#11 彼女に相談
「だって、普通兄妹だったら一番に信用しても良いのに、ヒロくんの話聞いてるとそうでも無いみたいだし、そんな風になるくらいのトラブルでもあったのかな?って思って」
「うーん…、トラブルとはちょっと違うかな。 すれ違い? 嫌ったり憎んでた訳じゃないけど、俺も妹もどんな顔すれば良いのか分からなくて、避ける様にしてたら会話とか無くなっちゃって、俺が高校卒業して家出るまでそんな状態が続いたの」
「じゃあ喧嘩って訳では無いんだ?」
「そうだね。 仲が拗れてたとは思うけど、喧嘩では無かったと思う。 でも今回の件で妹が絡んでたとしたら、実は妹は俺のことずっと憎んでたのかな?って思っちゃって、悩んでるの」
「うーん。今聞いた話だけじゃなくて、もっと他に色々あるのかもだけど、流石にそれくらいでずっと憎んでたり、嫌がらせとかで物盗んだり隠したりするかな? 実家に住んでた時は今回みたいに物が無くなったこととかあったの?」
「実家の頃は、マンガとか無くなってることがちょくちょくあったけど、全部下の妹が犯人だったね。 俺が居る時はちゃんと「借りてくよ」って言うけど、居ない時でも平気で部屋に入って勝手に持って行っちゃうから。 上の妹は、まだ俺に懐いてた頃は、その辺はしっかりしてたから黙って持ってくことは無かったし、下の妹が上の妹にも同じことすると、「勝手に持ってくな!」ってよく怒ってたくらいだね」
「じゃあやっぱり妹さんは違うんじゃないの? 先月下着が無くなったのだって、その頃は妹さんはまだココに来た事ないんでしょ?」
「うん。 でも今週は可能だった。 だから容疑者リストから外せないの」
「うーん…」
ミキは自分のことの様に悩んでくれている様で、眉間に皺を寄せて、難しい表情をしている。
「なんかさ、妹さんが可哀そうになってきた」
「可哀そう?」
「だって、もし妹さんが無関係だった場合、折角お兄ちゃんと仲直り出来たと思ったのに、そのお兄ちゃんは自分のことを泥棒だって疑ってたんだよ? そんなの凄く悲しいし可哀そうじゃん」
そうなんだよな…
だからこそ、ヒトミのことを疑うことに後ろめたさを感じてるし、それはヒトミだけじゃなくて三島や山田に対してもそうだし、ミキに対しても同じだった。
「もういっその事、妹さんにズバッ!って聞いたら? 『お兄ちゃんの靴知らない?』とか軽い感じで聞いてみれば、その反応で犯人かどうか分るんじゃない?」
「いや、でも、それは…」
もし妹が本当に犯人だった場合を考えると、怖い。
そして、何とか穏便に解決したいと考えているので、まずは証拠を押さえてから、落ち着いて説得したいと思っていた。
慎重な俺とは対照的な積極的なミキ。
「そうだ!今から呼んじゃえば? 「ハンバーグ作るから一緒に食べよう!」って、私が話してもいいし」
「イヤそれはダメだ!」
「どうして?」
「それはその…」
「私と妹さんをそんなに会わせたくないの? 折角近くに住んでるのに、それはちょっと悲しいかな」
「そんな風に言われちゃうと、会わせない訳にはいかなくなるじゃん」
「だって、そのつもりで敢えてそう言ってるんだし」
ぶっちゃけ、ミキは弁が立つ。
俺と口論になったり、意見が合わなかったりしても、最終的には毎回俺の方が折れるか、言い負かされる。
俺に対しては、あざとく甘えるだけでなく、口で言い負かしてコントロールしようとするところもある。
だから、ミキが強く何かを主張すれば、俺は不服でも従ってしまうのが常だった。
中高と体育会系の中で揉まれキャプテンしてたくらいだからな、こういう時はミキのが強い。
それに、俺の方が惚れた弱みもあるし。
「分かったよ。 今から来れないか電話してみる」
ヒトミのナンバーをコールし、スマホに向かって話しかけた。
『もしもし、ヒトミ?』
『うん、急にどしたの?』
『あのさ、今日ヒマ?』
『ヒマじゃないけど、用事は無いから時間は空いてるよ』
『それをヒマと言うのでは?』
『で、なに?ヒマじゃないんだから、用件言ってよ』
『おう。今日の夕飯にハンバーグ作るんだけど、食べに来ない?』
『ハンバーグ?なんでまた?』
『…美味しいから?』
『ナニそれ』
『それはその…』
犯人なのかどうかを確かめるのが目的で呼び出すことや、ミキに会わせることに乗り気になれず、どうしても歯切れが悪くなってしまう。
そんな俺の態度に、業を煮やしたミキが俺からスマホを奪い取って勝手に話し始めた。
『もしもし~、私、ヒロキくんとお付き合いしてます佐々木ミキって言います!』
『えええ!!!彼女さん!?』
『うん、そうなの!彼女さんなの! それでね、前々からヒロキくんに妹さんと会わせて欲しいってお願いしててね、折角だから夕飯作って一緒に食事しようって話になったの』
『そ、そうなんですか』
『それで今からどうかな?私、料理にはちょっと自信があるの。それにヒトミちゃんとも仲良くなりたいしね!』
『別に良いですけど…』
『じゃあ決まりね!急に無理言ってごめんね!会えるの楽しみに待ってるからね!』
怒涛の勢いでそこまで話すと、ミキが通話状態のまま「ハイ」と言って俺にスマホを返して来た。
再びスマホに向かって話しかける。
『急にごめん。そういう事だから、よろしくね』
『うん。まぁ私も兄ちゃんがどんな人とお付き合いしてるのか興味あったし、いい機会かもしれないからね。これから準備して行くね』
『うん、気を付けてね』
はぁ
無意識に溜め息が出てしまう。
恋人と家族を会わせるの、凄く気が重い。
俺はこういうのが苦手で、実家時代に妹と気不味くなったくらいだし。
「大丈夫大丈夫。私も居るからね?お兄ちゃん♪」
俺とは対照的に、ミキはご機嫌だ。
はぁ
「そうだ!のんびりしてる場合じゃなかった! 夕飯の準備しなくちゃ!」
「まだ3時前だよ?早すぎない?」
「タネまで作って置いて、焼いたりご飯炊くのは食べる前にするの。準備だけは先にしておいた方が来てからすぐ食事出来るし、ゆっくりお喋りも出来るでしょ?」
「わかった。俺も手伝うよ」
「うん♪」
そう言って二人同時に立ち上がると、ミキは「ん~」と言って両手を広げてハグを要求してきた。
俺が要求に応えて抱きしめ返すと、ハグしたまま顔だけ動かして俺の顔を正面から見つめて「今日はココに来てから盗難事件の話ばかりしてて、まだキスもしてなかったね」と言って、ミキの方からキスしてくれた。
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