298話 いつもの食卓
居間へ行くと、すでにご飯が並んでいた。
そろそろ異世界おせちはおしまいです。普通のメニューが並んでいました。
その中でもとりわけ目を引いたのは、盛られて湯気の出ている米料理……チャーハン!
ネギのいい香りと卵。紛うことなきチャーハン!まだ味はわからないけど!
うおおお!
アキの作ったチャーハン!
俺はテンションがめちゃくちゃ上がった。
ちょっとピョンピョンしちゃった。
今日はお呼ばれしたらしいヤクシもそれを見て、おっという顔になり、俺の頭をぽこぽこした。
「ちゃんとアキに教えたな」
うん。
ヤクシもチャーハンのこと、覚えてくれていたみたいだ。
俺はヤクシにうなずいてから、アキにありがとうをしにいった。配膳中だったので、ギューをしたら「これを持っていって机に並べろ」っておかずの乗った皿を渡されてしまった。
そんなこんなで夕食。
リーダーが「今日はいろいろあったけど、こうして皆と食卓を共にできてうれしい」というようなことを言って、みんなが食べ始めた。
アキのチャーハン!
む、米が前と違うやつを使ってる気がする。
なんか柔らかい?
スプーンに乗せたそれをじっと眺めた。
見た目と匂いはちゃんとチャーハンだ。俺が作ったときより、魚醤を焦がした匂いが薄いかな。やっぱりアキは料理が上手だな。
たっぷり眺めてから、パクンと食いついた。
ジュワッと広がる香辛料とネギの香り、それから鶏の出汁の味。
…………おいしいー!
うおおお!
米が前よりよく出汁を吸ってる!米の品種を変えたのかな。それとも、前は玄米に近いかんじだったから、精米したのかな。パラパラ具合としっとり具合のバランスがいい。出汁の味も前と違う?塩加減が完璧だ。
俺が作ったやつよりうまいぞ。
今日からこれが俺の故郷の味に決定です。
優勝!
俺がゆるゆるな顔になっているのを見て、みんな安心したような表情になった。
「うめえな、これ……今日はお前らは『ゾイロス』に行くとか言ってなかったか」
ヤクシがチャーハンをかき込みつつ、そう言った。
『ゾイロス』って、アキの実家の食堂だよな?行く予定だったのか?知らなかったぞ。
「そうだよ。だけど、今日は浮かれた冒険者たちで満席だろうから、僕らは遠慮することにしたんだ」
リーダーが代表してヤクシに答えた。
『ゾイロス』って冒険者御用達の食堂って言ってたもんな。たしかに、今ごろ王城に行った冒険者たちが宴会してそうだ。
……でもなあ。
たぶん、それは表向きの理由だ。
きっと、俺があんなことを起こしちゃったから、予定変更したんだろうな。元気づけるために俺の故郷の料理作ってくれたんだと思う。
俺だけじゃなくて、みんながんばった。
だから、今日はみんなの好物がちょっとずつある。
スープはリーダーが好きなピリ辛だし、酒と燻製肉はダインが好きだし、野菜を和えたやつはノーヴェの好物、ご主人の好物は……このシューマイみたいな皮に包まれた肉団子かな?
