#41 妹の苦言
スマホの着信音で目を覚ました。
クーラー点けずに寝ちゃってたせいで全身汗びっしょりでダルくて、ボーっとした意識のまま首だけ動かして室内を眺めると暗く、窓から月明かりが射し込んでいた。
鳴りやまないスマホに視線を移すと、妹のヒトミからの通話着信だった。
寝転んだまま腕だけ動かして通話アイコンをタップして応答する。
「もしもし……」
『もしもし、兄ちゃん?声変だけど大丈夫?』
「ん、あぁ、今起きたトコだから…」
『そっか寝てたんだ。さっきから何べんも掛けてたんだよ?』
「ごめん…体調悪くて寝てた……で、なんだった?」
『5時頃ミキさんから連絡あって、兄ちゃんと連絡取れなくてバイトにも来てないから、私からも連絡とってみて欲しいってお願いされたの』
あーそういえば、ミキからメッセージとか着信が来てたのに返して無いままだったか。
「お騒がせして悪かった。あとで連絡しとくよ」
『あのね、少しだけミキさんから聞いたんだけど、喧嘩したんだって?』
「……はぁ」
今度は俺の妹にまで話してんのか…
体を起こしてベッドの淵に腰掛けると、スマホを手に握りしめたまま溜息を吐いた。
「ミキ、なんて言ってた?」
『一昨日兄ちゃん怒らせちゃって、昨日のバイトの後で兄ちゃんから話があるってメッセージ貰ってたのにそれに気づけなくて、気付いてから電話掛けたけど全然電話繋がらなくて、メッセージ送っても既読付かなくて、それで今日のバイトの時に話をしようとしたら、バイトも来てないって。 それで兄ちゃんが相当怒ってるんだと思ったらしくて、『私じゃ電話に出てくれないから、ヒトミちゃんから連絡してみて欲しい』って、落ち込んでるみたいだったよ?』
「5時頃に連絡あったの?」
『うん。バイトの直前だったみたいで、少し慌ててた』
時計を確認すると、今は夜の8時過ぎだった。
バイト前の待ち時間だと俺から体調不良の連絡あったことはまだ聞いて無いはずで、俺に連絡取ろうとして今度は電源入ってたのに通話着信にもメッセージにも反応無いから、それでヒトミを頼ったのか。
「お店には体調不良の連絡は入れてあったから、もうこの時間だと流石に聞いてると思うし―――」
『兄ちゃん?二人のことだし私が口出しするの兄ちゃん嫌がるの分かってて敢えて言うけど、ちゃんと話聞いてあげなよ?』
俺が言い訳みたいな説明をし始めると、それに被せる様にヒトミが小言を言い出した。
「いや…話聞いて欲しいのは俺の方なんだけど?」
『それでも!女の子は、ただ話聞いてくれるだけで良いんだよ。それだけで安心出来るの』
なるほど…ヒトミは以前俺達の仲が拗れてた時の自分と重ねているのか。
確かにあの頃、ヒトミの不満とか複雑な心境とか、兄の俺が聞くべきだったんだな。
そうするだけで、ヒトミは頑なにならずに俺との間に壁を作ることも無かったということか。
「そうだね。参考にするよ。ヒトミにまた助けられちゃったな」
『ううん。これくらいは全然大したことないよ』
「ミキが頼ったのがヒトミで良かったよ。 俺も少し目が覚めた」
『なら良かった。 じゃあ電話切るね。兄ちゃんもゆっくり体休めなよ?』
「うん、ありがとな」
『それと、ミキさんに『そっちに戻ったらまた一緒に食事しましょう』って伝えといてね。絶対にだよ?』
「おっけおっけ、伝えとくよ」
『じゃあね、おやすみ』
「おやすみ」
ふぅ…
ヒトミが伝言を絶対に伝えろと強調したのは、逃げずに話し合って仲直りしろってことで、ヒトミにとって俺ってヘタレなイメージがあるんだろうな。
やっぱり、ミキと仲直りしなくちゃだな。
まずはメッセージのチェックするか。
スマホ片手に立ち上がり、メッセージのチェックをしながらキッチンへ行き、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出してゴクゴクとラッパ飲みした。
ヒトミに色々言われたお蔭か、落ち着いた心持ちでメッセージを読むことが出来た。
『ごめん、今メッセージに気が付いた。 今ドコに居るの?』
『もう帰ってるの?電源切ってる?』
『もう遅いから、私も帰るね』
『今お家に着きました。また明日連絡します。 おやすみなさい』
『昨日の夜はごめんなさい。 メッセージ見たら連絡下さい』
