けが活ダンジョンでどのように再生されているのかはわかっていない。
落とし穴に限らず人が見ていない間にいつの間にか再生されて罠が仕掛けなおされているというのが通常のダンジョンで起きている現象だ。
やはり仮称ダンジョンマスターと呼ぶべき存在がダンジョン全体に目を配っていると考えるのが妥当だった。
壁や天井を歩ける魔物が床から壁面を伝って壁に張り付く、
魔物に、
進路を邪魔すれば衝突も辞さないが、ただいるだけならば乗り越えるだけである。
スタンピード中の魔物にとって、
幸い、壁に張り付いているため、
身軽な魔物が、
逆に上の階からは壁や天井を歩けず羽もない魔物たちが次から次へと落下してきては地下五階の床を埋め尽くす魔物にぶつかって、お互いに潰れていた。
どちらも致命傷だ。
恐らく、
扉を抑えながら、どうすれば助かるか考え続けていたのだろう。
「
俺は叫び声を上げると魔物の背中の上を駆け抜け、
勢いをつけて壁を一蹴りして、さらに上に跳ぶ。
跳びつつ、俺は腰の左右から短剣を抜いている。
短剣の刃を床に対して平行になるような向きに握るとダンジョンを構成する石材のブロックとブロックの継ぎ目に突き刺した。
左右の刃は抵抗もなく石壁の隙間に突き刺さった。
刃はミスリルでできている。
さすがにブロックのど真ん中に刺すのは厳しいが隙間部分であれば少しぐらいブロックを欠き削って入り込むだけの鋭さと強さがある。短剣はそれだけの
「掴まれ」
俺は今にも落ちそうな、
爪をひっかけるのではなく柄を握れるようになったことで、
もう一方の短剣の柄は俺が持っている。
「ポチ! どうして、こっただ危ないとこへ来ただ!」
「もちろん、ご主人様をお迎えに、だ」
俺は、
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