アキはパンをむしゃむしゃしながら難しい顔をしてるから、王城で食べたパンを再現しようとがんばってるのかも。
幻の食材とか豪華な食事ってわけじゃないけど、みんなの『好き』がたくさんある。
いいな、こういう食卓も。
今日は大変な1日だったからな。
みんな、おつかれさまでした。
夕食後、ノーヴェがぶつぶつ言いながら机と睨めっこしてるのを横目に片付けを済ませてお風呂へ。
あー、あったかい……。
今日はガチガチに緊張したから、気が抜けて眠くなってきた。
浴槽に寄りかかって上を見上げる。
天窓から、星がチカチカしてるのがちょっと見えた。王城のお風呂ってどんなのだろう。やっぱりライオンの口からお湯が出てくるやつだろうか。
この街の人たちはお風呂が好きだし、公衆浴場も各区にあるし、王城のお風呂もすごいに違いない。俺が今後入ることはまずないだろうけど。
「あ〜……」
ご主人がおっさん声を出してる。
気持ちはわかる。
湯船に浮かべた木腕に浸かる小ワヌくんも、ふちにアゴを乗せて「あ〜……」って顔してるし。ポメは笑顔で犬かきして楽しそう。
ワヌくんもやらかしの主犯とはいえ、善意でがんばったわけだからな。
おでこを指でそっと撫でてあげた。
耳がぴこぴこしてかわいい。
犬かきしながら寄ってきたポメのおでこもカリカリしてあげた。お湯でスリムになったちっちゃい尻尾が高速でぴろぴろしてる。かわいい。
今度生まれてくるロヴィくんは、お風呂は好きだろうか。あんまり熱いのはダメかな。
お風呂がある文化でよかった。
そういえば、今日会ったラウハーヴァの村には、元日本人と思われる人がいるんだよな。
鉛筆とか紙とか作って、権能が3つもある人。
3つって。森に愛されてるなんてもんじゃない。人間かどうかすらあやしい。俺と境遇がかなり似ているようだし、会ってみたいなあ。しゃべれないもの同士、どうやって会話するのかわからないが。
そういえば、気になったことがあったんだ。
「ご主人」
「なんだ?」
「岩竜って、どんな竜なんですか」
「うん?あの爺さんか……あー、どっかの岩山に引きこもってる大地の守護を司る竜だ。格で言えば、天龍や森の主と同格だが、彼らとは違って人の世に顕現し続けている。いつでも交流が可能という点で特殊な存在だよ」
天龍と同格とは、やはりすごい存在だったか。
「いつでも会えるんですね」
「あまり人前には出てこないが……そういやハシャーンが言ってたな、エルドで岩竜が顕現したって。どういうことかもっと詳しく聞いとくんだったよ」
ハシャーンはまだ王都にいるかもしれないけど、ご主人はきっと会いには行かないだろうなと思った。
あ、そういえばもうひとつ気になったことがあったな。
「ご主人、『カラマハ』って知ってますか」
ご主人に見せてもらった地図、いちばん端がハルディラで、それより北は途切れてしまっていた。
ヤクシの出身地だという、カラマハの文字はどこにもなかったのが少し気になってた。前にヤクシが遊びで描いた地図では、さらに北のほうにそのカラマハがあったんだよな。
ご主人は眉をひそめる。
「聞いたことはあるが……確か、冒険者組合の発祥地だったかな。それがどうしたんだ?」
「『カラマハ』は『ラマカーナ』の字を並べ替えた名前だってききました。あの地図になかったから」
「…………」
長い沈黙があった。
ご主人は困惑していた。
俺、そんなに変なことを言ったか……?それよりも、冒険者組合の発祥地って初耳なんだが。
ずいぶん長く考え込んだあと、ご主人は大きく息を吐いた。
「…………気がつかなかった」
知らなかったみたいです。
ご主人は「じゃあ距離が……でもそれだと計算が…………」とぶつぶつ言いながらノーヴェ化してしまった。
湯船から出て髪を乾かしてる間も、ずっとその調子だった。何かのスイッチを押しちゃったな。
でも、お風呂から出て居間に向かう途中、玄関の前でご主人は立ち止まった。俺は湯上がりでぼんやりしてたから、急に止まったご主人の背中におでこをぶつけた。
どうしたんですか。
「……なあアウル、ちょっとしゃべってみろ」
ご主人がそういうので、口を開いた。
が、声は出なかった。
つまり……近くに誰かいる?
「やっぱりな」
ご主人は俺の様子を見てうなずいてから、おもむろに玄関の扉の取手に手を掛け、ガッと開けた。
そこには、暗闇を背にファンイが立っていた。
うわーー!出たーー!
***
おしらせです。
国名や地名など増えてきましたので、本作の世界地図もどきを作りました。
雑なものですが、近況ノートに掲載しています。
よろしければ位置関係の参考などにどうぞ。
https://kakuyomu.jp/users/ykrpts/news/16818023211938227398
おしらせでした。
***
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