『バイトお休みするの?何かあったの? メッセージ見たら連絡下さい。お願いします』
他にも沢山メッセージが来てたが、目についたのはこんな内容だった。
メッセージ見る限りは、もう怒ってはいないのかな。
かなり心配掛けてしまっているようだ。
ミキは今バイト中で、10時過ぎるまではスマホを確認することは出来ないだろうから、それまでに返信すれば良いのだろうけど、なんて返そうか…
メッセージ送る前に、ミキと仲直りする際に何を話すのか考えておかないとな。
今、俺がミキに伝えたいことは…
結婚の話をお父さんに話したのを怒ったことを謝りたい。
俺の実家に帰省中に何者かが部屋に忍びこんだ痕跡に気付いて、気持ちに余裕が無かったことの説明。
最近のミキを我儘に感じてて、持て余し気味であること。
スマホの電源切ってたことの理由も言うべきだろうけど、これは正直に言うべきか迷うな。
あとは、バイトの時に俺の存在無視して新人くんばかり構うのは止めてほしい…っていうのは、嫉妬心まる出しでみっともないか。
他にも言いたいことが色々あるけど、全部言ってしまったら仲直りなんて出来ないだろうし、結局飲み込むしかないんだろうな。
というのを踏まえて、ミキへのメッセージを書いた。
『返事出来なくてゴメン。
昨日謝るつもりだったけどタイミング悪くて謝ること出来なくて、他にも色々あってちょっとナーバスになってスマホの電源切ってた。
それで昨日のバイト帰りに偶然鈴木と山根ミドリに遭遇して、無理矢理鈴木の部屋に連れていかれてベロベロになるまでお酒飲んじゃったせいで今日は二日酔い。
さっきまで寝てて、起きてからメッセージ確認したからこんな時間になってゴメン。
明日、よかったら時間作って欲しい。ミキの都合に合わせるから、連絡待ってます。』
今日は金曜日で明日は土曜日。
バイトは休みなのでいつもならデートの約束をしてミキが泊まりに来るけど、ケンカしてるせいで今週はまだ約束が出来ていなかった為、デートするかは別として、アポは確実に取っておきたかった。
メッセージを送信してからスマホを充電器に繋げ、シャワーを浴びて頭をシャキっとさせるとお腹が空いてきたので冷蔵庫を確認するが、腹の足しになるような物が無かったので、財布持って歩いてコンビニに出かけた。
夜と言えども真夏なので外も蒸し暑くて、折角シャワー浴びて来たのにコンビニに着いた時には首や脇下が汗で濡れてて、クーラーの効いたコンビニに入ると思わず「はぁ~涼しい~」と独り言を零した。
朝から水分以外は口にしておらず、かなりの空腹だったけど胃腸がまだ本調子では無かったので、レトルトのおかゆとスポドリ、あとはプリンと明日の朝飯用にサンドウィッチをカゴに入れてレジで会計しようとして、スマホを家に忘れていることに気が付いた。
店の時計を見ると10時を過ぎていたが、ミキとは今日会う訳じゃないし今夜は明日会う約束さえ取り付ければ問題ないので、慌てることなくそのまま会計を済ませて歩いて帰った。
部屋に戻り、まず最初にクーラーを点けてからスマホをチェックすると、ミキからはまだ着信もメッセージも無かった。
時刻は、もうすぐ10時半。
いつもの俺がミキを自宅まで送っている時なら、そろそろ帰宅している時間だけど、シャワーでも浴びた後にゆっくりメッセージの返信するつもりなのかな?
まさか、ヒトミや俺には心配してると言いつつ、今日も昨日みたいにバイト後に新人くんとのお喋り優先してて、俺のメッセージの確認まだだとか、確認はしたけど返信は後回しとか…。
流石に今夜はそれは無いと信じたいけど、どうなんだろ。
なんとも言えない不安な気持ちになりつつ、キッチンでレトルトのおかゆを温めて食事の準備をしていると、インターホンがピンコーンと鳴った。
こんな時間に誰だ?
鈴木が心配して来てくれたのかな?
でも、それだったら事前に連絡ぐらいくれるよな?
っていうか今日は体調イマイチだし、誰も家にあげたくないんだけどな。
そんなことをアレコレ考えながら玄関扉を開けると、汗だくで「ゼェハァゼェハァ」と肩を上下し息を荒くしたミキが立っていた。
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